第26話 精神攻撃が2回攻撃で洗体攻撃のオカマさんは好きですか?

 正直に言って、今の俺は誰にも負ける気がしなかった。


 信念は不可能を可能にするっ! と言わんばかりに、人体の限界を超えた俺のサーブは他の追随を許すどころか、手に触れることすら許すこと叶わず、圧倒的余裕をもって準々決勝、準決勝を勝ち上がっていた。


 とくに準決勝の相手は、ビーチバレー経験者であるにも関わらず、10対0のストレート勝ちである。


 これには流石の俺も、己の潜在能力ポテンシャルの高さにドン引きした。


 おそらく、おっぱいと人生が掛かっているため、超1流のアスリートのみが到達することが出来る『ゾーン』に入っていたのだろう。


 そして、あれよあれよと言う間に、気がつけば決勝戦。


 俺と古羊は、ビーチバレー舞台コートへと降り立っていた。



「流石はあたしの未来のマイ・ダーリンね♪ まさか、本当にココまで来ちゃうなんて、ビックリしちゃった」

「やはり、最後に立ちふさがるのは喧嘩狼この男でしたね、隊長」



 ネットの向こう側で嬉しそうに微笑むオカマ姉さんと、苦々しい顔で俺を睨んでくる黒髪アフロのタケルくん。


 よ、よかった! 


 あの喫茶店の惨劇から、無事メンタルが回復したんだねタケルくん!



「それじゃ、約束通り、この試合に勝ったらダーリンの『全て』をいただくわね♪ まず手始めに、今日の夜、一緒にお風呂に入りましょうか? あたしが身体の隅々まで洗ってあげるわ。もちろん、洗うだけじゃ済まないケド☆」



 ニッチャリ……と、この世の邪悪を煮詰めたような笑みを浮かべるオカマ姉さん。


 ねぇみんな? 精神攻撃が2回攻撃で洗体せんたい攻撃のオカマさんは好きですか?



「うふふ、優勝した後が楽しみだわぁっ! ――って、あら?」



 俺が杏仁豆腐のようにプルプル震えていると、あの年中無休でバイブモードのなんちゃってギャルが、オカマ姉さんの視線を遮るように、俺の前へと身を滑りこませてきた。



「し、シシモトさんには悪いけど、優勝するのはボクたちですっ!」

「古羊ぃ……」



 負けないっ! と、珍しく身体中からメラメラと闘志を溢れさせるギャル子。


 その瞳は「絶対に優勝は渡さない!」と雄弁に語っていて……。


 古羊、おまえ……そんなに俺に、おっぱいを見て欲しかったのか?



「よしっ! 絶対勝つぞ、相棒古羊!」

「うんっ!」


 勝って笑顔でおっぱいだ!


 俺たちの中で、より明確な試合への意欲が膨れ上がった瞬間であった。



「悪いな、姉さん。今の俺たちは、誰にも負ける気がしねぇぜ!」

「確かに。ダーリンの試合を見せて貰ったけど、アレはあたし達じゃ勝てないわ」



 そう言って、苦笑を浮かべながら軽く肩を竦めるオカマ姉さん。


 あ、あれ? これはもしかして、まさかの不戦勝パターンか?


 このまま笑顔でおっぱいタイムか!?



「だから、ちょ~~~~~~っと、細工をさせてもらったわ♪」

「「はっ?」」



 細工? と、俺と古羊が2人仲良く首を捻ったタイミングで。



 ――ガガガッ、ぴんぽんぱんぽ~ん♪



 とビーチ全体に例の実況のお姉さんの声が響き渡った。




『えぇ~、みなさま、長らくお待たせ致しました。真夏のビーチバレー大会、いよいよ決勝戦開幕ですっ! ……と、言いたい所なのですが、ちょっと運営から連絡がありまして~』



