エピローグ 恋するウサギはくじけないっ!
元気の最低な告白から1日たった翌日の日曜日。
アマゾン率いる犯罪者予備軍、もとい2年A組男子一同からは『永遠の友情をこの純白のブリーフに誓おう』と義兄弟の契りと共に、仲間として、なによりも
さらには我らが女神さま率いる2年A組女子一同からは『ふざけんなカス』とご褒美のビンタまでいただいている有様だった。
そんな元気を見て「いいなぁ」と指をくわえるアマゾンたち。
森実祭に向けてウチのクラスの結束が日に日に強まっていくのを感じる今日この頃。
「――それで? 一昨日は反省文も書かずに帰宅するとは、どういう了見だぁ? なぁ大神よぉ?」
『クラスの絆』もとい男女間の溝が深まっていく中、俺は朝っぱらから教室どころか生徒指導室に監禁されて、ヤマキティーチャーのありがたいお説教を全身で受け止めていた。
あぁ~……そう言えばアレから色々あってすっかり忘れていたが、女子更衣室への侵入、及び窃盗の反省文をまったく書いていなかったわ。
チラッ、と先生の方を覗き見る。
今にも服が弾け飛ばんばかりに筋肉を膨張させていることから、かなりのオコであることが推測できる。
ヤッベ、先生キレてる。色んな意味でキレてるよっ!
もうね、怒りのあまり肩の筋肉が膨張し過ぎて『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴッ!』と某奇妙な冒険でお馴染みの『あの』擬音が耳の奥から聞こえ始めたときは、思わず『肩にちっちゃい重機のせてんのかーい?』と叫びそうになったくらいだ。
「言い訳があるなら聞いてやるぞ? ……まぁ聞くだけだがな」
サドスティックに微笑むヤマキティーチャーの視線から逃れるように、意識を内側へと向ける。
ここで『いきなり帰ってゴッメ~ン、誠にすいまメ~ン♪』と可愛くステップを踏みながら、あざとくウィンクをブチかましたら、先生は許してくれるだろうか?
軽くシミュレーションしてみて……やめる。
何故かどう可愛くあがいても、ヤマキティーチャーの右拳が俺の頬を貫く未来しか想像できない。
なら、俺に残された道はただ1つだ。
「だから言っているじゃないですか! 靴を舐めるので許してくださいって!」
「……なんでおまえはそんな強気で弱気なことが言えるんだ?」
開き直ってガツンッ! と強く前に出るのみ!
俺は不毛の大地と化したカサカサの唇をベロンッと舐め、何故か可哀想を通り越して哀れみすら感じられる目をしたヤマキティーチャーに言い募った。
「なんなら泣き土下座をカマしたっていいんですよ、コッチは!」
「後ろ向きに前向き過ぎる……。おまえが先生の靴を舐めようが、泣こうが、土下座しようが、今回ばかりは絶対に許さん。今日はきっちり反省文を10枚提出してもらうまで、ここから帰さないからな」
「あぁもう分かりましたよ! スッポンポンで土下座すればいいんでしょ? まったく先生は欲しがり屋さんなんですから……ちょっと待っていてください? 今、服を脱ぎますから」
「えぇいっ!? チャックに手をかるな、みっともない! おまえにはプライドというモノは無いのか?」
あまりにも勇まし過ぎる俺の姿を前に、毒気を抜かれたのか、そんな戯言をほざき出すヤマキティーチャー。
みっともない?
ちがうな。
プライドは捨てることこそ、プライドなんだ!
なんとか反省文を今の半分の枚数で勘弁してもらおうと、本格的に泣き落としに入ろうかと涙腺に力をこめた矢先。
「そういえば大神、昨日、町はずれの空き倉庫で喧嘩があったのを知っているか?」
「いえ、知らないです」
真顔で即答する。
たまに思うのだが、俺は本気で俳優を目指した方が良いのではないのだろうか?
