第12話 ハレンチ大百科
あ、ありのまま、今、起こった事を話すぜ?
科学部主催の教室に足を踏み入れた瞬間――なんちゃってギャルの衣服が弾け飛んだ。
ナニを言っているのか分からねぇと思うが、俺もナニを言っているのか分からねぇ……。
「こ、古羊っ!?」
「よ、ヨッシー!?」
俺とパツキン巨乳の声がハモるのと同時に、古羊はいつの間にやら弾け飛んだ制服の代わりに、露出度が異常に多めの、白いモコモコしたデザインの服に強制的にお着替えさせられていた。
がばぁっ! と胸元は大胆に開き、エッチな下着か? と疑うくらいの布面積の少なさ。
お尻にはぴょこん♪ と謎のシッポが生えており、普段の100倍くらいは扇情的な姿になった我が偉大なる1番弟子がそこに居た。
悪魔チックな角を頭に生やし、まるで羊の悪魔のような格好をしたなんちゃってギャルに、つい目が奪われてしまう。
がそれも一瞬のこと。
次の瞬間には、俺のガチムチナース服が弾け飛び、まるで変身ヒロインのように謎の光が身体を包みこむと、あっというまに西洋の鎧を身に纏っていた。
「こ、古羊おまえ……なんてハレンチな格好をしているんだ? ありがとうございますっ!」
「ひやぁぁぁぁ~~~っ!? み、見ないでししょーっ! ……って、うひゃぁぁぁぁぁっ!?」
恥ずかしそうに自分の手で胸と股間を隠していた古羊が、俺の顔を見るなり、素っ頓狂な声をあげた。
もしかして、あまりにも俺の鎧姿が似合っていたから、つい円卓の騎士と間違えて興奮しちゃったのかな?
その証拠に、古羊の顔からは完全に血の気が引いていて、唇なんかもう真っ青♪
声なんか大人のオモチャのようにブルブル震えていて……なんで震えてるんだコイツ?
「し、ししょーっ! か、顔がっ!? 顔がっ!?」
「うにゃ? 俺の顔がイケメン過ぎてビックリしたのかにゃ? おいおい、そんなの今さらだろうに」
「違うぞ
いつの間にかバニーガールの格好に着替えていたロリ巨乳が、俺に向かって手鏡を差し出してきた。
どうでもいいけど、おまえバニーガール姿が異様に似合っているなぁ。
ちょっとお乳揉んでもい~い?
うさみんの凶悪パイパイから、砂のように霧散した理性を必死にかき集めて、何とか顔を逸らす。
そのまま流れるように、うさみんに手渡された手鏡へと視線を落とし、自分のイケてる顔面を確認しようとして――あらビックリ!
首より上、つまり俺のナイスガイな顔の部分が、綺麗さっぱり無くなっていたよ! って、えぇぇぇぇぇっ!?
「お、俺の顔が!? 俺のプリティでキュアキュアなフェイスが消失した!?」
「いや元からプリティではなかったぞい」
うさみんの茶々をスルーしながら、食い入るように鏡を見つめる。
大神士狼の消失。
なんてどこかの映画にありそうなタイトルが頭によぎりながら、ペタペタと自分の顔があった場所に両手を這わせ……って、あれ?
「顔がある? 見えないけど、ちゃんとあるぞ?」
「顔だけではないぞい。ワガハイたちが着ているこの服だって、素肌の部分をよく触れば、ちゃんと制服の感触が返ってくるぞい」
「ほ、ほんとだ! この制服の肌触り……一体どういう仕掛けなんだろう?」
ほぇ~、と古羊がペタペタと自分の肌に手を這わせていると、向こうの方から「やっと解放されたでぇ~……ん? おぉっ!」と聞き慣れたバカっぽい声音が鼓膜をくすぐった。
「宇佐美はんに古羊はんやないか! ワイの発表を見に来てくれたんやな! ありがとうな!」
「おい元気、俺も居るぞ?」
「誰やおまえ!? 頭がもげ取るぞ!?」
「おまえの親友、大神士狼だよぉ?」
うふふ、このカスが。
今、この場に古羊が居なければ、瀬戸内海に住む魚たちの栄養源にしてやるところだ。
命拾いしたな元気。
バニーガールの衣装から制服に着替えたらしい元気は、微笑みを浮かべる俺(もちろん顔は見えない)の全体像を見渡しながら、至極納得したような声をあげた。
「な、なんだ相棒やったんか。ならその恰好にも納得がいくで」
「『納得がいく』とは、一体どういう意味じゃ?」
「実は今、ここ一帯はワイが独自に作ったAR空間で構成されとるんや。やから肌とか触っても制服の感触がするやろ?」
「するけど……それがどうしたら、ししょーの格好に繋がるの?」
コテンッ、と首を傾げる古羊。
そのドスケベ衣装も相まって、周りに居た男共の視線を一身に集めていたが、本人はやはり気づいていない。
少々心配になる鈍感さだが、今は元気の話に集中することにした。
「このAR空間に入って服装が変わったやろ? この服装の基準はな、その人がもともと持っている気質や性格によって服装が変化する仕組みなんや」
そう言って、元気は古羊のドスケベ衣装に視線を移し。
「例えば古羊はんやったら、大人しくしてふわふわした雰囲気の女の子やから、衣装が羊っぽくなったちゅうわけや。そのことを踏まえたうえで、相棒の格好を見てもらえるか?」
「あぁ、なるほどのう。下僕1号のこの姿は、デュラハンをモチーフにしておるわけじゃな」
「デュラハンってアレか? RPGとかに出てくる、首のない騎士のことか?」
「ファンタジーの世界では【アンデッド】や【ゾンビ】として扱われているよね」
俺の気性や性格がデュラハンに似ているだと?
