第148話 家族団欒
「じゃあわたしは、そろそろご飯の用意しちゃうわね」
そう言って立ち上がった母さんは、台所へと向かう。
「あ、わたし! 何かお手伝いを!」
「いいのよ、せっかく遠いところから来てくれたんだし、ゆっくりしていってちょーだい」
「は、はい……」
「うふふ、気持ちだけ貰っておくわね。ありがとう」
そう言って微笑む母さんに、梨々花も照れくさそうにその頬を赤らめながら微笑む。
そして再び俺の隣に座ると、一緒に配信を眺める。
「この二人、本当にホラー耐性が凄いよね」
「あはは、だね。見てるこっちはビビってるのに」
「へぇー、彰はさ、ホラー系苦手なの?」
「うーん、まぁ、進んでやりたくはないよね」
苦笑いを浮かべる俺に、梨々花はおかしそうに微笑む。
「じゃあ、今度わたし達もホラゲコラボしない?」
「え? 今の話聞いてた?」
「聞いたうえでだよ! やっぱりホラゲ配信は、配信者がビビることでしか得られない栄養素があるんだよ」
「なんだそりゃ……」
何の話かはよく分からんが、こんなにワクワクとした表情を向けられては俺も断れなくなってくる。
それに俺自身、実際は口で言う以上に結構ホラーは苦手なので、ここは口約束だけに留めたい気持ちもあるのだが……なんとなく、梨々花の様子的にそれは許されなそうだった。
「しかしなんだ、二人とも本当に仲がいいんだな?」
「「えっ?」」
すると、テレビを観ていた父さんがいきなり笑いながら声をかけてくる。
驚いた俺達は、全く同じタイミングで同じ言葉を発すると、それから顔を見合わせて互いに恥ずかしくなる。
「ははは、やっぱり相性ピッタリだ。どうだい藍沢さん? うちの彰は?」
「ふぇ!? あ、いえ、そ、そそそ、そんなどうって……」
「ちょっ!? 父さん! そういうイジりはやめてくれよ!」
「はっはっは、そうだな、すまんすまん。でも藍沢さんさえよければ、うちは大歓迎だよ。ねぇ母さん?」
「ふふふ、そうね。でも彰には、ちょっともったいないんじゃないかしら?」
「違いない」
能天気に笑い合う父さんと母さんに、俺の顔は恥ずかしさでどんどん熱くなっていく。
そして梨々花も、同じく恥ずかしそうに取り乱していた。
「……ごめん、うちの家族っていつもこんな感じで」
「あ、あはは、だ、大丈夫だから」
途端に隣り合わせでいることが恥ずかしくなってきてしまうのは、きっと梨々花も同じだろう。
この近すぎる距離感に、さっき以上にドキドキしてしまっている自分がいた。
「……ご両親の公認、か」
「え?」
「あ、な、なんでもないっ! さ、配信に集中しよ、集中!」
誤魔化すように、再びパソコンのモニターに一点集中する梨々花。
そんなこんなで、今にも梨々花と肩が触れ合いそうになる距離感で見るホラゲ配信は、もう違った意味でドキドキさせられっぱなしなのであった。
◇
「よし、こんなところかな」
ハヤト達のコラボ配信も終わり暫くゆっくりしていると、料理を終えた母さんが戻ってくる。
肉じゃがだろうか? 和食の良い香りがして、懐かしさと共に食欲をそそられる。
しかし、もうすっかりいい時間だしお腹も空いているのだが、それでもまだご飯にできない理由がある。
それは――、
「ただいまー。何? 今日は肉じゃがー?」
ノックもなく玄関の扉が開けられるとともに、聞こえてくるのは女性の声。
「ふぅー、今日も部活疲れたよぉ。お腹空いたぁ~」
そしてリビングへ、そんな気の抜けた声とともに入ってきたのは、夏服のセーラー服を着た女子高生。
「……え? お兄? ってか、え、誰……?」
そして彼女は、俺と梨々花の姿を見て驚きの表情を浮かべる。
「お、お邪魔してます……」
「あ、はい……。ってか、えっ!?」
少し気まずそうにする梨々花と、驚く彼女は見つめ合う。
そんな驚く彼女の名前は
数ヵ月ぶりに会う凛子は、以前の黒髪から薄っすらと茶髪にしており、長い髪をポニーテールにまとめている。
まだ俺が東京へ行って長い時間が経っているわけではないが、それでも久々に会った凛子からは、梨々花ほどではないがギャルっぽい印象を受ける。
でも、だからなのだろう。
いきなり家に帰ったら、自分以上にギャルの、しかも東京でも誰もが振り返るような美人が、こんな地方の何でもない一軒家に遊びに来ているのだ。
そんなもの、驚かない方が不自然ってもんだろう。
「き、聞いてないんだけどっ!?」
「あー、すまん。凛子には何も言ってなかったの?」
「ははは、すまん。そう言えばそうだったな」
「サプライズよ、サプライズ。それじゃ、ご飯の用意しちゃうわね」
どうやら父さんも母さんも、凛子には何も言っていなかったようだ。
その結果、とても不満そうに膨れてしまう凛子。
見た目はちょっと大人びても、どうやら凛子は凛子のままなようだ。
「そ、そっか……ごめんな凛子、何も言ってなくて。こちらは、同じ大学の藍沢梨々花さん」
「は、初めまして」
「ど、どうして同じ大学の女の人がここにいるのよっ!? それに物凄く美人……も、もしかして、お兄の彼女!?」
俺の帰省を一人だけ聞かされていなかった凛子は、驚きながら当然の勘違いをする。
ただ残念ながら、俺達はそういう関係ではないからすぐに訂正しようとしたのだが――。
「お、おおお、お兄の不潔ー!!」
凛子はそう叫びながら走り出すと、勘違いしたまま自分の部屋へと行ってしまったのであった。
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