集まりし有能者
今日は、建国記念日である。
面倒だけど、今回のパーティーの欠席は認められない。貴族の義務で、建国祭だけは駄目みたい。全員参加の王命招待状が屋敷に送られて来たのだ。
基本的、一般的な社交パーティーは次男まで参加すれば許されるのに。その他は、基本的に自由参加。
来たければ、来れば良いよって事だね。
お風呂に入って、洋服をどうしようかと思う。パーティーなんて、もうずっと不参加だったしなぁ…。
すると、執事が来る。
「ライズ様、パーティーの準備をしますので。」
そう言うと、ヒョイッとライズを抱える執事。
「え?え?あ、歩ける!自分で歩けるから!」
驚き、困惑した様な慌てた声が出る。
この執事、見た事がない。しかも、僕に触れようとする執事は執事長くらいなのに。待て待て、取り敢えず降ろして。馬車?要らない、歩いて行くよ!?
悪意が無いから、怪我をさせたくはない。
「時間が有りませんので、ご容赦ください。」
「えっと、時間はあるはずだよね?」
まだ、早朝5時である。建国パレードは7時から。社交パーティーは10時から。建国社交は、20時からだし。時間的には、かなり余裕があるはず。
「何を言ってます、今からお風呂に衣装決め。それと、スケジュールの確認。する事は、盛りだくさんでございます。お風呂に、入ってたのは知ってますが入浴剤なしですし。もっと、磨きましょう。」
素晴らしい笑顔で、『大丈夫です、我々にお任せください!』っと微笑む美青年執事。うん、怖いよ!
「い、いや…そんなに、長くは居るつもりな…」
「はい、存じております。では、行きましょう。」
えっと、これは…勘弁して。今まで、貴族としての生活は最低限にして来たの!今更、こういうのは…
「じ、ぶんで入れる!」
逃げる様に、風呂場に急ぐ。そして、鍵を閉めた。
私の名は、ノイズ。戦闘武族セナレンフィア、その族長の息子だ。とても珍しい部族で、その中でもオッドアイを持つ者が特に強い力を持っている。
権力に全く縛られず、富も栄光も欲せず誰にも傅かない。最強の戦闘部族でありながら、奢ることも鍛錬を怠る事もない。そんな、特殊な立場である。私も、青と赤の瞳を待つオッドアイだ。そして、いろんな王族や貴族から勧誘を受けていた。
そんなある日、逆ギレした貴族が俺達が使う井戸に毒を入れた。残念ながら、私達は毒に耐性が全くなかった。しかも、即死の毒ではなかったのだ。
毒に苦しみ、うずくまる女や子供達そして老人…。
そんな時、あの方が現れた。神の御使様だ。御使様は、子供と老人を優先して解毒し、最終的に全ての仲間を助けてくださった。もはや、感謝しかない。
神は、我らを見捨てなかった。
最後に、井戸の水も飲めるようにして。まるで、何も無かったかの様に去って行った。残念ながら。
けど、子供達が言うのです。神の御使様は、怯える自分達を見て仮面を外し、優しく微笑み励ましてくださったと。綺麗な黒髪で、自分達とそう変わらない年齢。落ち着いた雰囲気で、穏やかな人だと。
この国で、黒髪はロイナ公爵家しか生まれない。
魔法で、子供達に記憶を見せてもらった。族長の判断は、とても早かった。私も、異議はない。
ロイナ公爵は、とても驚いていた。
さりげない会話で、御使様は自分の正体を家族にも隠している事が分かった。しかし、少し困った事がある。どうやら、御使様は双子の様なのだ。
いったい、どっちが御使様なんだ…。
「取り敢えず、君には双子の兄であるライズをお願いしようかな。彼には、執事もメイドも居ない。」
「いったい、何故でしょう?」
ここは、公爵家。執事やメイドの質は、ピカイチである。もしや、ライズとかいう奴が何かしたのか。
「彼らも、人だからね。出世してる人を、主人にしたいし。あわよくば、有望株には唾をつけたい。伴侶になりたいと、欲望するものだよ。ライズは、三男だしステータス更新をしてない。だから、出世は不可能。有望株にも、全くなり得ないのさ。」
それで、察した。ダイナス様は、静かに怒る。それ程に、良い子なのだろう。取り敢えず、明日から働く事になった。仕事は、今日のうちに全て覚えた。
そして、部屋に入って驚く少年に当たりを引いたと感じて、笑顔を浮かべる。とても、可愛いらしい。
貴族として、余り過ごされていない様子である。
「さて、まずは信用を勝ち取らなければ。」
元医神で、力を失い人に落ちた青年シルバ。失われた帝国で、暗殺を極めた伝説の暗殺者モル。
どうやら、彼等は正体を隠してやって来た様だ。
目的は、分からないが。悪意は、微塵も感じられない。これは、とても楽しくなりそうである。
「ですね。それにしても、可愛いらしい。」
シルバは、微笑んでいたが。
「彼が、長生きできる可能性は低いですが。」
そうなのだ。ライズ様は、ステータスを更新していない。その場合、最長生存記録は10歳である。
ライズ様は、現在8歳。
あと最長2年で、死んでしまうのだ。
まあ、そんな事はさせないが。どうにかして、この2年で解決策を絶対に見つけなければ。決意する。
「私も、可能な限り情報を集めて参ります。」
互いに頷き合い、ライズ様が出て来るのを待ちます
ライズ様は、とても嫌そうにスケジュールを見てます。そして、自分には執事やメイドは不要だと言うのです。仕事を無くしたら、路頭に迷うと言うと本館に戻られる時だけ対応すれば良いと言われます。
どうしても、私達を側に置きたくない様です。
それは、御使様として居られたら困るのか。はたまた、私達が前の執事やメイドと同じと見られているのか。さてさて、どういうことですかね。
「取り敢えず、僕には勿体ないと思う。」
無表情で、落ち着いた声音。
「それに、僕は爵位を返上する予定なんだ。」
爵位返上しても、公爵家三男の肩書きは消えませんよ?勿論、権力的には無いようなものになります。
「しかし、お世話係は必要かと。」
「いつかは、家名を捨てて平民に落ちる予定。」
しかしながら、それは無理では?あの、公爵様ですよ?家族大好きで、仕事中でも家に帰りたいとぼやく事で有名な。家族思いで、有名な公爵様ですよ?
家を出るのは許しても、お家と縁を切ろうとするのは全力で阻止すると思われますが。絶対に…。
というか、そんな事を言おうものなら泣きそう。
いや、あの公爵様ですから絶対に泣くでしょうね。ご兄弟も、必死に引き止めるでしょうし。
ライズ様は、家族と離れ過ぎた様です。
家族に対して、愛が薄い気がします。双子の弟でさえ、避けている雰囲気ですし。もう1人の、弟には無関心な態度。ふむ、これは大変そうです。
結論、この方は自分を大切に出来ない人だ。
私達を置かないのも、私達の未来を心配しての事でしょう。子供ながら、壊れていると思う。
しかし、だからこそ私達が守らなければ…。
気づけば、2人と視線が合う。どうやら、概ね見解は一致している様だ。さて、取り敢えず今は時間が余りない。時間が出来てから、じっくりお話しすると致しましょう。その時は、ご覚悟ください。
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