第18話 さぁ、おまえの弱味を数えろ!

 お空から辻ちゃんの旦那さんが姿を消して、数時間後の大神家にて。


 時刻は大体夜の8時少し前。


 戦闘不能になったうさみんを連れて、もはや芽衣と古羊の溜まり場と化してしまった俺の部屋で彼女を慰めつつ、今後の方針を話し合っていた。



「うぉぉぉ~んっ!? 猿野ぉ~っ! さるのぉ~っ!?」

「お、お、落ちちゅいて!? 落ちちゅいてウサミさん!?」

「まずは洋子が落ち着きなさい? ハァ……毎回コレだと先が思いやられますねぇ。ねっ、士狼?」

「司馬ちゃぁぁぁぁぁ~んっ!? うぉぉ~っ!? 司馬ちゃぁぁぁ~んっ!?」

「……うるさいですよ士狼? 近所迷惑です」

「ねぇ芽衣ちゃん? なんか俺にだけ冷たくない?」



 知らないわよ バカ。と、珍しく人前で素の表情を見せる我らが生徒会長。


 死人に鞭打つどころか、泣きっ面に出来立てのクリーミーパイをぶつけてくる所業を前に、涙がアッサリと引っ込んだ。


 なんでこんなに不機嫌なんだよコイツ? 


 はっは~ん? さては『あの日』だな?


 なんて思っていると、唐突にうさみんが窓のヘリに足をかけ、紐無しバンジージャンプを敢行しようとしていた。



「これは夢、これは夢じゃぁぁぁぁっ! うぉぉぉ、目覚めろワガハイぃぃぃぃっ!」

「待ってウサミさん!? ここ2階、2階だから!? 血迷わないで!?」

「離せぇぇぇぇ~~っ! 今こそ我が肉体を破壊するときっ! 砕け散れ、我がおっぱいよ!」

「おいおい、うさみん? いくら刺激に飢えているからってそんなハードプレイ、身体に悪いぞ? おっぱいなら俺が揉んでやるからさ? その……元気出せよ?」

「下手くそぉっ!? 慰め方が下手くそ過ぎるよ、ししょーっ!? もういいから、ウサミさんを引き留めるのを手伝って! 見てないで手伝って!」



 しょうがないので、古羊と共にうさみんの腰にしがみついて、無理やり部屋の中へと引きずりこむ。



「ハァ、ハァ……どうしようメイちゃん? これ以上サルノくんとシバさんに接近したら、ウサミさんが死んじゃうよ」

「う~ん、ここは作戦方針を変更するべきなんでしょうが……正直に言って手詰まりです」

「なら俺にいい案があるぜ?」

「……ロクでもない匂いがぷんぷんしますね」

「ま、まぁ一応聞いてみようよ? ししょー、いい案って?」



 いまだにシクシクと後悔と懺悔の涙に溺れるうさみんの横で、生徒会シスターズの視線を一身に浴びながら、俺は最高にイカス作戦内容を口にした。



「ようはさ、あの2人を別れさせればいいんだろ? なら話は簡単だ。司馬ちゃんか元気、そのどちらかの弱味を握っておどしてしまえばいいんだよ!」

「ッ! その手があったか!」



 いやいくらなんでもそれは……、と難色を示す芽衣と古羊。


 そんな彼女たちとは正反対に、「名案じゃっ!」と水を得たお魚さんよろしく、うさみんが元気よく立ち上がった。



「そうじゃ、その通りじゃ! あんな遠回りなコトをせんでも、最初からあの女狐の弱味を握ってしまえばいい話だったんじゃ! なんでこんな簡単なことが思いつかなかったんじゃろうか……下僕1号、おまえは天才か?」

「フッ、それほどでもあるがな」

「いやナイですよ。脅迫なんて普通に犯罪ですからね?」



 と、俺を脅迫して無理やり生徒会に入部させた女がなんか言っていた。


 いやおまえがソレを言うのかよ? 


 そう思うんだったらさ、今すぐ俺がテメェのハリボテおっぱいを揉みし抱いている例の脅迫写真を消してくれや。



「な、なんだか急にやる気になったね、ししょー?」

「当然だ。俺には司馬ちゃんという可愛い後輩を、元気という害虫から守る義務があるからな!」

「普通に親友に彼女が出来て嫉妬しているだけじゃないですか……」

「むっ! 悪い虫はあの司馬葵という女で、猿野は虫ではないぞい!」



 芽衣には呆れた目で、うさみんには怒りの籠った瞳で睨みつけられる。


 おいコラ、そんな目で俺を見るな。


 俺がドMなら興奮している所だぞ?



「まぁ待て、そう怒るなうさみん。本題はどうやって司馬ちゃんの弱味を見つけ、握るかってことだ」

「あっ! だったら陸上部の人たちに聞いて回るっていうのはどうかな? ほらっ、シバさん陸上部員だし、何か知っているかもしれないよ?」

「それは無理な話だ古羊。陸上部はもはや司馬ちゃんファンクラブと化している。もし知っていたとしても話してはくれないだろう」



 むしろ陸上部の男子たちは司馬ちゃんを元気の魔の手から救出するべく、日夜身体を鍛えている脳筋野郎たちばかりだ。


 まともな情報が得られるとは思えない。



「司馬さんのクラスメイトに聞きこんでみても、多分いい結果は出ないでしょうねぇ」

「ふむ……困ったことになったのじゃ。自白剤を用意しようにも、今は材料が手元に無いし、取り寄せるにしても時間がかかる」

「落ち着けうさみん。さっき言ったろ、『いい案がる』ってよぉ」



 この場にいる全員の視線が俺に突き刺さる。


 ふふっ、ちょっと優越感に浸れて気持ちがいい。



「この作戦ならばまず間違いなく司馬ちゃんの弱味を握ることが出来るだろう。冗談でもなんでもなく、これは確定事項だ」

「す、すごい自信だね、ししょー……」

「それだけその作戦に絶対の自信があるってことですね……嫌な予感しかしませんけど」

「そ、それで!? その素晴らしい作戦とは一体なんじゃっ!?」



 ショーウインドウに飾られたトランペットを見つめる少年のようなキラキラした目を浮かべるロリ巨乳。


 俺はそんなパツキン巨乳にフッ、と口角を引きあげながら『オペレーション:ヴェルダンディー ~女神の祝福をアナタに~』と名付けられた今世紀最大の大作戦を口にした。

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