商会にて…
取り敢えず、椅子に座って書類仕事をする。そういえば、名前は福猫商会に決まった。招き猫のマークで、とても可愛らしい看板になっている。
「ライズ、チョコレートの試作品が来たぞ。」
アキトは、目を輝かせて言う。ライズは、それを見て思わずクスッと笑う。そして、羽ペンを置く。
「なら、紅茶でもいれようか。」
「あ、俺が入れるからライズさんはそのままで。」
話を聞いていた、転生者のウルド君が笑う。もととと前世で病弱で、入院生活もあり外に出たいと願ってた。しかし、病気の進行が早く手遅れになった。
そう、悲しげに過去にウルド君が言っていた。
福猫商会、メンバー42人。そのうち12人は、迷い人や転移者や召喚者そして転生者である。
迷い人は、神の恩恵も特別な力もない。何か時空の歪みにより、別世界に迷い込んだ者である。
転移者は、何かが原因で違う世界に飛ばされる人。ごく稀に、神様の悪戯だったりして恩恵を持つ。
召喚者は、こちらの世界の者が異世界の人を呼び出した人達である。稀にしか、恩恵を持たない人達。
転生者は、神様によって転生されたり前世の記憶を持って生まれて来た人達。一番数が少ない。うちにも、僕とウルド君とソルーシュ君の3人だけ。神様が言うには、現在はこの3人しか転生者は居ない。
保護も兼ねて、さりげなく神様が導いたらしい。
転生者は、強い力を持つ者が多いから保護というよりは、監視しやすくする為なのではと思ったけど。
「あ、僕も食べたい!」
ソルーシュ君が、目を輝かせて言う。商会に、常に居るのはこの12人である。互いに、異世界人というのを理解しているので、気楽にあちらのノリで笑い合うのだ。全員が、優秀であると言うのもある。
「会長、俺達にも残しておいてくださいよ?」
メンバーの1人が、笑いながら言う。
「無茶を言うな!試作品だっつーの!」
「取り敢えず、1人2つはありそう。たくさん、くれたんだね。後で、感想を皆んな教えてくれる?」
ライズは、ふわりと笑うと全員から返答が来る。そして、少しだけ考える雰囲気である。そして、ひと口サイズのチョコを見てから暢気に呟くのだ。
「2つじゃ足りないかな。マフィン、1つ追加しとこう。昨日、皆んなに1つずつ買ってきたんだ。」
すると、嬉しそうな声が聞こえる。
「うん、それくらいなら大丈夫かも。」
アキトも、頷く。キッチンでは、ウルドとソルーシュが全員分の飲み物の準備をしている。
「ライズさん、少し書類の確認を良いですか?」
「うん、良いけど。何で、皆んな僕に敬語?」
すると、アキト以外の全員が笑う。
「当たり前だろ、副会長なんだし。」
「いや、やらないって言ってるでしょ!」
困った雰囲気で、笑いながら言う。
「おう、だから副会長は空欄になってるだろ?」
アキトは、笑いながら言う。
「僕、貴族の仕事や聖職者の仕事もあるんだから。これ以上は、仕事を増やして欲しくないもの。だから、重要書類ばかり僕の所に来てたのかぁ…。」
ちょっとー!?っと、嫌そうに言うライズ。
「名前だけ、貸して貰えばオケ!どうせ、何かあればお前は全力で助けてくれるんだし。」
アキトが笑えば、周りから笑い声が聞こえる。
「僕、最少年なのだけど…」
ライズは、少しだけ疲れた様に言う。
「見た目はな。魂は、30代だろ?」
「うん、ブラック大企業で13年間も頑張ったのになぁ…。少し、心残りとやり残した事はあるけど。まあ、今幸せならあの苦行もどうでも良いや。」
苦笑すると、全員が優しい微笑みかける。そして、試作品を食べながら感想を言い合う。福猫プレミアムという、ブランドに入れる事となった。原材料、砂糖が高価なので貴族や商人を狙って売りつける。
「美味しい…。はぁ〜…、幸せ過ぎる。」
ライズは、機嫌が良さそうに微笑み呟く。
「お前って、貴族の時と印象が違い過ぎるよな。」
アキトは、暢気にライズを見て言う。
「貴族社会で、素を出すのは危険だからね。」
「そうなんだ。取り敢えず、良い感じだな。」
余り、聞いて欲しくなさそうなライズ。アキトも、それを感じ取り素っ気なく流す。また、この話題が戻らないように、話題を変える事も忘れない。
