第19話 侵略!ロリ娘

 高級住宅街の中心地にある、とある豪邸。


 見上げる程の高さを誇る門をはじめに、視界の果てまで続く塀。


 その上には5メートル感覚で監視カメラが設置されている。


 まごうことなき大豪邸――その名も司馬家。


 我が残念な親友、猿野元気の哀れな被害者ガールフレンド、司馬葵ちゃんのお家である。


 そんな彼女の実家の玄関先で、月の淡い光に照らされる4人の男女の姿があった。


 その中で唯一の男であるナイスガイな俺、大神士狼が軽く玄関のドアを引いてみる。


 もちろん鍵がかかっているのでガチャッ、という無機質な音が闇夜に溶けるだけ。



「Aタイプか……チョロいな」



 俺はニヒルな笑みを溢しながら、懐から元気が発明した『どんな鍵穴でもぴったりフィットくん!』なる鍵を取り出し「ほらほら、ここがイイんだろ? おいおい奥までガバガバじゃねぇか、この淫乱な牝穴がぁ!」と心の中で呟きつつ、玄関の鍵穴にズップリと差し込む。


 途端にカチャリッ、と開錠する司馬家の玄関。



「よし、開いた。それじゃ行くぞテメェら」

「ちょっと待て、いや待ってくれるか?」



 なんだよ? と俺の背後に居た金髪ロリ巨乳、うさみんの方へと振り返る。


 うさみんは何故かワナワナと肩を震わせ、何かをこらえるように静かに口をひらいた。



「下僕1号、今ワガハイたちが何をしようとしているのか、分かっておるんじゃろうな?」

「? 当たり前だろ? この作戦の発案者は俺だぜ?」

「なら今、キサマが何をしようとしているのか、声に出して言ってみろ」



 変なことを聞くロリ巨乳に、俺は首を傾げながら、言われた通り今、おこなおうしていたことを言ってやった。



「司馬ちゃんの部屋に侵入して彼女の弱味を探り当て、元気と別れるように脅迫しようとしている所だが?」

「はぁ~い、今自分の言った言葉をよく思い返せぇ? 何かおかしいと思わなかったかえ?」

「なにもおかしくねぇけど?」

「普通に不法侵入じゃと言っとるんじゃ!」



 こ、声が大きいよウサミさん! と古羊によって口元を抑えられるうさみん。


 その横で「どうせこんなことだろうと思っていましたよ……」とため息をこぼす芽衣。


 おいコラ、なんで「相変わらず常識がないんだから」みたいな目で見られなきゃならんのだ?


 おまえにはだけはそんな目で見られたくねぇよ!



「ただ士狼? 宇佐美さんほどではありませんが、わたしも1つ質問があります」

「なんだよ改まって? い、言っておくがスリーサイズは教えないからなっ?」

「それはもう知っていますから結構です」

「えっ、逆に何で知ってんの?」



 教えてないよね? と驚愕する俺を無視して、芽衣は女の子の嗜みと言わんばかりに、舐めるように俺のボディを見渡してきた。



「な、なんだよ? 目がエロいぞ?」

「ねぇ士狼? 今わたしたちが着ている服装を、よく思い返してみてください」

「俺たちが着ている服装?」



 言われて目の前に立つ芽衣へと視線を這わせた。


 全身黒タイツに、すっぽりと顔がおおえるタイプの黒色の覆面に身を包んだ姿。


 ふむ……客観に分析するに、今の俺達は傍から見れば間違いなく――



「これは完璧に不審者の格好ですよね? どうするんですか、通報でもされたらもう言い逃れ出来ませんよ?」

「しょうがねぇだろ? 元気が発明したパワードスーツが『ソレ』だったんだから」



 そう、今、芽衣たちが着こんでいる全身黒タイツは、我が親友が1週間かけて開発した代物であり、人間の身体能力を10倍までパワーアップさせてくれるスーツなのだ。


 その名も『パイパンマン・スーツ』……相変わらずネーミングセンスはぶっ壊れているが、その性能はお墨付き。


 これで運動音痴な古羊でも、ベンジョンソン並みの速さで走れるし、司馬ちゃん家のバカデカい塀も2人協力したらジャンプして飛び越えられる。


 今回の作戦に無くてはならない一品だ。



「大丈夫だって。ちょっと早めのクリスマスっていうか、見つかっても『あぁ、慌てんぼうのサンタクロースが来たんだなぁ』くらいにしか思わねぇよ」

「いや思いませんよ? だってサンタさんは全身黒タイツでやって来ませんもん」



 まあまあ落ち着け、とエセサンタクロースこと我らが生徒会長殿に向かって肩をすくめて見せる。



「サンタも不審者もみんな同じだって。サンタなんて基本『子どもに夢を』という建前が無ければ、ただの不法侵入者のロリコン野郎なんだぜ? 大丈夫、大丈夫! 全然イケるって!」

「全然大丈夫じゃありませんけど? 士狼あなた今、全サンタクロースと子どもたちに喧嘩を売りましたよ?」

「け、消されるよ!? ししょーこのあと、消されるよ!?」



 芽衣と慌てふためく古羊のツッコミを華麗にスルーしつつ、屋敷の中へと勝手に侵入する。


 文句を言いながらも、大人しく3人は付いてきた。


 なるべく音は立てるなよ? とアイコンタクトを飛ばすと、3人とも人差し指と親指をくっつけてOKサインで返事をしてきた。


 なんだかんだ言いつつ、ノリノリな奴らである。


 司馬ちゃんの部屋は事前に元気から惚気話とともに聞いていたので、大体どこにあるか把握できている。


 階段を上がり、ひとつ目の角を左に曲がる、そのまま真っ直ぐ直進し、一番奥の壁にぶつかったところで右に右折、最後にそのまま真っ直ぐ歩きもう一度左に折れれば、マイスィートエンジェルの部屋だ。


 俺はさっそく階段を上がりひとつ目の角を左に曲がろうとして。



(待て3人とも、トラップだ!)



 と、背後に居たキャッツ・アイたちに「待った」をかける。


 すぐ後ろに居た芽衣のとまどった声音が耳をくすぐった。



(と、トラップ?)

(あぁ、赤外線トラップだ。よく目を凝らさないと見えないタイプのトラップだな)

(ほ、本当ですね。うっすらとですが赤い線みたいなのが見えます。洋子も宇佐美さんも気をつけてください)



 そう言って後ろの2人に注意する芽衣を横目に、俺は辺りをキョロキョロと見渡しながら、1人納得したように頷いた。



(どうやらセンサーに触れると警報がなる仕組みのようだな。大丈夫、このタイプのトラップなら簡単に避けられる。俺の通ったあとについてきてくれ!)

(ねぇ士狼? なんでそんなに手馴れているんですか? もしかして本物ですか?)



 芽衣の純粋な疑問に答えることなく、クネクネと身体を動かしながら廊下を渡って行く。


 傍から見たら不気味な踊りをしているようにしか見えないだろう。


 赤外線トラップを潜り抜け、俺は達成感に満ちた顔で3人に振り返った。



(さぁ、やってみろ!)

(いや、出来るわけがないでしょうが!? ……まあ出来ましたけど)



 案外やってみると簡単にトラップを潜り抜けられたらしい芽衣が、バツの悪そうな顔を浮かべていた。


 そんな芽衣を見て俺は「ひゅ~う♪」と口笛を吹いてみせた。



(やるな芽衣、さすがは女神さまだ。おまえ泥棒の才能があるぜ?)

(……わたしの人生の中で一番うれしくない賛辞をありがとうございます)



 泥棒の才能があると言われてテンションがガタ落ちする芽衣。


 いいじゃん泥棒の才能、みね不二子ふじこみたいでカッコいいよ! 


 まあ残念ながら本人は峰も富士もない体型だけどね!


 頑張れ芽衣の女性ホルモン! 


