第11話 僕とギャル子と時々パツキン

「――またの御来店をお待ちしております!」



 愛想のいい案内役の女子生徒に送り出されながら、ホカホカ気分で占いの館を後にする俺と古羊。


 どうやら古羊も満足のいく結果を得られたらしく、俺と同じく、今にも鼻歌を歌い出しそうなくらい上機嫌だった。



「いやぁ! 高校生がやっているお店にしては、中々にすごいクオリティだったな!」

「そうだね! 店員さんもみんな愛想が良かったし、人気が出るのも納得だよ!」

「だな。さて次はどこ行くよ?」

「う~ん、それじゃ次はししょーが行きたい場所を選んでいいよ」



 そう言って俺にパンフレットを渡してくる古羊。


 パンフレットを広げ、どこに何の出し物があるのかを確認しながら目を走らせる。


 う~ん、個人的には3年E組のスク水喫茶【合法の向こう側へ】が気になるところだが……今日は古羊も一緒に居るからな。


 なるべく、このなんちゃってギャルが楽しめる場所がいいなぁ……おっ?


 これなんか良さそうだな。



「うし、じゃあ3階の『ミラクル科学実験室』って所に行こうぜ」

「それって確か、科学部の出し物だったよね? いいよ。行こう、行こう!」



 俺たちは我が親友主催の『ミラクル科学実験室』に向かって、仲良くぽてぽてと歩き出す。


 3階の1番端の角部屋の前まで移動し、そのお客さんの多さに圧倒される。



「す、すごいねココ……。ししょーの喫茶店に負けないくらい、お客さんでいっぱいだよ――きゃっ!?」



 廊下を歩いていた男子学生の肩にぶつかり、体勢が崩れる古羊。


 そのまま地面に倒れる――よりも速く勝手に動いた俺の右手が、ギリギリのところで古羊の身体をキャッチすることに成功する。



「あっぶねぇ~。大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう……」



 ポショッ、とお礼の言葉を口にしながらサッ、と俺から目を逸らす。


 肩がぶつかっておいて謝罪の一言もなかった男子学生に、怒りを覚えているのだろう。


 古羊の頬は赤く紅潮していた。



「あ、あのししょーっ? も、もう大丈夫だから、その……」



 モニョモニョと口を動かしながら、古羊を抱きかかえている俺の右手に視線を送る。


 古羊の視線の先では、狼の牙が運命の果実に齧(かじ)りついて、歓喜の咆哮をあげていた。


 詩的に表現してみたが、ようは俺の右手が『ズキュゥゥゥゥゥン!』と擬音が聞こえてきそうほどガッツリと、彼女のデカパイを揉みし抱いていた。


 よくやった右手! 


 じゃなくて、何やってんだ右手ぇっ!?



「す、すんまそんっ!? ワザとじゃないにゅ!?」

「だ、だだだだ、大丈夫! わかってる、わかってるから!」



 可愛さを追い求めた結果、奇怪な化け物へと成り下がった子供向け番組のマスコットキャラクターのような言葉で謝る男子高校生と、全力で慌てふためく爆乳女子校生の図。


 きっと傍から見たら「変な奴ら」だと思われただろうが、これだけは言わせてくれ。


 やるじゃん、ラブコメの神様♪


 さっきは「仕事してんのか?」とか言ってごめんね?



「し、ししょー? そろそろ手を離してくれると嬉しいんだけど……」

「ぜ、全力で了解! 離れろ俺の右手ぇぇぇ――ッッ!!」



 そう言って、古羊のデカパイから手を離し……なにっ!?


 右手が――離れないだとっ!? 


 ば、バカなっ!?


 一体ナゼっ!?



「そ、そうか! おっぱいの淫力いんりょくにより、右手が吸い付いて動けないんだ!」



 こ、これが万乳淫力ばんにゅういんりょくの法則か……さすがはにゅうトン先生だ!


 もはや俺の意思に反して、右手が勝手に動き始める。


 クニクニと、俺の手のひらで縦横無尽に形を変えていく大きなおっぱい、略しておっぱい。


 う~む。も言われぬ心地よさとは、まさにこのこと。


 ……いやいや!? 堪能している場合じゃなくて、離れろ俺の右手ぇ!?


 だ、ダメだ、ピクリとも動かねぇ!



「ちょっ!? し、ししょーっ!? そんなところ揉んじゃ……ひゃんっ!?」



 古羊の上ずった声を耳にした瞬間、体中の血液が一瞬で沸騰。


 俺の右手があるじの意志に反して、別の生き物にでもなったかのように、縦横無尽に暴れ出す。




 ――お、落ち着けシロウ・フィンガーッ!?


 ――ダメです! 暴走止まりません!


 ――な、なんだとぉっ!?




 俺の頭の中で、小さなシロウたちが、右に左にとドッタンバッタン大騒ぎ。


『けもの』も居るし『けだもの』も居る大神ジャパ●パークを今後ともよろしく♪




「ししょーっ!? なんでいきなり落ち着いた顔をしてるの!? 諦めないでよ!?」

「ハッ!?」




 な、なんということだ!?


 この俺がごくごく自然に現実逃避だと?


 この知的でクールなナイスガイなこの俺がっ!?


 どうやら俺は自分が思っている以上に、かなり焦っているらしい。これじゃイカン。


 よしっ! ここは一旦落ち着いて、お空でも眺めてみるかっ!



「だからっ!? 落ち着かないでってば! ――ひゃんっ!?」



 俺がお空を見上げている間にも、我が右手は女騎士のお友達である触手生物のように、勝手に動き回る。


 クソぅ! ピンチのピンチのピンチの連続そんなとき、ウルトラ的な何かが欲しい今日この頃です♪ 




「――こんな所でなにをハレンチなことをしておるんじゃ、この阿呆がっ!」

「痛いっ!?」




 ウルトラ的な何かの代わりに、何者かが背後から俺の太ももを蹴り上げた。


 途端に、痛みのあまり右手が古羊のデカパイからパイルダー・オフ。


 ……ヤダな、残念がってないよ? ほんとだよ?


 残念がってはいないが……とりあえず太ももを蹴ったヤツにはアイアンクローをお見舞いしてやるべく、クルリと背後に振り返った。



「まったく、生徒会役員がそんな体たらくでどうするのじゃアダダダダダダダッ!?」

「あれ? うさみんじゃん。久しぶり、元気だった?」

「アイアンクローをしながら話を進めるなアダダダダダダダッ!?」



 そこに居たのは、制服の上から白衣を着こんだ金髪ツインテールのロリ巨乳、宇佐美こころちゃん氏であった。


 うさみんはパンパンッ! と素早く俺の腕をタップしてくるので、しょうがなく顔面から手を離してやる。



「イタタ……おい下僕1号っ! レディーの頭を鷲掴みにするとは、一体どういう了見じゃ!?『親しき仲にも礼儀あり』という言葉を知らんのか、キサマはっ!?」

「親しくないなら、礼儀をわきまえなくていいと思ったんだろうが!」

「お、落ちちゅっ!? 落ちちゅいてっ! 落ちちゅいて、2人とも!?」



 アワアワッ!? しながらも、うさみんと俺の仲裁に入る爆乳ギャル。


 うん、まずはおまえが落ち着け?


 人間、不思議なもので、自分より慌てふためいているヤツと見ると、何故か落ち着いてしまうもので……気がつくと俺とうさみんは何故かほっこりしていた。



「というか、なんでうさみんがここに居るんだよ?」

「フッ、愚問じゃな。我が終生のライバルでもあり、未来の伴侶(仮)でもある猿野の展示会に、ワガハイが来ないわけがなかろう?」

「相変わらず元気のことは諦めてないんだな……」



 ふふんっ! と、ちっこい身体に似合わず大きなパイパイを『ぶるるん♪』と揺らしながら、これでもか! と胸を張るパツキン巨乳。


 諦めないのは別にいいんだけどさ……若干ストーカー気味になりつつあるよね、チミ?


 正直お兄さん、チミの将来が心配だよ。



「そんなに元気が好きなら、ちょっと2年A組に行って来いよ。さぞ素晴らしい景色が見られるだろうよ」

「ふふん♪ 言われずとも、もう行ってきたわい! ……出禁を喰らったが」

「ナニしでかしたんだよ、おまえ……」



 もうすでに何かやらかしたらしいマッド・サイエンティストにドン引きしていると、うさみんはそそそっ! と古羊の近くに身を寄せ、ポショポショと耳打ちをし始めた。



「ところでヨッシーよ? 例の本じゃが、全然役に立たなかったぞい? どういうことじゃ!?」

「あっれ~? おかしいなぁ? 工口こうくちさんオススメの1品だったんだけど、う~ん……?」

「おまえら、随分と仲良くなったなぁ」



 2人が仲良さげに小声で話し合うのを、尊すぎる百合アニメを観たときの限界オタクような心持ちで眺めながら、俺は少しだけ感動を覚えていた。


 まさかあの古羊に、芽衣以外の仲のいい女の子が出来るだなんて……うぅっ!?


 お父さん、嬉しくて涙がちょちょぎれそうだよっ!



「……なんでししょーは泣いてるの?」

「なぜじゃろうか……あの顔を見ていると、蹴飛ばしたくなるのじゃが?」

「ぐすん、気にすんな。ちょっと夕日が目に染みただけだ」

「まだお昼だけど?」

「ナニを言っとるんじゃ、コイツは……」



 俺は手の甲で乱暴に目尻をこすりながら、ハタッ! と気がつく。


 そういえば、さっきはナチュラルに聞き流していたが、工口さんから何かしらの本をオススメされたって言ってたっけ?


 う~ん……ちょっと心配だなぁ。


 なんせ工口さんと言えば、古羊のクラスメイトで、みんなからは『合コンの女王さま』としたわれている人気者だ。


 ついこの間も、医学部に通う医大生の彼氏をゲッチュしたぜぇ! とガハハハ笑いながら自慢げに語っていたが、実はソイツは経歴詐称のパチスロニートだったという心温まるハートフル・ラブストーリーが存在するのだが、まぁコレは一旦脇に置いておこう。


 問題は、そんな人気者の工口さんから、古羊が本をオススメされたというコトだ。


 正直、変な影響を与える本じゃなければいいんだが……。


 よし、ちょっとガサ入れてみるかっ!



「ところで古羊よ? 工口さんから何の本をオススメされたのん?」

「えっとね『チョメチョメ民子たみこが教える! これでアナタも未来のキャバ嬢! 意中の相手を落とす100の方ほ――』、何でもないんだよ。忘れて?」

「ねぇ、その本大丈夫? ヤバい匂いがプンプンするんだけど?」



 不安的中☆


 ちょっとぉ? ナニぃ? その将来都心の高級クラブに出稼ぎに行く気マンマンの本は?


 今すぐポイッしちゃいなさいっ!


 なんてギャルとロリとオカマでガールズトークに花咲かせていると、いつの間にか俺たちが入場する番になっていた。



「やっとボクたちの番が来たね――って、うわっ!?」





 古羊が足を踏み入れた瞬間――なんちゃってギャルの制服が文字通り弾け飛んだ。

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