この圧倒的な演技力……自分で自分に惚れてしまいそうだ。
「そうか知らないか、なら今、教えてやろう」
「いや別にいいです」
「なぁに、遠慮することはない」
ニッコリ、と顔面にモザイクを張りたくなるような笑みを浮かべるヤマキティーチャー。
ちょっと、こっち見ないでくれませんか? 妊娠しそうで怖い……。
お茶の間の良い子たちには見せられない顔面猥褻物と化したヤマキティーチャーは、聞いてもいないのに、勝手に昨日の喧嘩の詳細を口にし始めた。
「なんでも昨日、町はずれの空き倉庫で九頭竜高校の生徒たちが大喧嘩したらしい。警察も駆けつける事態になったみたいでな、警察が駆けつけたときには九頭竜高校の100人に近い男子生徒たちが地面に転がって気を失っていたらしい」
「へぇ、そうなんすか。何なんすかね? 仲間割れなんすかね?」
「警察が言うには、その線が濃厚らしい。……ただ目撃した近所の人が妙なコトを言っていてなぁ」
「妙なコト?」
「あぁ。何でも空き倉庫から出てきた男たちは、頭に紙袋を被ったブリーフ1枚の、気が狂ったような出で立ちをしていたらしい」
「ほうほう、ソイツはまたとんでもねぇド変態が居たものですな?」
「だろう? 流石の警察も、そんな
「興味深いこと?」
ヤマキティーチャーは、グッ! と俺に顔を近づかせ。
「なんでも、空き倉庫から出て来たブリーフマンの1人に、真っ赤に燃える赤いリーゼントをした男子高校生の姿を見たらしい。……そう、まるで大神のような赤い髪のなぁ」
「へぇっ! ソイツはすっごい偶然っすねぇ!」
「なぁ? すっごい偶然だろぉ?」
アハハハハッ! とお互い楽しそうに笑い合う。
いやぁ、ほんと先生は楽しそうに笑うなぁ……目以外は。
「いやぁっ! これがもし大神だったら、反省文じゃすまなかっただろうなぁ! なぁ、大神よ?」
「あれあれぇ~っ!? なんだか急に反省文を書きたくなってきたぞぉ!? 先生! はやく僕に反省文を書かせてください!」
「ふむ、よろしい」
満足気に頷く先生から、ありがたい反省文(10枚セット)をいただく。
いやまぁ、とくに深い意味はないよ?
ただ何となく、反省文を書きたい気分だったから、その……ね?
分かるよね? ねっ!?
「さてさて、ではさっそく
「普通に書かんか、普通に」
俺の右手が光って
「あまり無茶はするなよ? 先生も庇える範囲には限度があるんだからな」
「……うっす」
しんみりと口にする先生の声に素直に頷きながら、俺はカリカリと筆を走らせた。
◇◇
「――それじゃ失礼しまぁ~す」
「おう。もう問題起こすなよ?」
「へ~い」
生徒指導室に籠り続けて3時間。時刻は午前12時前。
ようやく反省文と言う名の魂の牢獄から解放された俺は、ピシャリッ! と生徒指導室のドアを後ろの手で閉じながら「んん~っ!」とその場で大きく背伸びをした。
バキボキッ、ポキンッ! と体からラップ音まがいの心地よい音色を奏でながら、ふと周りを見渡すと、渡り廊下の向こう側から見知った顔が姿を現した。
パターン青、猿野元気ですっ!
「お~い、げん――」
き、と奴の名前を口にしようとした俺の唇が、緊急停止。
何故なら向こうからやって来たのは我が
我が視界の先、そこには。
「な、なぁ2人とも? 周りの視線も痛いし、歩きづらいから、ちょっと離れて歩いてくれへんか?」
「そこの小娘が今すぐ猿野から離れるのであったなら、ワガハイも考えてやらんコトもないぞい?」
「嫌っす! 宇佐美先輩がダーリンから離れるまで、自分は絶対に離れないっす!」
俺の視界の先、そこには……困った顔をしつつも顔をデレデレさせる我が親友、猿野元気と、そんな元気を取り合うように、左右の腕に抱き着いて睨み合っている女子生徒が2人。
元気の彼女である司馬葵ちゃんと、昨日元気にフラれたばかりのマッドサイエンティスト、宇佐美こころ氏、その人たちである。
「大体、宇佐美先輩は昨日ダーリンにフラれたんっすよね!? だったら潔く諦めてくださいっす!」
「ふんっ、まだまだ青いのぅ小娘?『フラれたから諦めなければいけない』なんて、誰が決めた? 日本国憲法に載っておるのかぁ? おぉっ?」
「そ、それは……載ってないっす。け、けどっ! ダーリンはもう自分の
「簡単に諦めきれる恋なんぞ、そもそも最初からやっとらんわ」
「ま、まぁまぁ2人とも? ちょっと落ち着きぃや? なっ?」
頬を膨らませたまま、むぎゅ~っ! と元気の腕に絡みつく司馬ちゃんとうさみん。
そんな2人に常識的なコトを言いつつ、これでもかと言わんばかりに鼻の下を伸ばす我が親友。
全力全開で我が身に降りかかるラブコメ展開を、心の底から楽しんでいるのが簡単に見てとれた。
いやぁ、人間って凄いよね?
1度
見ていて反吐が出そうだよ♪
「おいおい、なんだアレは? 生物兵器か? 超えちゃいけないラインくらい考えろよ! ここは法治国家なんだぞ!?」
「んっ? あっ、おーい相棒ぉ~っ!」
ごくごくナチュラルに女の子にお触りしているクソ野郎が、俺に声をかけてくる。
途端に元気の腕に引っ付いていたうさみんが、「ゲッ!?」と露骨に表情を歪めた。
ここでコイツらに動揺を悟られるのは何だか負けた気がするので、俺は奴の関節をへし折りたい衝動をグッと堪えて、いつもの知的でクールな微笑みを顔に張り付けた。
「お、おう元気。それに司馬ちゃんと、うさみんも。こんな所でどうしたよ? クラスで森実祭の準備をしてたんじゃねぇの?」
「それがなぁ? ハニーと宇佐美はんが喧嘩し始めて、五月蠅いからって追い出されてしまったんや」
弱ったなぁ、と情けない顔を浮かべる元気だったが、その表情はどこか嬉しそうで――クソがっ!?
