見習い商人アキト
さてと、薬草は集め終わったし。帰ろうかな…。
そういえば、昨日にお父様からお小遣いを貰った。なんでも、毎月に兄弟全員に渡しているものなのだとか。僕に、執事やメイドが居ないので僕に渡すと言われた。本心で、面倒だなぁ…。と思う。
かなりの大金である。これは、自由に使っても良いとは流石は公爵家だと思う。けど、これってお茶会とか人付き合い用のお金だよね。困ったなぁ…。
まあ、貯金一択だよね。うん。
しかも、渡せてなかった分も入ってるらしい。何でも、義務なのだとか言いながら渡して来た。
取り敢えず、帰ろうかな…。
「すまん、道を尋ねたいんだが?」
「えっと、何処に行きたいのかな。」
なるべく、気遣う雰囲気を出す。
「街に行きたい。護衛が、魔物にやられてな。」
なるほど、それは大変だ。
「なら、僕が案内するよ。」
「ありがとう。俺は、アキト!見習い商人だ。」
アキト…。まるで、日本人みたいな名前だなぁ。
「僕は、ライズ。駆け出しの冒険者だよ。」
「ふーん…、お前さ日本人?」
真剣な瞳で、ライズを見てから言うアキト。
「アキトもなの?」
そう言うと、アキトは驚き嬉しそうに笑う。
「おう。俺は、迷い人だな。入学式が終わって、森に遊びに入ったらこの世界に迷い込んだ。」
そう、自分の事を話してくれた。
「迷い人…。それは、大変だね。僕は、転生者なんだけど。前世は、〇〇社で働いてたんだ。」
「めっちゃ、大企業じゃん!じゃあ、商売についても詳しいのか?俺、拾ってくれた人に恩を返したくてさ。大商人になる為、修行中なんだよ!」
本音を言うと、前世の事は思い出したくない。けれど、迷い人は神の恩恵はおろか特別な力を持ち合わせていない。放置するのは、御使として無理だ。
「まあ、僕に出来る範囲なら手伝うよ。」
自然と笑顔が浮かんだ。アキトは、惚けた様にライズを見てたが我に返って嬉しそうに笑った。
「じゃあ、よろしくなライズの旦那!」
それから、暇になってはアキトに会っていた。アキトは優秀で、僅か数ヶ月で大商人に登り詰めた。
「困った、商会を建てようにも資金が…。」
ふむ、それは困ったね。この世界の金貸しは、暴利を貪る悪どい奴らばかりだ。このままでは、アキトが食い物にされかねない。幸い、お金はあるし。
「アキト、僕は君の才能に期待して先行投資する事にするよ。もし、商会が成功したら少しずつ返してくれれば良いし。ここで、君の才能を潰すのは惜しいからね。君なら、簡単に返せるさ。」
そう言って、大金をアキトに渡した。
「ライズ…、お前は何者だ?」
「ロイナ公爵家の無能な三男だよ。」
すると、アキトは驚き固まる。しかし、落ち着いた雰囲気でライズの隣に座る。そして、優しく言う。
「無能…ね。そう、演じなければならない立場なのかな。お前も、苦労してたんだな。ありがとう、この仮りは全力で返して行くからよろしくな。」
ライズは、無言で驚いてから小さく頷くのだった。
ライズは、いつも通りに雑用をしていた。すると、アキトが部屋に入って来たのだ。商品の請求書、それと納品書や発注書を置いて商談を始めたのだ。
「さて、請求書を渡す前に…ライズ、久しぶり。」
その言葉に、第二王子だけでなく4人も反応する。
「やあ…。ちょっ、何か怒ってない?」
ライズは、少しだけ焦った雰囲気で言う。
「お前、いつになったら取りに来るの?」
ズンズンと、近づいてから満面の笑顔。
「うーん…、忙しいから暫くは無理かなぁー。」
明後日の方向を見て、視線を逸らすライズ。
「あのな、法律で決められてんの。」
「なら、商会に寄付するよ。」
すると、深いため息を吐き出すアキト。
「第二王子に、仕えてたんだな。」
考える雰囲気で、ライズを見る。
「少しだけ違うかな。」
その言葉に、第二王子セナムは無言でペンを置く。
「現在の僕は、見習いみたいなもので仮の部下なわけ。簡単な話、正式な部下じゃないんだよね。」
「でも、仮でも部下なんだよな?なら、お前が取りに来ない売り上げの数%と提案費。第二王子のお支払いに、使うからな。そうすれば、お前の評価になるし。それと、たまには商会に顔を出せよな。」
そう言うと、素早く手続きをしてしまう。
「これでよし。」
「アキト、ありがとう。」
ライズは、控えめに微笑む。その場の全員が、固まった。アキトは、慣れているのか頷くと去る。
ライズは、無表情に戻り黙々とお茶を淹れる。
「お前も、あんな風に笑えたのだな。」
第二王子セナムは、優しく笑うと言う。
「まあ、気が合うので…。」
「支払いの件、しっかり評価しておく。ライズ、支払いの件は本当に良かったのか?大金だぞ?」
セナムは、会話をしようと優しく話す。
「はい、大丈夫です。」
たんたんと、素っ気なく答えるライズ。
「…それにしても、少しだけ傷ついたな。お前が私の事を、上司だと認めていないとはな…。」
「どうせ、期間が切れたら切れる縁ですから。」
手を止めて、先輩達を見つめセナムを最後に見る。
「ふむ…、確かにそうだが。少しだけ、妬いても良いだろか?私は、別にお前が嫌いではないし、仲良くしたいと思っている。ライズ、駄目だろうか?」
第二王子セナムは、困った様に笑うと首を傾げる。
「意味が分かりません。」
そう言って、立ち上がると帰る準備をする。
「時間ですので、失礼します。」
駄目だ、絆されてはいけない。もし、僕が正式に部下になればセナム第二王子に迷惑をかけてしまう。それだけは、避けなければいけない。大丈夫、奴らはまだ動いていないし、きっと大丈夫だから。
「そう言えば、お前の弟ウィルだったか。縁談を受けると、噂になってたな。ライズ?どうした?」
「大人しいと思ったら、強引な方法で来たか。」
ライズから溢れた、低い声音に驚くセナム。
「まあ、良いです。お疲れ様でした。」
そう言うと、帰ってしまうのだった。
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