 芽衣が自分の隠された才能に軽く絶望している間に、俺たちは次々張り巡らされたトラップをくぐって行った。


 そしていよいよ司馬ちゃんの部屋の前までやってくることに成功。



(ここが司馬さんのお部屋ですか……)

(なんと言うか、立派な扉だよねぇ。お姫さまみたい……)

(ふんっ、趣味の悪い扉じゃわい) 

(よし、いいか? 開けるぞ?)



 背後の3人にアイコンタクトを送る。


 それに無言で応じる乙女たち。


 俺はゆっくりと音を立てないように細心の注意を払いながら、ムダにゴージャスなドアを開ける。


 人ひとり入れる隙間を開けると、そのまま蛇のようにぬるっと身体を滑りこませ部屋へ侵入。


 続けて芽衣、古羊、うさみんの3人も部屋に侵入した。


 そして部屋を見渡して……固まってしまう。




 ――そこは一言で表現するならば『天国』であった。




 司馬ちゃんの甘い匂いが部屋中に充満しており、まるで司馬ちゃんに全身を抱き着かれているかのような錯覚に陥る。


 気を抜くとこの場所に永住しそうだ。


 永住がムリでもこの部屋の空気を我が家にお持ち帰りしたい。



(コラ士狼! 気をしっかり持ってください!)

(もうししょーっ! デレデレしている場合じゃないでしょ!)

(ハッ!?)



 ぎゅむむむむぅ~、と芽衣と古羊の2人に頬を引っ張られ、トリップしかけていた脳が強制的に現実世界へと引き戻される。


 そうだ、こんなことをしている場合ではない。


 1秒でも早くスーパーの袋に司馬ちゃんのエッセンスが効いた空気を詰め込んで――じゃなかった。


 一刻も早く元気の魔の手から司馬ちゃんを救出するべく、司馬ちゃんの弱味になるようなモノを探し出さなくては!


 ようやく本来の目的を思い出した俺は、申し訳ないとばかりに芽衣と古羊に頭を下げた。



(スマン、助かった)

(まったく、これだから士狼は……時間が無いんですからしっかりしてください! ……それにしても家も大きければ部屋も大きいですね。畳何畳分あるんでしょうか?)

(ところで部屋の主の司馬葵はどこにいるんじゃ? まさか部屋を間違えたのかえ?)

(それは大丈夫っぽいよ宇佐美さん。ほら、シバさんならあそこでスヤスヤ眠っているから)



 そう言って古羊は司馬ちゃんが眠っているベッドを人差し指で指し示す。


 部屋の窓際、天蓋(てんがい)のベッドで気持ち良さそうにスヤスヤと眠る司馬ちゃんの姿が確認できた。


 どうやらよほど深い眠りに入っているのだろう、ちょっとやそっとじゃ起きそうにない雰囲気だ。これはありがたい。



(よし、対象が眠っている内に目的を完遂させるぞ!)

(((了解!)))



 そう言って俺達はそれぞれ司馬ちゃんの部屋の中を散策しはじめた。



(そうだぁ、まずが机のあたりから調べてみるか)



 俺は彼女の肉布団となって、その愛らしい身体を温めてあげたいという衝動を必死に我慢しながら、部屋の片隅にある勉強机へと移動する。


 机の上はキチンと整理整頓されており、ある物と言えば写真立てくらいだった。


 写真立てに飾られている写真を確認してみると、そこには科学部室で発明にいそしんでいる元気の姿が映っていた。


 よほど元気のことが好きなのだろう。写真立てには埃ひとつ落ちていない。


 なんだかこの場所には触れてはいけないような気がした俺は、そっと机周りから離れ、本棚で散策活動をしている芽衣のもとまで移動した。



(芽衣、何か見つけたか?)

(シッ、静かに。今、いい所だから)



 そう言って芽衣は司馬ちゃんの本棚から取り出した1冊を一心不乱に読み進めていた。


 ま、まさか司馬ちゃんに関する何かがソレに書かれているのか!?


 そう思い、俺は芽衣の読んでいる書籍のタイトルを確認し――



(『誰でも1カップ・アップ! パイパイ・デカが教える、正しいバストアップ・マッサージ全集』……?)

