第150話 変化と覚悟
夕飯も済んだ頃には、すっかり凜子は梨々花に懐いてしまっていた。
東京のことや、モデルのAYASEについてあれこれ質問を繰り返しているのだが、そんな凜子に梨々花も楽しそうに相手をしてくれている。
そんな二人を見ていると、まるで姉妹のようでちょっと微笑ましく思えてくる。
「ねぇ梨々花ちゃん! 一緒にお風呂入ろうよ! 大丈夫、うちのお風呂
地味に大きいから!」
「えっ? お風呂?」
「うんっ! 行こっ!」
「あ、うん、じゃあ……」
急にお風呂に誘われた梨々花は、少し戸惑ってはいるものの一緒に立ち上がる。
そして俺に「いいのかな?」という視線を向けてくるが、梨々花が迷惑でないのなら別に構わないし、それは父さんも母さんも同じ考えだろう。
それが伝わったのか、それじゃあと凜子と一緒にお風呂へ向かう梨々花。
こうして二人を見送った俺は、することもないしパソコンで調べものでもすることにした。
「可愛い子ね、藍沢さん」
「そうだな、最初見た時はちょっと驚いたぐらいだぞ」
食後の緑茶を淹れてくれた母さんと、父さんが梨々花について話題を振ってくる。
当然無視をするわけにもいかない俺は笑って流す。
「でも、こうして一緒にここまで来たってことは、そういうことなのかしら?」
「おいおい母さん、そういうのはお節介ってもんだぞ」
「ふふふ、そうね」
「でも彰、実際どうなんだ?」
しかし勝手に盛り上がる二人は、結局俺と梨々花の関係について聞いてくる。
事前に彼女ではないと伝えてはあるが、確かにここまで一緒にやってきているのだ。
両親からしてみれば、当然気になる話題なのだろう。
梨々花との関係は、友達以上……と言ってもいいものだと俺は思っている。
でも俺達は、別にまだ付き合っているわけではない恋人未満。
それもどちらかと言うと、限りなく友達寄りのだ。
だから俺は、ここは素直に答えることにした。
「本当に付き合ってはないよ。でも俺は、梨々花のことを素直に良い子だなって思ってる」
だからどう在りたいかまでは、言葉にしなくてもきっと伝わるだろう。
そう思い言葉にすると、父さんと母さんは顔を見合わせる。
二人ともその表情には、満足そうな笑みが浮かんでいる。
「そうか、分かった。彰も成長したんだな」
「そうね」
そして父さんと母さんは、そう言ってこの話題はここまでにしてくれた。
高校時代の俺は、決して目立つようなタイプではなかった。
それでも、高校三年生になる頃から始めたVtuber活動により、俺は自分に自信を持てるようになったと思う。
そして大学生になった俺は、今こうして梨々花を実家へ招きつつ自分の気持ちを言葉にしているのだ。
それは自分自身、以前とは大きく変わったなと実感できた。
Vtuber活動を始める前の自分なら、今のような状況には絶対になっていないだろうし、もっと内向的な性格をしていたように思うから。
でもこの変化は、自分だけではきっと成し得なかっただろう。
FIVE ELEMENTSのメンバー達、そしていつも身近に梨々花がいてくれたからこそ、俺はこうして変わることが出来たのだ。
一人ではなく、いつもみんながいてくれるおかげ。
そんな有難さを実感しつつ、俺はこれからの自分がどう在りたいのかを考える――。
こうして、実家にまで一緒に来てくれた梨々花。
俺の自惚れでなければ、きっと梨々花自身も少なからず俺に好意みたいなものは抱いてくれているはずだ。
それは俺にとって嬉しいことだし、つい期待をしてしまう自分もいる。
しかし、俺達は今では同じ事務所のVtuber同士。
これ以上距離を縮めてしまうのは、感情論以外の面までちゃんと考慮しなければならないだろう。
――だからこのまま、最も身近な友達のまま一緒にいる方が、お互いに居心地がいいのではないだろうか?
そんな考えが、今日まで何度も脳裏にちらついてきた。
近づき過ぎず、離れ過ぎず――そんな、きっとお互いにとって居心地がよく、都合の良い距離感――。
でもきっと、それでは駄目なことは分かっているのだ。
中途半端なまま、何も変わらずにいられるはずもないのだから――。
だからこの帰省の中で、俺は自分の中で一つの答えを出すつもりでいる。
今後自分はどう在りたいのか、そしてどう在って欲しいのか――。
本当はこの夏休みにケリを付けようと思っていたのだが、もうこの状況ではそうも言ってはいられないだろう。
だから俺は、この実家で過ごす数日間。
まずは梨々花に、自分の地元を沢山楽しんで欲しいと思っている。
そしてその中で、自ずと全てがはっきりしてくるだろう。
その時自分が本心からどう考えるか、それはその時の自分に全て任せようと思う――。
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