人生諦めてた僕が河川敷で猫耳アラサーお姉さんを拾ったおかげで生きるしかない話
藍坂イツキ
プロローグ「私を拾ってください1」
「よし、死のう」
齢18にして、僕はそう呟いた。
大学に進学するつもりもなく、仕事もあるわけでもなく、両親もいないし、帰る家なんてない。
そんな人生に嫌気がさして、自殺を試みるために近所の公園に向かっていた。
なぜ公園なのかと言われると思うので言っておくが、山の麓にある高台の公園だ。一面が崖のようになっていて、落ち方さえしっかりできれば簡単に死ぬことができる不謹慎だが便利な公園だ。
それに夜景も綺麗だったし、お供には完璧だろう。
まぁ、僕が死んでから公園がダメになりそうな気がするが呪う気はないので安心してもらいたい。
「ははっ、何考えてるんだか……」
まん丸の綺麗な満月が僕を優しく照り付ける。
時刻は23時。
下手すれば補導されるかもしれないが人がいるときに死ぬのも嫌なのでこの時間を狙った。
それに、12月下旬のこの気温なら気にしなくても死体は保存できるしな。僕ってば警察に優しい。
そろそろ公園が見えてきて、川を渡る。
河川敷には薄暗い街灯が立っていて、ジンジンと白い雪を照らしている。
「はぁ……」
この見慣れた冬の幻想的な景色ともお別れかと思うと悲しくもなるが、もう決めたことだ。
今頃クラスの皆は何をしているのだろうか、今頃同じ施設育ちの友達は何をしているのだろうか。
今頃、雫は何をしているのだろうか。
よく遊びに行く公園でたまたま出会った同い年の女の子で中学まではよく一緒にいた。
ただ違う高校に進学してからは一度も出会えず、スマホがない僕には見つける手段もない。唯一の心の許せる友達で、唯一の親友。覚えているのはまだ幼さ残る顔。
死ぬ前にもう一度拝んでおきたかったが、そんな簡単にいくほど人生は甘くない。
今の僕は世界の縮図を知っているんだ。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。
生まれが人生の9割を決め、お金がその人の将来を描く。
高望みは許されない。
別に死んで良いことがあるわけがない。
でも、生きるよりかはいいんじゃないかなって思った。
「はぁっ」
両手で口を優しく覆って、と息を吐く。
すると外の寒さで一気に水分化した白いそれ。
この吐息の色も見納めだ。
――そんな風に白い息を吐いた時だった。
視界の端に何かが映った。
「ん、なんだ?」
茶色の箱。
ダンボールだろうか?
それを見て頭の中の計算機がつぎつぎと演算していく。
冬の河川敷に、ダンボールがちょこんと置かれている。
ふつうに考えたら不法投棄とかゴミ出しが面倒で捨てたとか、ホームレスの方とか。
ただ、その光景は何か異様に思えた。
だって、おかしいじゃないか。
おかしいもおかしいはずだ。
もしもそれがあり得るのなら中に入っているのは彼女ではないはずだ。
いや、だって。
もう否定しかできないほどに僕は混乱していた。
混乱が焦燥を誘い、焦燥が驚愕を誘い、驚愕が混沌を誘う。
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
だって、ダンボールに入っていたのが犬でもなく猫でもなく、ましては考えたものすべてとは違っていて。
ダンボールに入っていたのは————
猫耳を付けて子犬のようにお座りするなんとも綺麗なお姉さんだったのだから。
【あとがき】
休憩用の中編作品です。
一話1000-2000字以内で書くつもりです。
毎日投稿するかは分かりませんが少なくとも二日に一回投稿します。
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