第138話 夜風

 海辺で遊び尽くした俺達は、再び別荘へ戻る。

 外はすっかり日も沈みかけており、女性陣から順にお風呂を済ませていくこととなった。


「どう? 楽しかった?」


 一緒に片付けをしながら、ハヤトがそう言って笑いかけてくる。

 ハヤトはハヤトで、ずっとマネージャーさん達の相手をしていたため、その表情は少し疲れているように感じられた。


「まぁな」


 楽しいか楽しくないかで言えば、まぁ普通に楽しかった。

 これまで女性とはほとんど縁がなかっただけに、女性に囲まれて遊ぶなんて、まるでハーレムラブコメの主人公にでもなった気分だった。


 メンバーやDEVIL's LIPのみんなが一緒に楽しんでいる姿を見られることが、俺は素直に嬉しかったのだ。

 だから俺も、仲間として一緒に楽しむことに徹していたわけだが、そんなもの関係なく俺自身も普通に楽しんでいた。


 そんなわけで、昼から食べて遊んでの今回の集会。

 日が沈む頃には全員、遊び疲れてしまっているのであった。


 マネージャーさん達に至っては、お酒を飲み過ぎたのか全員部屋で休んでしまっている。

 一応俺達の保護者役でもあったはずなのだけれど、まぁ気晴らし出来ているなら何よりだ……。


 そのため、まだ起きているのは俺達FIVE ELEMENTSのメンバーと、DEVIL's LIPのメンバー。

 お風呂を済ませた女性メンバー達が、続々とリビングへ集まってくる。


 夏場のお風呂上がりということもあり、ノースリーブにショートパンツなど露出の高い服装の女性陣を前に、目のやり場に困ってしまう。


 しかし、昼間は一緒に水着姿で遊んでいたわけで、今よりもっと露出が多かったはずだ。

 それなのに何故、布面積が多いにも関わらず見てはいけないものを見てしまっている感じがするのか……。


「よし、じゃあ俺達は男同士一緒にお風呂を――」

「断る。お先にどうぞ」

「ははは! つれないなぁー」


 一緒にお風呂に入ろうとするハヤトを軽くスルーし、先に風呂へと向かわせる。

 心なしか、DEVIL's LIPの面々が反応してこっちを見てきていた気がするのは気のせいだろうだろうか……?


 まぁそんなわけで、男一人この場に残るのも気を使うため、俺は夜の近辺を一人散歩でもしてみることにした。



 ◇



 別荘を出た俺は、少し歩いた先にある自販機横のベンチに腰掛ける。

 周囲は灯りが少ない分、空を見上げれば沢山の星が光輝いている。


 聞こえてくる波音は心地良く、ずっと騒がしかった今日までが嘘のように静まり返っている。


 俺は自販機で買った缶コーヒーを飲みながら、ハヤトがお風呂から上がるまでここでゆっくりすることにした。


「なーに、一人で黄昏れてるの?」


 すると、そんな俺にかけられる声――。

 振り向くとそこには、リリスの姿があった。


「別に黄昏れてたわけじゃないけど」

「そう? えへへ、ついて来ちゃった。ねぇ、わたしも一緒していい?」

「どうぞ」


 自販機でジュースを買ったリリスは、そう言って俺の隣に腰掛ける。

 まだ少し濡れている髪からは、シャンプーの甘い香りが風に乗って香ってくる。


 Tシャツにショートパンツという、水着に比べれば露出も少ない服装のはずなのだが、何故だか意識してしまう自分がいた。


「ふぅ、風が気持ちいいね」

「うん、そうだね」


 同じ大学にも通い、今では同じVtuber同士。

 俺にとってリリス――いや、梨々花は一緒にいて落ち着く存在。


 それは梨々花もきっと同じなのだろう。

 自然な笑みを向けてくる梨々花の姿に、俺の胸はトクンと弾む――。


 ほんのりと頬を染める梨々花と、そのまま目と目が重なり合う。

 一度重なり合った視線は外れることなく、お互いが引き寄せられるようだった。


「あ、その……さ……」


 すると、恥ずかしそうに梨々花から口を開く。


「海でナンパされた時は、その……ありがとね……」

「え? ああ、いや、全然そんな……」


 急に改まってお礼を言われた俺は、なんて返事をしていいのか分からずドギマギしてしまう。

 こういうのは慣れていないのだ。


「あの時の彰……カッコよかったよ?」

「……え?」


 そして梨々花は、真っすぐと俺のことを見つめながら、そんな言葉を口にする。

 驚いた俺は、思わず変な声を発してしまう――。


 そしてまた、見つめ合う二人――。

 梨々花の大きな瞳が、真っすぐこちらを見つめてくれている。


 そんな目の前の梨々花の姿に、俺の胸はまた一つトクンと高鳴る。

 そして俺はもう、その感情の正体にも気付いている。


「俺は――――」

「あっ! リリスいた! アーサーさんも一緒だ!」


 俺は勢いに任せて、自分の気持ちと向き合おうとしたその時だった。

 梨々花を探しに来たDEVIL's LIPのメンバーが、こちらへやってくる。


「え? あはは、ごめんごめん! ジュース買いに来たらたまたま会って!」


 それに気付いた梨々花は、立ち上がりメンバーの元へと慌てて駆け寄っていく。

 その耳は真っ赤に染まっており、それは先程の言葉を誤魔化すようでもあった。


 ――というか今、俺は何を言おうと思ったんだ……!?


 そして我に返った俺も、自分がたった今口にしようとしていた言葉を思い出し、途端に恥ずかしくなってくる。


 俺はさっき、この梨々花との大切な関係をどうしようと……。

 そう思うと、恐ろしい言葉を口にしようとしていたことに気付く。


 それでも俺は、先程の一件ではっきりと自覚するのであった。


 俺はもう、梨々花のことを友人以上の存在だと思っているということに――。



 -------------------------

 <あとがき>

 長らく連載が止まってしまっており、大変申し訳ございませんでした。

 またマイペースではありますが、再開させたいと思いますのでよろしくお願いします!

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