貴族のお仕事

さて、呼び出されてソファーに座る。出されたものに、触る事すらしない僕に父親ダイナスは苦笑。


「少し、お茶しながら話そうか。」


いったい、何の話だろうか?取り敢えず、ジュースだけでもいただこう。何も口につけないのは、良くない事だし。面倒事の気配がするなぁ…。


「ライズ、国王陛下から君宛の手紙だ。」


やっぱり。取り敢えず、読んでみる。


ダイナスは、真剣な雰囲気でライズを見ていた。そして、無言で頷き手紙を閉じたライズに言う。


「やっぱり、読めるんだね。」


「……。」


そう、普通ならば読めない文字が混ざっている。ライズは、嘘を付くか迷ってやめた。どうせ、視線の動きで読めるのはバレているだろう。無言で頷く。


「ライズ、国王陛下は君に第二王子に仕える様に命じている。王命だけど、拒否権はあるよ。」


これは…。この件、お父様も1枚噛んでるな。


「お父様、僕は家を出たいと言ったのですが。」


すると、無言で驚くダイナス。部屋に居た、執事長も無言で驚いてから思わず笑ってしまう。


「それは、したくない。」


「お父様、何を言ってるか分かってますか?」


少しだけ、困惑した雰囲気の僕に微笑むお父様。


「確かに、ライズの考えは貴族らしい、楽で非常に賢い方法だよ。でもね、私にとって君も大切な家族だって事さ。だから、認めることは出来ない。」


深いため息を吐き出して、苦悩の表情で言う。


「家の為じゃなく、僕が貴族でありたくないだけです。ただでさえ、僕の噂のせいで迷惑をかけ…」


話の途中で、ダイナスはライズを抱きしめる。


「私は、知ってる。君が笑わなくなる程、必死に家族に心配を掛けない様に頑張っている事を。ウィルの病気が、悪化しない様に何を言われても側に居てくれた事。例の貴族が、この家の血筋を取り入れる為に、弟達に近づくのを防いだり回避したり。」


その声は、掠れていて本当に不甲斐なく思っているのだと伝わる声だった。ライズは、思わず固まる。


「武術が出来ない分、必死に勉強していた事も。そのきっかけも、兄達が他の人に笑われてたのを見たから。しっかり、黙らせる事も成功させてたね。」


無意識の涙に、父親がハンカチをくれた。


「声を出して、泣かない程だったなんて。私は、父親失格だな。だからこそ、今度こそ守りたい。勿論だけど、私はライズを縛るつまりはない。言うなれば、お試しに仕えないかって話だよ。ライズの方法は、言わば本当にどうしようもない時の最終手段だからね。もう一度、私に機会をくれるかい?」


ライズは、迷う表情をしてから頷く。


「ありがとう、ライズ。家を出るとしても、このまま放り出したくはない私の我儘なんだけど。」


クスッと笑い、無言のライズにお菓子をすすめる。


結局、ライズはすすめられたケーキだけ食べる。しかし、ダイナスは優しくそれを見守っていた。


「取り敢えず、お試しだから気楽にね。」


そう言って、無言で頷くライズを見送るのだった。ライズが去った後、ダイナスは深刻な表情。


「この件、私も1枚噛んでる事をあっさり見抜いたね。あの歳で、どれだけ勉強したら…。怖かっただろうに、本当に…本当に私は不甲斐ない。」


執事長は、紅茶を置く。


「良いのですか?間違いなく、ライズ様は優秀ですよ。王家が、手放すとは思えないのですが。」


すると、紅茶を飲んでからダイナスは言う。


「実は、そういう約束をしてきた。欲しいのなら、権力なしに仕えさせたいと思わせてみろと。」


すると、執事長は無言で頷いた。公爵が気付いたのだ、王家がライズの才能に気づかないはずがない。


なるほど、大変ですねライズ様も。


執事長は、屋敷を出て行くライズの背中を見つめ、心配そうな雰囲気で思うのであった。



とある部屋にて、この国の第二王子は悩んでいた。王位継承権を放棄し、このまま領地経営をすると思っていたが。王太子に、補佐役を任されたのだ。そうなると、部下が必要な訳である。現在、部下は4人だ。そして、手もとの書類を見つめる。


「ライズ•ロイナか…。」


「余り、良い評判のない双子の兄ですね。」


メガネを掛け直し、真剣に言うシャノメ。


「ガキの癖に、娼館に行ったり訓練をサボったりしてるらしいな。何で、そんな厄介者が?」


不愉快そうに、顔を顰めていうセド。


「どうせ、何もさせないし何も教えるつもりはないからな。そのうち、どっかに行くだろう。」


呟く様に嗤って、仕事を続けるマードク。


「取り敢えず、1日座ってて貰いますか。」


冷たい雰囲気で、本を抱えるラグネ。


しかし、第二王子セナムは無言で書類を見つめる。基本的に、セナムは見たものしか信じないと決めているのだ。貴族社会において、噂が捻じ曲がったり歪められるのは日常的だ。だから、部下の態度に少しだけ悲しみと苛立ちを感じてしまう。


そして、次の日に現れたライズを見て驚く。


人形の様な無表情、感情の見えない瞳。落ち着いた雰囲気で、嫌がらせにも特に反応しない。何もさせないなら、勝手に掃除やお茶を入れる。何も教えないなら、自分の出来る範囲で邪魔にならない様に動く。理不尽な怒りを、向けられても謝り。追い出されても、無言で時間潰しをして帰りに挨拶する。


「噂とは、当てにならないものだな。」


セナムの言葉に、罰の悪そうな4人。


次の日から、部屋に入ると掃除してあり。書類の仕分がされていて、書類を書くのに必要資料が置かれていた。お茶菓子も、用意されていて空気の入れ替えもしてある。湯も沸いており、いつでも飲み物が作れる様になっていた。しかし、ライズは居ない。


「あいつ、座ってろと言ったのに…。」


「君が追い出すからだろ?」


セナムは、無言で考える。帰りの時間になる。


「それでは、お先に失礼します。」


ライズは、それだけ言うと去ろうとする。


「待て、ライズ。お前、此処に来ず何してる。」


「図書室で、読書をしてます。」


しかし、聞きたいのはこれじゃない。


「お前、何で昼ご飯を食べてない。」


その言葉に、キョトンとする。


「お腹が空いていないので。まあ、何もしてないですからね。申し訳ありません、先輩達にはご心配をおかけしました。気にせず、お過ごしください。」


そう言うと、帰ってしまうのだった。

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