 実況のお姉さんは、どこか言いづらそうに、というよりも戸惑った声音で。



『決勝戦なんですが……スポンサーの意向により、急遽きゅうきょビーチバレーではなく、400メートル走となりましたぁっ!』

「「はぁっ!?」」



 俺となんちゃってギャルの声が綺麗にハモる。


 それと同時に、オカマ姉さんのどこか勝ち誇った口調が鼓膜を叩いた。



「ごめんねぇ~? 実はこの大会のスポンサーも、北斗連合の副長のお家が担当してるのよぉ。だ・か・らっ♪ ちょこ~~~~っとっ! お願いして、最後の競技を変えて貰っちゃった☆」

「そんなのアリかよ……」

「アリアリよ~ん♪」

「ズルっこだ!? ズルッこだよぅ!?」



 わめく俺たちを無視して、運営のスタッフと思われる方々が、向こうの砂浜へと走っていく姿が目に見た。


 その距離、目算でおおよそ400メートル。


 運営の方々は何やらゴールテープのようなモノを広げると、それを合図に実況のお姉さんが口を開いた。



『もちろん、ただの400メートル走ではありません! 1人が相方の足を持ち、もう1人が馬となってこの砂浜を駆ける! 題して【手押し車400メートル走】ですっ!』



 もはやお姉さんの方も開き直ったのか、妙なハイテンションで流れをゴリ押ししようとしていた。


 そんな実況のお姉さんを尻目に、俺と古羊はダラダラと滝のように冷や汗を流していた。


 YA☆BA☆Iッ!


 特殊な家庭環境のおかげで、本人の意思をまるっと無視して鍛え上げられている俺はともかく、This is インドアを地でいく古羊にコレはキツイっ!


 どれくらいキツいかと言えば、息子の授業参観日にアニメのコスプレで登場してくる父兄並みにキツイッ! ……元気のパパさんかな?


 チラッ、と古羊の方へ視線をよこす。


 我が1番弟子もヤバイ!? と思ったのか、半泣きのままフルフルと首を横に振っていた。



『それでは獅子本・若林ペアと大神・古羊ペアはスタートラインに移動してください!』



 何の解決策も浮かばないまま、実況のお姉さんの声に従って、スタートラインまで誘導される俺たち。



『スタートラインに立ちましたね? では、どちらか片方が相方の足を持ってください!』



 は~い♪ と上機嫌で返事をしながら、オカマ姉さんはひょぃっ! と軽々しくタケルくんの足を掴んだ。


 えぇいっ!?


 ここまできたら、ヤるしかねぇっ!



「出発だ、古羊っ! 四つんいになれ、俺が足を持つ!」

「うぇっ!? ぼ、ボクが下なの!?」

「言いたいことは分かる。分かる……が、古羊よ。俺の足を持って、400メートルを走りきる自信が、おまえにはあるか?」



 古羊の視線が俺の下半身へと移ろう。


 わん娘の視線の先、そこにはブーメランパンツからしなやかに伸びる、丸太のように太く、鍛え上げられた俺の足があった。


 ……我ながら思うのだが、一体どんな訓練を積んだら、こんなムキムキの足になるのだろうか?


 正直、古羊の細腕で持てる足じゃない。


 脇に抱えようにも、はち切れんばかりの筋肉の鎧には、手をかけられるような箇所もない。


 なにより、俺は今、肌に食い込まんばかりのピッチピチ♪ のブーメランパンツ型の水着を着用しているのだ。


 もし仮に古羊が俺の足を持てたとしても、競技の間、臀部でんぶのラインが如実に浮き出たこのブーメランパンツ状態の俺の尻と『にらめっこ』し続けることになる。


 しかもケツを向けたまま大きく股を開くので、俺のお尻のシュタイ●ズ・ゲートが丸見えになる可能性が大いにあり、下手をすれば彼女と次に会うのは、間違いなく学校ではなく法廷だ。


