言葉の攻防戦
さて、パーティーが始まった。ウィルが、無言で此方を見てくる。えっと、何かおかしいのかな?
「いつも、それくらい整えれば良いのに。」
別に、意味ないもん。出世したい訳じゃないし、誰かに好印象を与えたい訳でもない。普通でいい。
「善処する。」
視線を逸らして、短く答えれば呆れた雰囲気。
「ライズって、実は面倒くさがりや?」
「かもね。」
そんな事は、実は無いのだけど肯定しておく。その方が、僕にとって都合が良いし言い訳に出来る。
「確かに、ここまで綺麗な姿は初めてだね。」
ノエル兄様が、優しい雰囲気で言う。ベリル兄様、ミッシェル姉様は挨拶回りに行かれてしまった。本当なら、ノエル兄様も行かないと駄目なはず…。お父様は、この縁談に乗り気じゃないんだなぁ。
ノートルは、ポカーンと僕を見ている。
取り敢えず、見苦しいから口を閉じてくれ。公爵家として、この場に居るのだからしっかりしてね。
「ウィル様ぁー!」
例の貴族末娘、ミデブ嬢である。隣で、ウィルが無言で青ざめる。ライズは、落ち着いた視線でそれを見つめ。無言で、少し考え貴族の作り笑顔を作る。
「おはよう、ミデブ嬢。初めましてかな、弟が世話になってるね。兄として、とても感謝してるよ。」
すると、動きを止めてライズを見るミデブ。ノエルは、無言で驚いたが静観する雰囲気である。勿論、ライズの笑顔が社交用なのは全員が理解している。
「ちょっ、ライズ?」
慌てた雰囲気で、勢いよくライズを見る。国王の隣で、お父様の口元が微笑む。どうやら、リムさんは間に合わないみたい。お父様、そんな瞳で僕を見ないでくれますか。国王陛下も、無言だけど楽しんでいますよね?取り敢えず、ウィルを視線で黙らせる事にする。無言で、少し距離を取るウィル。
ノエル兄様、そんな興味深い雰囲気で見ないで。
僕がするのは、一時的な時間稼ぎだ。リムさんが、此方に向かっているのを神様に教えて貰ったから。
「辺境伯令嬢でありながら、この様な場所で走るのは些か行儀がなっていないご様子だね。ご家庭で、マナー等の勉強はしてないのかい?困った、うちのマナー講師はとてもきつい性格だからね。君、うちでマナーを学ぶつもりなら、相当の覚悟がいると思うよ?だって、次期公爵の最有力だもの。妻になるのなら、しっかりマナーは学ばないといけない。」
なるべく、ゆっくりとした口調でいかにも心配という雰囲気を作る。ミデブは、表情を赤らめる。
ウィルは、血の気が引いた雰囲気である。
「なら、私は貴方と結婚する!」
「おや、大切な弟との縁談が進んでいるのに、いきなり本人の前で浮気するとは。実に、不愉快な。」
表情を消して、素っ気なく言う。
「こんばんは、ハイド辺境伯。売国罪を含む、複数の罪で有罪となった。その地位を、強制剥奪する。そして、その罪の重さから死刑を言い渡す。ミデブ嬢は、教会送りとする。以上が、裁決である。」
そう言うと、騎士達が2人を連れて行こうとする。
「嫌よ!私は、教会なんて行かないわ!」
「なら、君も姫殿下を虐めた罪で死刑だね。」
リムは、冷たい声音で言う。
「犯罪者との、縁談なんて認められない。」
お父様は、真剣な雰囲気で言う。ウィルは、ホッとした雰囲気である。ノエルは、ウィルを連れて奥へと戻って行った。ライズは、時計を確認する。
もう、1時間は経過している。帰っても、大丈夫であろう。無言で、無表情なまま歩こうとする。
「お前、セナム殿下に挨拶しないつもりか?」
「私は、正式な部下では有りませんから。」
すると、先輩達は無言で小さく呻いたり苦笑した。
「確かにな、しかし挨拶くらいはしてくれても良いだろ?せっかく、一緒に働く仲間なのだから。」
セナム殿下は、苦笑してから思わずいう。
「セナム第2殿下、挨拶が遅れて申し訳有りませんでした。今日が、殿下にとって良い記念日なります様に。お互い、楽しめる事を願っております。」
貴族として、完璧なマナーで挨拶するライズ。
「お前…。本当に、良い性格をしているな。まったく、そうだな…お互いに良い建国記念日を。それとだ、家に送ってもお前には届かないらしいから。」
そう言って、1枚の手紙を差し出す。ライズは、内心は困った雰囲気であった。断れない…。もし、此処で断ればセナム殿下に傷を付ける事になる。
いや、セナム殿下も性格が悪いと思いますよ。
「これは?」
表情には出さずに、すっとぼける。まあ、正式な部下では無いので断る事も出来なくはない。
「私が主催する、パーティーの招待状だ。」
「殿下、お忘れですか?私の家は、どの派閥にも関係していません。ですので、私は行けません。」
まずは、家の立場を交渉材料に持ってくる。
「勿論、だから仕事仲間として呼んでいる。」
次に、正式な部下じゃないのを持ってくる。
「私は、正式な部下ではないのですが。期限が切れれば、前も言いました通り早急に去る予定です。」
すると、セナム殿下は困った雰囲気で笑う。
「だが、私がお前と仲良くしたいのだ。」
基本的に、王族のパーティーは自分の派閥の強化。協力体制の強化、または情報交換の場所である。だから、信頼関係の無い今…その言葉は痛恨のミス。
「私が来て、暫く経過しますが。殿下達が、私に仕事を与えた事は有りませんでした。ろくに仕事を与えず、仲良くしたいとは理解が出来ません。」
これには、殿下も黙るしかない。勿論、社交の場なので声は小さく言う。周りには、声は聞こえない。
「一応、受け取りますが行きません。」
そう言うと、去ってしまった。セナム殿下は、表情には出さなかったが王族とダイナスには分かった。
「流石は、お前の息子だな。」
国王陛下は、苦笑して言う。
「あの子が、兄弟の中で1番手強いと思うよ。だけど、1度味方にすればとても心強い。あの商会が、なによりの証明じゃない。あの子が、唯一自分を隠さずに伸び伸びと過ごすあの商会が…ね?」
ダイナスの言葉に、国王は苦笑を深める。
「まあ、後数年の命だしな…。」
「…私は、あの子を絶対に死なせない。」
国王の呟きに、ダイナスは真剣に言うのだった。
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