第152話 一日目の終了

「今日梨々花さんは、わたしの部屋で寝るから!」


 お風呂からあがった凜子が、声高らかにそう宣言をしてくる。

 梨々花もそれに納得しているようなので、それであれば俺から何か言うこともなかった。


 そんな、今日初対面なのにすっかり仲良くなった二人。

 しかし何と言うか、久々に会う凛子も少し成長しているというか、妹相手なのに目のやり場に少し困ってしまう。

 そして何より、お風呂上がりの梨々花が自分の実家にいるという今の状況に、俺は内心で結構焦ってしまっていた。


「じゃ、じゃあ俺も、風呂入ろうかな」


 結果俺は、二人と入れ替わるように風呂へと向かうことにした。

 去り際、少しだけ寂しそうな表情を浮かべる梨々花の姿が目に入る。

 たしかに、凛子と打ち解けたと言っても、ここは人の実家だ。

 俺は申し訳なさを抱きつつ、手短にお風呂を済ませることにしたのであった。



 ◇



 急ぎでお風呂を済ませた俺は、リビングへ戻る。

 するとそこでは、父さんと母さんは一緒に晩酌をし、凛子と梨々花は二人で同じスマホゲームで遊んでいた。


 その馴染み過ぎている光景を前に、一人にさせてしまう不安も杞憂だったかなと思いつつ、俺は梨々花に声をかける。


「何やってるの?」

「あ、これ? 育成ゲームだよ」

「そう! 梨々花さんも一緒にやってくれてるの!」


 二人がやっているのは、有名な育成ゲームだった。

 どうやら今凜子がハマっているらしく、オススメされて梨々花も初めてみたらしい。


「これ、やってみると凄く面白いの」

「あはは、そうだね面白いよね」

「え? お兄もやってるの?」

「まぁな」


 そう言って俺も、自分のスマホを手にする。

 実はそのゲームは、エンジョイ勢ではあるが前からやっているのだ。


「ほら、こんな感じ」

「「えぇ!?」」


 とりあえず、これまで育成したキャラリストを見せると、二人は目を丸くして驚く。

 何故そんなに驚くのかと思っていると、梨々花はともかく凜子の育成キャラより俺の育てたキャラのランクの方がツーランクほど高かったからだ。


「まぁ、上には上がいるし」

「でも、それすごくない?」

「そ、そうかな?」


 まさかこんなところで褒められるとは思っていなかった俺は、ちょっと照れくさくなる。

 それからは俺が中心になって、二人に遊び方のコツを教えていると、あっという間に時間は過ぎていく。


 そして、今日は長距離の移動してきたこともあり、梨々花の欠伸を合図にそろそろ休もうという話になった。


「それじゃ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ。なんかあったら何でも声かけてくれていいからね」

「うん、ありがと」

「わたしが教えるから大丈夫! それじゃ、梨々花さん行こっ!」


 凜子に引っ張られる形で、梨々花は凛子の部屋の中へと入っていった。

 それを見送った俺も、久々の自室へと入る。


 部屋の中は、勉強机にシングルベッド。

 あとは小さ目のローテーブルに小さ目のテレビという、相変わらず我ながら何もない部屋だ。


 以前は勉強机の方に配信用のパソコンを置き、勉強などはローテーブルの方でやっていたのだが、今ではパソコンもないため本当に物の少ない部屋となっている。


 ベッドの方は、事前に母さんが布団を干してくれていたようでフカフカだった。

 その上にダイブするように横になると、全身に一日の疲れがずっしりと圧し掛かってくるようだった。


 何はともあれ、梨々花もうちの家族と馴染んでくれたみたいだし、問題もなく一日を終えることができた。

 そんなちょっとした達成感とともに、俺は眠気に身を任せる。


 隣の凜子の部屋からは、何を話しているのかは分からないが二人の会話している声が少しだけ漏れて聞こえてくる。

 そんな二人の声をBGMにしつつ、今日はそのまま気付いたら眠りについていたのであった。



 ◇



 ユサユサ……ユサユサ……。


 誰かに身体を揺すられて目を覚ます。

 寝起きでおぼつかない目と頭で、俺は今の状況を確認する。


「あ、起きた」


 すると、隣からよく知る声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには、微笑む梨々花の顔があった。


 ここは間違いなく、実家の俺の部屋。

 つまり現在、自分の部屋で俺と梨々花の二人きりという状況になる。


 それを理解した俺の頭は、一気に覚めていく。

 自分の部屋で、こうして梨々花と二人きりの状況は俺の目を覚ますのに十分過ぎたのだ。


「な、なんで!?」

「だって凜子ちゃん、もう部活行っちゃったから」


 なるほど、凛子は今日も部活なのか。

 それで、一人になった梨々花は俺を起こしに来たと……。

 それは自然な話だし理解できたのだが、ちょっとまだ戸惑ってしまっている自分がいた。


「それにしても、彰ってば全然起きないんだもん」

「え、そんなに起こしてくれたの!?」

「ううん、起こしてはないよ」


 じゃあどういう……そう戸惑っていると、梨々花は悪戯な笑みを浮かべる。


 そして――、



「いつ起きるかなーって、しばらく観察してただけ♪」



 梨々花のその言葉に、俺の胸はドクンと脈打つ――。

 途端に恥ずかしくなった俺は、耳まで真っ赤になってしまったのは最早言うまでもないだろう――。



----------------

<あとがき>

間隔が空いてしまい、申し訳ございませんでした。

クラきょど3巻の方の執筆やサインなど色々立て込んでまして……


色々頑張ったクラきょど3巻、8月19日に発売ですので皆様こちらもよろしくお願いします!!!!!


またおれブイも、マイペースに執筆させていただきますね!

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