「個人的に、欲しいくらい美味しい。発売したら、真っ先に買わなければ。これ、予約できないの?というか、購入制限しないとやばいと思うんだ。」
すると、全員が同意する雰囲気である。
「それと、値段設定は?お任せしてる、お店側の利益にもならないといけないし。考える事は、多いかもね。お店のトップと、交渉の場を作るべきかもしれない。アキトともう1人、それと護衛で。」
「ライズは、時間は作れそう?」
アキトは、考える雰囲気で言う。
「いつ行くの?」
「今日連絡して、明日には行こうかなと。」
ライズは、ごめんと苦笑する。
「明日は、学校だし貴族の仕事もある。」
「なら、結果は手紙を送って良いか?」
アキトの言葉に、ライズは苦笑する。
「アキト、家には送らないで。絶対に、僕には届かないから。それほど、家で僕の立場は弱いから。」
無意識に、無表情になるライズに全員が黙る。しかし、アキトは優しく頷くと明るく笑って言う。
「オーケー!じゃあ、俺が届けに行こう!次の日は休みだろ?いろいろ、食べる試作品があるし。」
「食べたい!けど、どれくらいある…待て!」
ライズは、思わず笑って助けを求める視線。
「俺ら、平民なんで貴族視点の感想が欲しい。」
アキトは、口笛を吹きながら言う。
「そういう事なら、仕方ないか。」
「お前って、花より団子だよな。」
アキトが、ニヤけた雰囲気で言う。
「当たり前でしょ?」
何言ってんの?っと、首を傾げるライズ。
「くそっ、見た目と中身のギャップが…」
「黙ってたら、大人しそうなクール系不思議君。」
「喋れば、天然癒し系気遣い上手な食いしん坊。」
周りは、コメントを感情を込めて言う。
「何だよ…。別に、食べるの好きだって良いじゃない。食べ歩き、行きたいけど身分的になぁ…。」
そう言いながら、書類を片付ける。
「んじゃ、明日の試食会を楽しみにしてる!」
「わーい、どんな料理か楽しみ。」
アキトの言葉に、純粋に明るく笑い帰る準備をするライズ。そして、挨拶をして歩き出した。外に出ると、深いため息を吐き出して歩き始める。
「ライズ、今から帰るの?」
ウィルは、馬車を止めて声を掛ける。
「うん、そうだよ。」
「なら、馬車に乗りなよ。僕も、帰る所だし。」
本人は、気づいてないが執事が睨んでいる。
「ごめん、少しだけ考え事があるから。先に帰ってて、寄り道をするかもしれないから。」
やんわりと、断るとウィルは頷いて馬車は去る。ライズは、のんびり歩く。すると、馬車が止まる。
「ライズ様、御迎えに参りました。」
「え?」
ライズは、思わず声をこぼす。お父様の諜報員が、無言で頭を下げて姿を消した。ライズは、乗って帰る事にした。ここから、公爵家までは遠い。
それに、せっかく来てくれたのだ。
彼らの優しさを、無下にするのは良くないだろう。途中で少し、買い物をしてから別れ道で降ろしてもらう。しかし、荷物持ちにノイズも降りる。
「あの、自分で持てるよ?」
「分かってますよ。けど、私の仕事ですから。」
少しだけ、困惑するライズに微笑むノイズだった。
公爵家本館で、窓から馬車から降りたライズを見つめるウィル。その表情は、少しだけ寂しそうだ。
「やっぱり、避けられてるのかな…。」
そう呟く、悲しそうに俯くウィル。周りのメイド、執事は宥める雰囲気で近づいて自分達は味方だと言う。一緒に居た、ノートルは周りの大人を冷たい視線で見ていた。彼は、気づいてしまったから。
諜報員から、家族全員の報告を受け取るダイナス。そして、険しい雰囲気で深いため息を吐き出す。
「なんともまあ、やりたい放題だね。」
「ノートル様以外は、気付いていないかと。」
諜報員は、深刻な雰囲気である。
「早急に、対策をすべきです。」
もう1人の諜報員も、真剣な雰囲気である。
「ライズは、今年もやらないの?」
「その予定はないと。」
ダイナスは、深刻な雰囲気である。
「今回は、主が居るからやると思ったけど。」
「残念ながら、ライズ様はセナム第二王子を主だとは認めてません。なので、難しいのでは?」
その言葉に、ダイナスは納得するのだった。
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