(ふむふむ、なるほど……背中のお肉を前に持ってくるように押し出して、そのままゆっくり反時計回りに乳房を練りまわすと。それで? ほうほう……へぇ)

(あ、あの芽衣さん?)

(話しかけないで、今いい所だから)



 優等生の仮面をつけることすら忘れて、素の口調で俺を拒絶する我らが生徒会長さま。


 そのあまりに真面目で必死すぎる姿を前に、よもや願わずにはいられない。


 お願いです神様! 贅沢は言いません、どうか彼女に人並み程度のおっぱいをあげてください! お願いします!


 と、世界の中心で愛を叫ぶように心の中で神様にお願いしながら、再びそっと離脱。


 さらば、生徒会長! 俺は他の所を散策してくるぜっ!



(こ、古羊同級生! 大変じゃ! すごいものを発見したぞい!)

(ど、どうしたのウサミさん!? た、大変なモノって!?)



 俺たちから離れた場所で、タンスの中を捜索していたうさみんのテンションが跳ね上がる。


 声音からして、かなりすごい物を発見したらしい。


 気になった俺はうさみんのもとまで小走りで近づいた。


 うさみんは目を見開きながら、手に持っていた小さな布きれを古羊と俺に見せつけるように広げ、



(この女、清楚なフリしてかなり過激な下着を持っているのじゃ!)

(超どうでもいいっ!? 超どうでもいいよ、ウサミさん!?)



 ローライズの際どいキャンディーカラーのパンティーを俺たちに見せびらかしながら、興奮したように鼻息を荒げるロリ巨乳。


 た、確かにあの清楚な司馬ちゃんがこんな過激なパンティーを履いているのかと思うと、ドキドキを通り越してムラムラしてくるな!



(ほほぅ? 司馬ちゃんも隅に置けないなぁ。パンツがエロい女はポイントが高いぞ?)

(もう! ししょーは見ちゃダメ! ウサミさんも早くそのパンツをタンスの中にキャッシュバックして!)

(ちょっと待つのじゃ! こっちには……なんじゃと!? まさかのTバック!? あんな可愛らしい顔をしておいて、スカートの下は暴れん坊将軍じゃと!?)

(マジかよ!? スカートの下はTバック祭りかよ!? 彼女は将来どんな偉人に成長するっていうんだ!?)

(戻してぇぇぇぇぇぇぇっ! いいからそのパンツを戻してぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?)

(こ、これ暴れるではない! あの小娘が起きてしまうじゃろうが!?)



 司馬ちゃんのパンツを取り返すべく、うさみんに襲い掛かる古羊。


 そのままドッタンバッタンと激しい攻防が繰り広げられる。


 現役女子校生たちが後輩のパンツ片手に喧嘩する光景など、世界広しといえどココだけだろう。


 なんだろう、ちょっとエロい光景だな。


 オラ、ムラムラすっぞ!




「う、う~ん? なぁに? なんの音っすかぁ?」

「「「「ッ!?」」」」




 あまりにもうるさい音を立てすぎたのだろう。


 ベッドから司馬ちゃんが目元を擦りながらムクリッ、と起き上がってしまった。


 瞬間、メデューサに睨まれたように固まる俺達。


 や、ヤバい!? と思ったときにはいつも時すでに遅し。


 司馬ちゃんの視線が覆面を被っている俺たちとかち合った。



「「「「「…………」」」」」



 沈黙する5人。


 耳が痛いくらいの静寂が俺たちを包み込んだ。


 大きく目を見開く司馬ちゃん。


 パンツを握り締めるうさみん。


 それを奪おうと覆いかぶさる古羊。


 全く関係なトコロで豊胸ほうきょう知識をたくわえる芽衣。


 そしてそのパンツを奪い返そうともみくちゃになる2人を、下半身ギンギンのまま仁王立ちで見守る俺。


 何とも言えない雰囲気が5人の間に流れていた。



「……や」



 何か言わなくては、と思った瞬間、俺の口が司馬ちゃんに向かって勝手に動いていた。




「やぁ、ぼくミ●キーッ! ハハッ!(裏声)」




 刹那、俺は初めて親友の彼女の本気の叫び声を聞いた。

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