なんだコイツは?
『ぼくチンこんなにモテるんですよ?』アピールですか?
プレイボーイのつもりですか?
イタリア人のつもりですか?
そんな純日本人体型をしているクセにッ!
ファ●ク、ファ●ク、ファァァァァァ●ク!
と言ってやりたい気持ちをグッと堪えて、俺は「追い出された?」と話しの続きを促した。
「そうなんや。ワイが野郎共と教室で森実祭の準備を進めとったら、ハニーと宇佐美はんが急に押し寄せてきてなぁ。ワイの腕を取り合って、大岡裁きよろしく喧嘩し始めてしもうて、もうしっちゃかめっちゃかやったわ」
「だって! 宇佐美先輩がダーリンの腕に抱き着くからっ!」
「この小娘がワガハイと猿野の恋路を邪魔してくるのが悪いんじゃっ!」
そう言って再び元気を挟んで睨み合う、司馬ちゃんとうさみん。
へぇ~、ソイツは素敵なテロリズムだね♪ と口からまろび出そうになった言葉を俺は慌てて飲みこんで、「へぇ~、それは大変だったね」と毒にも薬にもならない教育番組のお姉さんみたいな台詞を吐いた。
司馬ちゃんとうさみんの視線が、バチバチと空中でぶつかりあう。
……ところでコイツら、何で俺の前にやって来たの? 嫌がらせ?
「もう聞いてくださいよ大神先輩っ! 宇佐美先輩ったら酷いんすっよ!? 自分とダーリンの逢瀬を邪魔してくるどころか、隙あればダーリンを色仕掛けで誘惑してきて……大神先輩からも何か言ってやってくださいっす!」
「ハンッ! 誘惑なんぞしとらんわ。ただ自然と
「んなっ!? 自分だってチンチクリンのクセにぃ~っ!」
「ち、チンチクッ!? ~~~~ぅぅぅっ!? 小娘めぇ~~~っ!?」
ふぎぎぎぎぎっ!? と、まるっきり俺のことをガン無視し始める2人。
……俺は今、一体ナニを見せられているんだ?
「うさみん、まだ元気のコト諦めてなかったのかよ……? もうフラれたっ
「……確かにワガハイは猿野にフラれた。じゃがな? 1度フラれたくらいで諦めるような、ヤワな女ではないわっ!」
あのクソ野郎に関白宣言ならぬ『セフレ宣言』をされたにも関わらず、その想いは微塵も変わっていない。
逆に凄いわ、尊敬するわ。
「それに、諦めなくていいのは『女の子の特権』なんじゃよ?」
そう言ってニヒッ♪ と笑ううさみんの表情は、どこか晴れ晴れとしていて、見ていて気持ちがいい笑顔だった。
……まぁ代わりに、司馬ちゃんがとんでもなく怖い顔をしてるんだけどね。
「ふざけるんじゃないっす!? なにが『諦めなくていいのは女の子の特権』っすか!? 諦めてください、潔く諦めてくださいっ!」
「キサマこそ、いい加減ワガハイが諦めるのは諦めろ」
「ふんぬぅぅぅ~~~っっ!?」
「ま、まぁまぁ2人とも? 落ち着きぃや? そ、そういうコトやから相棒、ワイはちょっと席を外すで?」
元気が猛獣使いさながらの動きで、猛り狂う司馬ちゃんとうさみんを引きつれて廊下の彼方へと消えていく。
そんな奴の忌々しい後ろ姿を黙って見送っていると。
――ぽんっ。
と、何者かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこには我が2年A組男子一同が、菩薩のような微笑みを浮かべて立っていた。
「大神……」
先頭に居たアマゾンが爽やかに微笑みながら、そっと俺に向かって1枚の純白のブリーフを差し出してくる。
もう俺たちの間に言葉はいらない。
俺はソレを同じく微笑で頷きながら……しっかりと握りしめた。
「じゃあ、やろっか?」
俺の合図に全員が小さく頷いて……手に持っていた紙袋を頭に装着した。
そして俺たちは、あの【なろう】主人公もビックリの『女たらしクソ野郎』を瀬戸内海のお魚さんの晩ゴハンするべく、ブリーフ1丁になりながら廊下を全力で駆けだした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そんなワケで第4部、完結ですっ!
次回から午後8時前後に1話ずつ更新していくので、ぜひ楽しみにしていてくださいっ!
また「面白かった」「ふつう」「つまんねぇよ、カス」と少しでも思っていただけたのなら、『お
理由は作者がアホみたいに喜ぶからですっ!
それでは明日、第5部でまた会いましょうっ!
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