第151話 お風呂 ~梨々花視点~
凜子ちゃんに誘われて、一緒に浴室へと向かう。
完全に勢いで来てしまったけれど、まさか彰の妹さんと会ったその日に一緒にお風呂に入るだなんて思ってもおらず、ここまで馴染んでしまっている自分がちょっと怖いぐらいだ。
「はいこれ、梨々花さんのタオルね」
そう言って凜子ちゃんは、洗面所にある棚の中から身体を洗う用のタオルを取り出して差し出してくれる。
有難く受け取ると、そのまま鼻歌交じりに服を脱ぎ出す凜子ちゃんに合わせて、わたしも恥ずかしさを感じつつも一緒に服を脱ぐ。
「……わ、やっぱり大きい」
すると凜子ちゃんは、わたしの胸をじーっと見つめながら、信じられないものを見るようにそう小さく声を漏らす。
「そ、そんなことないと思うよ?」
「そんなことありますよっ! それを言ったら、これはどうなるんですっ!?」
謙遜するわたしに向かって、凛子ちゃんは自分の胸をバーンと見せてくる。
それは正直、お世辞にも大きいとは言えない可愛らしいサイズ感で、こういう時に何て返したらいいのか分からずハハハと笑って誤魔化すしかなかった。
そんなわたしの反応が不服なのか、不満そうにぷっくりと頬を膨らます凜子ちゃんはやっぱり可愛かった。
彰の妹だというのも納得で、母親譲りの目元がそっくり。
彰自身があれだけカッコいいように、それを女の子に適用しても可愛いだなんて、何て素晴らしい遺伝子なのだろうか。
――って、わたしってば何考えてるのよっ!
思わず変なことを考えだしてしまった自分にツッコミを入れつつ、気持ちを切り替えて凜子ちゃんと一緒に浴室の中へと入るのであった。
◇
「――それで、梨々花さんはお兄のこと、どう思ってるんですか?」
一緒にお風呂へ入れば仲は更に深まり、並んで肩までお湯に浸かっていると凛子ちゃんが改まってそう問いかけてくる。
きっと凜子ちゃんはもう、わたしの気持ちには気付いているのだろう。
それが分かったうえで聞いてきているのだと理解したうえで、わたしはその問いに答える。
「……そうだね、いいなって思ってるよ」
「それはやっぱり、異性として?」
「うん、異性として」
彰の妹にわたしは何を言ってるんだろうと思うが、だからこそここは誤魔化すことなく答える場面だと思った。
そんなわたしからの即答に、凛子ちゃんはうーむと何やら考え込んでしまう。
「……お兄はさ、高校時代は陰キャってわけでもないけど、目立たない感じだったのさ。それがさ、久々に家に帰ってきたと思ったら、東京色に染まっちゃっててさ」
「東京色……」
「そうだよ、しかもこんなキレイな人まで一緒に連れて帰ってくるなんて、普通思わないじゃん?」
同意を求めるように、わたしの目を真っすぐ見て訴えかけてくる凜子ちゃん。
しかし、そんな風に面と向かってキレイだとか言われると、言われている本人としてはちょっと反応に困ってしまう。
でもこの話はそこじゃなくて、彰のことを話しているのだ。
だからわたしも、ここは恥ずかしさをぐっと堪えてうんと頷く。
「まぁ、わたしは知ってたよ? お兄って、ちゃんとしたらちゃんとするってさ。だからまぁ、これは良い変化じゃん? でもさ、そう
思っててもさすがにこれは驚くって」
「えーっと、ごめんね?」
「いや、梨々花さんは謝らないで! わたしが勝手に驚いてるだけだもん。――でも、うん。良かったんじゃないかな」
「良かった?」
「だって梨々花さんも、あんなお兄だけど気に入ってくれてるんでしょ?」
そう言って凜子ちゃんは、ニヤリとした笑みを向けてくる。
だからわたしも、頷きながら一緒に微笑む。
「もしかしたら、このまま梨々花ちゃんがわたしのお姉ちゃんになったりして?」
「ちょ!? そ、それは!!」
「え、違うの?」
「もう、揶揄わないでよっ!」
「冗談だってば! あははは!」
照れるわたしを見て、楽しむように笑う凜子ちゃん。
今日初めて会ったけれど、そんな距離感が嬉しくてわたしもつられて一緒に笑い合う。
もし凜子ちゃんが自分の妹になってくれたら、それはきっと楽しいに違いないだろうなと思いながら――。
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