この首のない騎士が示す俺の気質とは一体なんなんだ?
「はっはーん、わかったぞ。つまり俺の騎士道精神溢れる誇り高き高貴なる魂が、デュラハンに似ていると判断したんだな!」
「いや『頭が無いからバカ』って意味なんじゃろ」
「……も、もしくはっ!【アンデッド】や【ゾンビ】のように、決して折れない不屈の精神を持っているナイスガイだからか!?」
「いや性根が腐っとるからじゃろ」
「「……(メンチの切り合い)」」
「も、もう2人とも! こんな所で喧嘩しちゃダメだよぅ!」
古羊の制止を無視して、お互いにメンチビームを飛ばし合う俺とうさみん。
止めるな古羊っ! このメスガキには1度大人の怖さを教えてやる必要があるんだ!
俺の罵倒語ディクショナリーが火を吹く寸前、古羊は「そ、そうだ!」と俺たちの間に、そのエチエチな身体を割り込ませながら、別の話題を切り出してきた。
「じゃあ、どうしてココロちゃんはバニーガールの姿なんだろう?」
「そうやなぁ。案外、宇佐美はんは寂しがり屋やさかい、そこが反映されたんかもしれへんなぁ」
「いや、万年発情期の歩く猥褻物だからじゃねぇの?」
「「……(ガンの飛ばし合い)」」
「もう! だから喧嘩しちゃダメだって言ってるのにぃ!?」
古羊は何とか仲裁に入ろうとするが、そんなの関係ねぇ! オッパッピーと言わんばかりに、激しく睨み合う、俺と金髪ロリ。
険悪な雰囲気が2人の間に流れる。
それを嫌った古羊が、なんとか場の空気を変えようと、妙に明るい声音で元気に質問した。
「と、ところでサルノくん! 他に何か面白い発明品とかはあるのかな?」
「おっ、よく聞いてくれたで古羊はん。実は相棒たちに見せたい、とっておきの目玉アイテムがあるんや」
元気が指先をパチンッ♪ と鳴らしたその瞬間、上空から謎の飛行物体が元気の肩に不時着した。
やけにぽっちゃりとしたメタリックカラーのソレは、よく見れば鳥類と同じフォルムをしていて……なんだコレ? 鳥か? 飛行機か? タケちゃ●マンか?
「な、なんじゃ!? この不細工なトリ畜生は!?」
「うわぁ! さ、サルノくん? このロボットのフクロウさんは一体?」
「紹介するでっ! ワイが発明した、子ども向け愛玩用ロボットペット、その名も『ポンチ』くんや! さぁ、ポンチくん? みんなに挨拶や」
『こんにちワンッ。ぼくの名前はポンチですワンッ』
「えっ、鳥なの? 犬なの? どっちなの?」
取ってつけたような謎の語尾のフクロウ、いやポンチ。
な、なんだこの鳥類(?)は?
と困惑する俺を他所(よそ)に、逆から読めばただの猥褻物のフクロウモドキに向かって、古羊はニッコリと微笑んだ。
「はじめまして、ボクは古羊洋子って言います」
「ワガハイは宇佐美こころじゃ」
「みんなのアイドル、大神士狼だ。よろしく」
『よろしくね。洋子お姉ちゃん、こころお姉ちゃん、ゴミカス』
ペコリッ、と器用に頭を下げるポンチに古羊は「おぉ~っ!」と感嘆の声をあげた。
「賢いね、この子!」
「うむ、確かに。一体どういうAIを積んでいるのか、気になるところじゃな」
「ねぇ? 今、俺だけ罵倒されてなかった?」
なんかこの猥褻物、俺にだけ当たりキツくない? 気のせい?
「ポンチは5歳児程度の知能を有した愛玩ロボットやさかい、簡単な芸も出来るんやで?」
「ほほぅ? じゃあお手」
『わん』
――ぽん(俺の手にポンチの翼が置かれる音)
「おかわり」
『わん』
――ぽん(反対の手にポンチの翼が置かれる音)
「ちんちん」
『了解。ハレンチ5年目ピンサロ嬢モードへ移行します』
――じゅぼぼぼぼぼぼっ!(ポンチが謎の吸引音を発しながら、首を前後に激しく動かす音)
もう完全にモザイクである。
「ヤダなにコイツ!? 気持ち悪い!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」
「なんじゃ、そのふざけた吸引音は!?」
「おっと、間違えて18禁モードをONにしたままやったわ。失敬、失敬♪」
『ジュボ、ジュボジュボジュボジュボジュボッ!』
気持ち悪いがノリはいい、ポンチのバキューム音をBGMに、俺たちはしばしの間、元気の発明品で時間を潰した。
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