約束

ライズは、書類の為を資料を取りに行っていた。今日は、雷が鳴るほどの悪天候である。ライズは、小さくため息を吐いて部屋に入る。すると、セナム殿下が耳を押さえてしゃがみ震えていたのだ。


「……すまない、情けない所を…(雷の音)ひっ…」


表情は、青ざめ尋常ではない何かを感じた。


「取り敢えず、お茶でも…」


離れ様とする、ライズの服の袖を掴み涙目で言う。


「…独りにしないでくれ。」


「……。」


ライズは、無言になり少し考える。そして、ソファーに座らせ隣に座り書類を仕分ける。無言な時間。


「小さい頃、殺人を娯楽とする頭の狂った男に襲われた。そして、私を庇って母は死に。乳母兄妹は、体に大怪我を…消えない傷を作ってしまった。」


ライズは、手を止めて無言で聞いている。


「奴は言った、『雷鳴る雨の日に、必ずお前を殺しに来る。』っとな。その日から、雷は嫌いだ。」


セナムは、両手で顔を隠して呟く。


「…なるほど、覚えておきます。」


「最悪だ、今日は外出するのに…。」


今日は、他国との交流で王子達のお茶会がある。


「ライズ、お願いがあるんだ。」


「何でしょう?」


ライズは、視線を向けるが黙り込むセナム。


「いや、これは卑怯だ…。忘れてくれ。」


強がりな笑顔で、深呼吸をするセナム。


「それを決めるのは、殿下ではありません。」


「た、確かにそうだが…いや、大丈夫だ。」


ピキシ…。ライズは、深いため息を吐き出す。幸いここに、先輩達は居ない。影の者も、話題を聞いて少し離れた場所で聞き耳を立てている。こちらの、表情までは分からないだろう。やれやれである。


ライズは、呆れた雰囲気を隠さず言う。


「とても、モヤモヤするのですが。」


すると、驚いた表情をするセナム。


「その、雷が鳴る雨の日だけで良い。お前が、私を信頼してないのは理解している。だが、雷鳴る雨の日だけは…私を、全力で守ってくれないか?」


さて、これは知ってると思って良いものかな?


「私は、弱いですよ?」


「なら、私の前で死なないでくれ…。」


これは、知らないな。無意識の防衛本能で、直感的に言っている気がする。やれやれ、実はステータスを更新してない僕だけど。Aランク冒険者である。


まあ、SSやSランクが跋扈する我が家基準では弱いんだけど。お父様なんか、Zランクだし。


世界に、3人しか居ないZだよ?


だから、家族視点で僕は弱いわけ…。一般的に、Aランクは強いのだけど。何を勘違いしたか、周りは僕を雑魚だと思い込んでるんだよね。いや、戦闘しなくて良いし楽だから訂正せずに黙ってるんだけどさ。取り敢えず、殿下の切実な願いだし頷いとこ。


「分かりました。」


無表情に戻ると、残念そうな雰囲気の殿下。


「そろそろ、執事と先輩達が来ます。」


「ライズ?」


ライズは、家に伝わる日本刀を装備する。ロイナ家は、初代勇者の血筋だ。その家に産まれた、黒髪の子供にのみ日本刀が渡される。僕には、銀と青の鈴がついている。ウィルは、金と赤い鈴である。


「いつもと、違う武器を装備するのだな。」


「…まあ、約束ですから。」


いつもは、ロングソードを持ってるからね。でも、もしかして気づいてない?気づいてないかぁ…。


得意武器、自分の武器を着けないって事は忠誠心がないって事なのね。何故なら、緊急時に全力を出せないから。それだけ、守る気がないって事なんだよね。騎士家では、そうやって意思表示するんだ。


まあ、うん…。それで良いのか、王族だよね?


「そうだな、死なないでくれ。」


先輩達は、知ってたみたい。無言で驚いてる。ダヨネー、忠誠心とか全く無かったし。うんうん。


でも、僕だって人間だからね。


やっぱり、そういう話は弱いんだよ!


ぶっちゃけ、家の脅威が去ったから少しだけ余裕が出来て情が湧きました。性格的な問題だけど、気になると放置できないの。何とか出来ないかとか、少しでも力になれないか考えてしまう。何でだ…。


アキト…、やっぱり僕は自爆の道を進んでるかも。


まあ、何もなければ今まで通りだ。雨降る雷の日、その日だけ頑張っていれば約束は守れるもの。


結論、その日は襲って来なかった。


第3王子の護衛に、着いていたウィルが驚いた表情をしてた。そうだよね、今は御使の時しか使ってないもの。後で、絶対に言われるな。逃げとこ…。


お城に、入った瞬間に刀からロングソードにする。


「ライズ、約束を守ってくれてありがとう。」


セナムは、嬉しそうに笑う。ライズは、無表情のまま帰ろうとして足を止める。ニコリと笑う、お父様が居た。ウィルー!君、お父様に言ったな!


む、無表情が崩れそう…。


「お父様、お疲れ様です。」


ど、どうにか。逃げなくては…。


「うん、取り敢えず。お茶でもしない?」


「今から、予定があるのですが。」


いきなり、お茶とか何を聞かれるんだろう。


「諜報員に、遅れると伝言を持たせたよ。」


「分かりました。」


そう言って、同じ馬車に乗る。


「ライズ、マナー講師は首にした。もう、君が無表情で居る必要はないよ。君は、本館に戻らないからね。ゆっくり、話したいとは思ってたんだ。ただ、誘うきっかけがなくてね。きっかけが無いと、君は嫌がるだろ?父親として、嫌われたくはない。」


「家族は、大好きですよ。」


すると、嬉しそうなお父様。


「うん、知ってる。」


さて、着いたのは予約必須の超高級カフェ。王族御用達な、品々を提供するカフェである。であるんだけど、福猫商会のグループに入っているお店だ。


「視線を感じるね。」


「気のせいです。」


すると、視線がサッと引く。流石である…。


「そう言えば、ここも福猫商会関係だったね。」


思い出した雰囲気で、微笑みを浮かべるダイナス。


「…それで、用件は?」


「そうだね。いろいろ、あるのだけど…まずは、お茶しよう。取り敢えず、マナー講師はクビにした。それと、執事とメイドの入れ替えもしたんだ。」


だから、何だろうか?えっと、報告だけかな?


「私はね、君に家を継いで欲しいんだ。」


「お断りします。」


即答に、苦笑するダイナス。


「お父様、冗談にしては笑えません。私は、この国の貴族が嫌いです。そんなのと、長く付き合うくらいなら平民に落ちた方がマシです。私が、貴族としての活動をしてないのはご存知だと思いますが。」


「……そう。取り敢えず、理解はした。」


ケーキが届き、無言な時間がくる。


「それにしても、刀を装備してたね。ウィルから聞いて、驚いたのだけど。君にしては、珍しい。」


ライズは、今朝の事を話すとダイナスはニコニコ。


「そう、死なない約束を守る為ね。」


ああ…。本音は、守る為だとバレてるなぁ…。


「ライズ、残り一ヶ月でセナム殿下は君の忠誠を勝ち取れると思う?君、忠誠心が無いよね?」


「さて、何とも。私だって、人ですからね。」


紅茶を飲み、無表情に答える。


「そろそろ、貴族としての事を習わせたいかな。」


お父様?我が儘と言われようと、断ります!


「嫌です。作法やルールは、もう覚えました。必要最低限は、学びましたし必要ありません。」


「ライズ、貴族の勤めは社交もだよ。」


ダイナスは、真剣な雰囲気で言う。


「必要最低限は出席しています。ですが、誰が僕と交流したがるんです?無能で、嫌われ者なのに。」


ライズは、無表情から感情が抜けた様に言う。


「……。」


「必要最低限は、厳守します。しかし、それ以上は望まないでください。私は、この国の貴族が嫌いです。大っ嫌いです。恨みすら、抱いてます。」


その言葉に、ダイナスは静かに頷いた。


「分かった…。思ったより、君の闇は深そうだ。」


「ウィルの方が、社交性も高いし人望もあります。私より、戦闘もSSランクですし有能です。何がそんなに、不満なのでしょうか?分かりませんね。」


ライズは、紅茶を飲む。


「ウィルは、意思が弱いからね。」


そして、馬車で帰るのだが。


「お父様?何故、私も本館に…」


「当主命令、帰って来るように。」


命令って事は、断れないな。仕方ないか…。部屋に引きこもろう。やる事をやれば、文句は言われないはず。荷物、全部が運ばれてる…。片付けよう。


「えっと、あの…ライズ?」


ウィルが、オロオロと来る。


「どうしたの?」


「その、お帰り。」


ライズは、視線を向ける事なく頷く。


「うん、ただいま。」


「……この間、何で誕生日に誘わないの!」


ライズは、手を止め複雑な雰囲気。


「執事に、預けたよ。」


「え?…なるほど、疑ってごめん。」


そう言うと、ドアに向かって歩き振り向く。


「ライズ、後2時間後に夕食だから。」


「うん。要らないって、伝えといて。」


すると、ウィルは少し怒る。


「まさか、引きこもるとかないよね?」


ライズは、答える事なく作業を再開する。


「大丈夫、今日は体調が悪いだけだから。」


その言葉に、近くのメイドや執事が青ざめる。


「大丈夫、そっちじゃないよ。」


ウィルは、意味が分からないのか困惑する。ライズは、現在は9歳…10歳までは、生きられない体なのだから仕方ない。勿論、助けるべく公爵家も全力で動いているが…。良い情報は、出て来ない。


「ちょっと、疲れただけ。環境が変わると、気疲れするでしょ?だから、1人にしてくれる?」


全員が、部屋から去るのだった。

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