匿名依頼
さてと、まずはウィルの本心を聞きたいな。縁談相手は、例の貴族の末娘で簡単に言えばデブで不細工で性格が悪く、我儘で男好きで食いしん坊だ。
ウィルは、いつものメンバーと一緒に居た。
「ウィル、縁談を受けるんだって?」
すると、いつものメンバーが怒りに怒鳴って来る。ウィルの顔色は、とても悪くて死んだ様な瞳だ。
「そうだよ。」
「そう、おめでとう。」
すると、周りは怒りの視線を向ける。
「でっ、本当に結婚したいの?」
ライズは、落ち着いた雰囲気である。
「そんな訳、ないでしょう!でも、絶対的で優位な立場があっちに有るんだから。僕が、家族を守らないと…。きっと、ライズには分からないよね。」
感情的に、叫ぶウィルにライズは無言になる。
まあ、ウィルは知らないからね。ずっと、一人で僕が戦ってきた事実なんて。でも、そんな風に言われると悲しいな。けど、本心は聞けたし充分かな。
「そうだね。じゃあ、僕は此処で失礼するよ。」
少しだけ、悲しそうな声音に驚くウィル。そこで、自分の失言に気が付いてライズに手を伸ばす。しかし、その手は空を切り届く事はなかった。
周りは、放っておけと散々に言っている。
「お前、最低だな。どう見ても、お前を心配して本心を聞こうとしてただけだろ。それに、苦しんでいるのが、お前だけだと思ってんの?酷くない?」
彼は、王家に使える諜報員だから知っていた。
「マルク、どういう事なの?」
ウィルは、驚いてからマルクを見る。
「教えない。今のお前が、知る必要がないから。」
そう言うと、素早くその場から姿を消した。
それを手に入れたのは、本当に偶然であった。指名手配犯の荷物中に例の貴族の犯罪の証拠が入ってたのだ。脅して、大金を貰う予定だったらしい。
「有効に、使わせて貰おうかな。」
ライズは、急いで王宮のとある場所へ行く。
その昔、この国ではサリヤムス王が君臨していた。とても横暴で、女好きで散財の激しい王だったらしい。そんな王から、民を守り救おうとした人物がローハイン公爵であった。今の王家、そのご先祖様である。しかし、サリヤムスは民には好かれなかったが貴族達には好かれていた。という訳で、貴族の反乱を恐れたローハインは当時の末の王子だけを残して処刑した。その、王子の末裔が例の貴族だ。
事あるごとに、歴史を持ち出しては王家を邪魔する
では何故、サリヤムス王が負けたのか…。それは、ローハインが異世界で言う裁判所を味方につけたからである。そういう、役職を代々受け継ぎ腐敗する事なく君臨する権力者。国王すら、裁ける貴族だ。
「おや、珍しい人が来ましたね。」
「例の貴族が、弟を脅して結婚を強要したので。」
すると、男は真剣な表情である。そして、ライズの瞳を暫く見てから突然に優しく微笑む。彼は、目を合わせる事で心を読める。別に、見られて困る事はない。寧ろ、見せる事で協力してくれるのであれば幾らでも見せる。やましい事は、してないのだし。
「なるほど、その歳で強い子ですね。」
座る様に言われ、座って男の反応を待つ。
「さて、弟を救いたいのは分かりました。しかし、君の発言と弟君の発言があったとしても、正直に言えば勝ち目は有りませんよ。どうするんですか?」
ライズは、悪事の証拠と入手した経緯を話した。そして、この書類を利用して家宅捜索を強行して欲しい事。悪事の書類の隠し場所、金庫の暗証番号など指名手配犯から聞いた情報を真剣に教える。
「…なるほど。」
ライズは、キョトンとその男を見る。
「いや、噂なんて当てにならないなと思っただけだよ。こんなに必死に、家族を守ろうと動いて。そして、今までも恐らく自分を犠牲に守ってきた。」
先程の仕事口調ではなく、彼の本来の口調なのだろう。その声音は、とても優しく紳士的だった。
「……黙秘します。」
「それ、答えになってるよ。」
笑いながら、素早くペンを動かすリム裁判長。
「良いよ、騎士団に依頼して家宅捜索しよう。上手く行けば、奴らを裁く事が出来そうだ。それは、私としてもかなり喜ばしい事だから感謝するよ。」
「それは、良かったです。」
少しだけ、ホッとしてからお金を取り出す。
「リムさん、この依頼は匿名でお願いしたいのですが。騎士団への、依頼費用と口止め料を込みでの金額を教えてください。もし、依頼者が僕だとバレれば他の貴族が黙ってないでしょうから。」
何故?っと、首を傾げるリムに説明する。
「いや、黙ると思うよ。」
「無能のレッテルを、貼られている方が僕にとって都合が良いんです。では、お願いしますね。」
すると、リムは紙をライズに渡す。魔法紙の契約書である。ライズは、しっかり契約内容を確認してから無言で頷く。リムは、しっかりしてると笑う。
ライズは、サインをすると一括で支払った。
リムは、一括で払われるとは思わず目を丸くする。
そして、支払われたので魔法紙の契約書は燃える。ライズは、どうやってお金を貯めたのか教える。商会に、投資しながらも働き。冒険者としても、忙しく働いている事を。リムは、降参するのだった。
「狡賢い人だ…。」
ライズは、ため息をついて呟く。
契約書が燃えた以上、リムは他人にライズの事を話す事が出来ない。出来れば、優秀な貴族には抜けて欲しくないリムだったが。全て、ライズに見透かされて対策までされてしまった。笑えてしまう。
まさか、自分が読み負けるとは思わなかったのだ。
「まあ、駆け引きに負けた私が悪いね。」
「引き止めるのは、無駄です。僕の目的は、平民に落ちて地道にのんびりと過ごす事なんですから。」
小さく笑い、悪戯っぽい雰囲気で言う。リムは、無言で驚いてから諦めた雰囲気で優しく微笑む。
「それで、君が笑顔になるなら良いかもね。」
「では、お邪魔しました。」
ライズは、鞄を持ってから部屋を去る。
「まったく、ロイナ公爵家の三男か…。まさか、あそこまで聡明で頭の回転が速いとはね。こりゃ、逃したら大きな損失だ。王家も、大変だよね。」
実は、リムは公爵家と王家でのやり取りを知っている。立ち合い人として、呼ばれていたからだ。
「さてさて、色付けて払ってくれたし頑張るか。正直な話、部下達も忙しくなるから多めに払ってくれるのはありがたい。しっかりやらないとね。」
しっかり、僕達の仕事を理解した上での、さりげない優しさかな。本当、しっかりしてる。
リムは、呼び鈴で部下を呼び動き出したのだった。
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