 それは是が非でも避けたい。



「た、確かに……。ボクじゃししょーの足を持てそうにないし……。で、でもっ! そうなると、ボクがししょーの方にお股を開くことになっちゃうし……。でもでもっ! やらないと、ししょーがシシモトさんの恋人になっちゃうしで……うぅ~」



 頭を抱えて1人悶々もんもんとし始める、なんちゃってギャル。


 どうでもいいけど、現役女子高生が『お股を開く』って表現を使うの、エロ過ぎだろ常考じょうこう



「覚悟を決めろ、古羊っ! おまえの方が軽いんだから、おまえが下になった方が効率的だ!」

「そ、それはそうだけど――えっ? 軽い? ボク、軽いかな!?」

「こらこら、嬉しそうな顔をするんじゃない。そんな事をしている場合じゃないでしょ、よこたん?」

『大神・古羊ペア、はやく手押し車をしてくれますかぁ~?』



 実況のお姉さんにかされて、ようやく覚悟が決まったのか、古羊はしぶしぶ俺の尻を向けて四つん這いになった。


 瞬間、俺は電流に打たれたように身体を震わせた。


 古羊は今、無防備にも俺の方へと、その肉付きの良いプリケツをぐいっ! と突き出してきていて……え、エロい!? エロ過ぎる!?


 なんだ、コイツ?


 俺を誘っているのか?



「ししょー……? どうしたの? はやく足を持ってよ?」

「ハッ!? わ、わりぃっ!」



 このいやらしい淫乱なケツめっ! と、彼女のむっちりしたお尻に『取り扱い注意』の赤いテープを貼ろうか迷っていると、なんちゃってギャルの不安そうな声音が耳朶を叩いて、意識が妄想から現実へ強制的に引き戻される。


 い、いかん、いかんっ!


 落ち着け、シロウ・オオカミよ。


 今は競技に集中するのだ!


 ……それにしても古羊、ほんとイイ尻してるよなぁ。


 弾力がありつつも、柔らかく押し返してくれそうな、あのムチケツに顔を埋めたら、一体どうなってしまうのだろうか?


 1度気になり始めた、試してガッテン♪ してみたくなるのが男の子というもの。


 ここはいっちょ「おっと、手が滑ったぁ~☆」とか、数多のハーレムラブコメ主人公が通って来た道と同じ道を辿たどるべく、思い切って古羊のプリケツにダイブすべきか?



「ししょー?」



 古羊が不思議そうな顔をしながら、首だけ俺の方へと振り返る。


 その間にも彼女のお尻は「はやく♪ はやく♪」と、左右になまめかしく揺れて、俺を誘惑してきて……チクショウっ!


 これがギャルゲーなら、ここで一旦セーブして、思う存分そのお尻を分からせてから、ロードして本編に戻って来るというのにっ!


 この【大神士狼の人生】という名のゲームは、選択肢が出てくるとセーブもロードも出来ないクソ仕様なのかっ!



『大神選手、早くしてください』

『はいっ!』



 しびれを切らした実況のお姉さんに促され、体操選手のような甲高い声をあげながら、反射的に古羊の足首を掴んだ。


 うわっ、ほっそ!?


 ちょっと力を籠めたら、折れちゃいそうだ。



『それでは準備はいいですかぁ? では、よ~い……スタートっ!』



 ピーっ! という笛の合図で、鞭打むちうたれた馬のごとく、一気に走り出すオカマ姉さん達。



「それじゃ、お先に♪」



 オカマ姉さんはそれだけ言い残すと、さっさとゴールに向けて駆けだして行った。


 こうしちゃいられねぇ!



「行くぞ、古羊っ!」



 負けじと俺たちも、最高のスタートダッシュで追随ついずいし――



「うぅ~っ!? も、もう無理ぃ~っ!?」



 べちゃっ。


 スタートラインから1歩も動くことなく、プルプルと震えていた古羊の身体が、無情にも砂浜へとダイブした。

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