第157話 最終日
今日も家族+梨々花と一緒に、夕飯を食べる。
二日目にもなれば梨々花もすっかり馴染んでおり、まるで元々家族であったかのようにうちの家族と笑い合い打ち解けてくれている。
そうして一緒に過ごす時間は俺としても楽しく、気付けばこの関係がこのまま続けばいいのにという感情が生まれていた。
そんな今回の帰省だが、三日目、四日目も楽しく過ごすことができた。
地元のお店を回ってみたり、田舎ならではの自然と触れ合ってみたり、いつを思い返してみても梨々花は隣で笑ってくれていたように思う。
元々は、一人でゆっくり羽を伸ばすつもりだった今回の帰省。
しかし梨々花も一緒なことで、予定はずっとてんこ盛り。
おかげで、ただゆっくり過ごすよりも充実していて、俺自身地元の街並みの変化とか改めて地元の魅力に気付くことができたし、俺自身有意義な時間を過ごすことができたと思う。
それは勿論、いつも隣には楽しそうに微笑んでくれている梨々花がいてくれたからに他ならない。
東京へは明日帰る予定のため、残りはあと一日。
そんな最終日の今日だけは、逆に一日家でゆっくりと過ごすことにした。
ちなみに今日も凛子は部活へ行っており、父さんは仕事。
そして母さんも用事があるとかで外出しているため、家には俺と梨々花の二人きり。
梨々花はというと、男と二人きりということなど気にする素振りも見せず、俺の部屋のベッドに横になりながら、まるで自分の部屋かのように寛いで漫画を読んでいる。
「なんかもう、わたしにとっても実家みたいに寛いじゃってるね」
そう呟き、おかしそうに笑う梨々花。
全くもってその通りなため、俺も「そうだね」と一緒に笑う。
ここまで寛いでいるのだ、俺以外が見てもきっと首を縦に振るだろう。
「あーあ、明日帰るのかぁ」
「まぁ、配信もあるからね」
「それはそうだけどさぁ……。てか、別にこの部屋でも配信ならできるくない?」
不満そうに、帰りたくないアピールをする梨々花。
確かに言う通り、この部屋でも別に配信はできるだろう。
でもこういうのは、公私の切り分けが大事。
配信をしようと思えばいつだって出来るのではなく、出来てしまうと考えるべきなのだ。
ゲーム配信なんかは特に、遊びの延長と言えなくもない。
それ故、配信のし過ぎで体調を崩してしまうライバーも少なくない。
だから今回の帰省では、完全に配信業は切り離すことにしている。
それは梨々花も分かってくれていることだし、今となっては梨々花自身にとっても同じ話。
だから梨々花も、頭では理解しているうえで、こうして唇を尖らせながらブーブーと駄々をこねているのだ。
そんな帰省最終日の昼下がり。
何をするわけでもないけれど、こうして二人きりで過ごしている時間は不思議な落ち着きがあった。
それは梨々花もきっと同じで、何でもない会話は尽きることはなかった。
しかし不意に、二人の間に沈黙が訪れる――。
その沈黙の間は、今俺と梨々花の二人きりであることを再意識させるのに十分だった。
この帰省で、俺は梨々花のことを更に知ることができた。
それはきっと、梨々花にとっても同じだろう。
同じ大学に通い、同じ事務所で同じVtuber。
そんな、今となっては最も身近であり、そして特別な存在――。
「……ねぇ、彰の読んでる漫画も面白い?」
そして、二人の間の沈黙を壊すように、探るように梨々花が声をかけてくる。
その声色は、先程までの気を抜いている感じとは違い、どこか改まっているように感じられた。
「……これ? うん、面白いよ」
そんな梨々花の変化に気付きつつも、俺は平静を装いつつ返事をする。
しかしもう、読んでいる漫画の内容は全く頭に入ってこない。
ただの賑やかしで流している、部屋のテレビから聞こえるバラエティー番組の笑い声。
まるで自分の動揺を見透かされて、笑われているようだ。
「……へぇ、そうなんだ」
俺のそっけない返事に、梨々花はそうぼそりと呟くと、横になっていたベッドのからゆっくりと起き上がる。
そしてそのまま、ゆっくりと俺の元まで近づいてくる。
「どんなの、かな」
背後に立った梨々花は、そう言って覗き込むようにその顔を近付けてくる。
振り向けば、目の前に梨々花の顔がある状況――。
そして、背後から抱きつく様にくっ付いてくる梨々花の行動に、俺は返事をすることも忘れてしまう。
「……これなら、一緒に読めるから」
耳元で、そっと囁く梨々花。
背中から伝わってくる梨々花の温もり、そして柔らかい感触――。
それを意識してしまったが最後、鼓動はどんどんと早まっていく――。
「……ねぇ、彰」
再び耳元で、俺の名前を呼ぶ梨々花。
回された手は、求めるように少しだけ強められていることに気付く。
「こんなにも長い間……二人きり、なんだよ?」
その言葉に、俺の鼓動はドクンと大きく跳ね上がる。
これまで誰かと付き合ったり、恋愛経験のない俺でも、その言葉が何を意味しているかぐらい察しが付いたから――。
だから俺は、後ろから回された梨々花の手をぎゅっと握る。
「……そうだね」
そう返事をしながら、俺はゆっくりと手を解き背後を向く。
そこには、頬を赤らめながらも、その大きな瞳を潤す梨々花の姿があった。
さっきの言葉、そして今目の前にいる梨々花の姿――。
そんな梨々花が俺に、何を伝えようとしているのかはもう分かっている。
経験はないし、正直今でもよく分かっていない部分も多分にあるだろう。
でも、それでも――自分の気持ちぐらいは、十分すぎるほど分かっているから。
だから俺は、覚悟を決める。
それは梨々花に対してだけではなく、これからのこと全てに対しての覚悟だ。
そんな覚悟とともに、梨々花の瞳を真っすぐ見つめる。
そしてそのまま、溢れ出る思いを言葉に籠める――。
「俺は梨々花のことが――大好きだよ」
――と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます