第139話 トランプ
「あ、戻ってきた! ねぇ、みんなでゲームやらない?」
別荘へ戻ると、風呂から上がったハヤトを含む他のメンバー四人が、リビングで俺達の帰りを待っていた。
そして、俺達が戻ったことに気付いたアユムが、待ってましたとばかりに駆け寄ってきてそう声をかけてくるのであった。
「ゲーム?」
「そう、トランプ持ってきたんだ!」
そう言ってアユムは、手に持ったトランプを紋所のように見せてくる。
まぁ、こういう旅行先での遊びと言えば、トランプが定番と言えば定番だろう。
流石はゲーム好きなだけあり、その表情はすっかりやる気満々といった感じだった。
「なるほどな。でも悪い、俺は先に風呂行くから、先にみんなで遊んでてくれ」
しかし、アユムには悪いが先に風呂へ入りたかった俺は、そう断りを入れて風呂へと向かう。
俺だけまだ細かい砂が付いているのだ。
さすがにそろそろサッパリしたかった。
するとアユムは、少し不満そうに唇を尖らせるものの、渋々オーケーしてくれた。
というわけで、先にみんなで遊んで貰いつつ、俺は風呂に入ることにした。
「ふぅ、やっとサッパリできるな」
そんな独り言とともに、浴室の扉を開ける。
そこには、思った以上に広い空間が広がっていた。
浴室も大きくちょっとした温泉のようでもあり、たしかにこれなら複数人同時でも何も問題はなさそうだった。
そんなことを考えつつ、俺はささっと身体を洗って浴槽へ肩まで浸かる。
今は夏ではあるものの、全身の筋肉が休まるような安らぎを感じる。
「ふぃ~、極楽極楽」
そんな独り言とともに、俺は何気なく入り口のすりガラスの方へ目を向ける。
するとそこには、明らかに人の影が……。
それも一人ではなく、数人の……。
「……何やってるんだ?」
そう俺がその人影に声をかけると、バレたと思ったのか慌てて消え去っていく。
一体何がしたかったのかは謎だが、もし覗き見をしようというなら明らかに逆だろう。
透けた服の色的に、恐らくネクロとアユムあたりだろう。
やれやれと思いながら俺は、無事に覗き見犯もいなくなったことで再び身体を休めることにした。
どうか、さっき脱いだパンツだけは無事でいてくれと切に願いながら――。
◇
三十分以上は入っていただろうか、風呂から上がった俺は、パンツの無事にほっとしつつリビングへと向かう。
するとみんなは集まって、ババ抜きを楽しんでいるようだった。
そして、まだ未成年のリリスとミリアを除いた五人はお酒を飲んでおり、ただのババ抜きにしては白熱している様子だった。
「あっ、やっとアーサーきたぁー」
俺に気付いたカノンが声をかけてくる。
その声につられるように、七人の視線が一斉にこちらへと向けられる。
「さぁ、はやくアーサーも一緒にやるよぉー。ちなみに罰ゲームはありまぁーす!」
右手でふにