プロローグ「私を拾ってください2」
ダンボールの中に入っているお姉さん。
その、余りにも新鮮な姿に、自殺などとうにどうでもよくなってしまっていた。
渡ろうとしていた橋の途中で覗き込むように下を覗くと、やっぱりお姉さんが見える。それも冬なのに毛布一枚。中身は一体全体どうなっているのかが気になるくらいに凍えている。
やっぱりホームレスの方なのではと考えたくらいだ。
しかし、近づいてみるとやはりそうではなかった。
少しだけ大き目のダンボール。黒文字でAmazooonと書いてあり、有名なネット通販サイトのそれだろうとすぐに分かった。
そんなダンボールに毛布にくるまって入っている一人の女性。
歳は見た目からしておそらく20代。俺よりは大人っぽいし、特段髪も艶があり綺麗に見えるためやっぱりホームレスってわけでもなさそうだ。
ただ、その恰好は異様で首元はそのまんま肌色だし、頭には猫耳が乗っかっていて、ダンボールには『どうか、この子猫を拾ってあげてください』という文字。
加えて近づいてくる僕に投げかけたのが「にゃぁ」だった。
おいおいおい、まさか本当に子猫なのかと考えるほど頭がバグを起こした。
エラーもエラー、もう一度言ってほしい。
いや、言ったら余計にバグるか、それは困る。
って、ぐちゃぐちゃな頭の中をかき分けて頭の中のCPUが爆発寸前もはじき出した最初の言葉はこれだった。
「あの、ここで何やってるんですか?」
無論、これしかない最適解だと個人的に思ったのだが帰ってきた言葉はこうだった。
「漫画の取材です」
漫画の取材? 何言ってるんだ、この人。そう思いながらも僕はあらん限りの思考をフル回転させる。
つまり、この行動は漫画の取材で行っていると。
取材……かぁ、うむ、よく分からん。
あまり漫画を読んだことない僕から言わせてもらえば意味不明だ。
ただ、とりあえずこの行為はそのための物だと。とりあえず、疑問に思っていることを聞いてみるこちにしよう。
「あの、下とかってちゃんと着てますか?」
「ん、下?」
「あ、はい。そのちゃんと服着てるのかなって――」
「あぁ、そうね。着てないわよ?」
「え?」
「いやだから、着てないって」
「……」
訳が分からん。なんかこの人、頭のねじ閉まってないんじゃないのかと思うほどおかしい気がする。
まぁ、僕も人の事をたった数回の会話のキャッチボールで決められるほど簡単なんものではないことを知っているつもりだけれど、こればっかりは理解不能だ。
まず服着ないなんて、寒い北海道の冬にできるわけがない。ましては夜だぞ? 雪が降ってるんだぞ? 気温は-6℃だぞ?
それにだ。女性が服を着ないで外に出るなんて考えたこともない。もしかして、これが所謂露出狂って言うやつなのか?
「あ、あの——ほんとですか?」
「ほんとよ。見る?」
「え?」
「ほら――」
ふぁさり。
露わになる真っ白な素肌。
ボンキュッボンなスタイルのいい生まれたままの姿が僕の瞼に強烈な影を焼き付ける。
思わず目を疑ってしまう状況の連続に頭がショートしたのか、鼻から血がボトっと滴り落ちてきた。
「ちょ、ちょっと何やってるんですか‼‼ 違法ですよさすがに!」
興奮した自分が嫌になり、急に饒舌になってしまうが目の前のお姉さんはいたって冷静だった。
「うーん、なんか違うわね……こうじゃないって言うか」
「ちょ、ちょっと話聞いてます?」
「聞いてる聞いてるー」
「それじゃ、あの、早く家に帰った方がいいかと……」
「うーん。そうね、そうするわ」
あれ、急に承諾してきたぞこの人。
「あ、あの——服着ないと」
「あぁ、大丈夫。しっかりあるから」
そう言うとお姉さんは僕のことなどそっちのけて服を着だして、こっちとしては慌てて振り返り着替えるのを待つことになった。
「——何後ろ向いてるの、なんかいるの?」
「それは服を着替えだすからであって」
「別にいいじゃない、減るもんじゃないし、興奮してたしさ」
「うぐっ……や、やめてください」
「あはははっ。ショタ属性高いわね、君」
「別に子供じゃないですよ……」
「あら、そうなの? 何歳?」
「18です」
「ほう、丁度いいわね」
「え」
「あぁ~~よし、決まったわ」
急に手のひらの上に拳を落すジェスチャーをすると、すぐにお姉さんはこんな提案をしてきた。
「君、自炊はできる?」
「え、まぁ、はい」
「じゃあ、今日の晩御飯作ってくれない?」
どうやら僕は餌付けをしなければならないらしい。
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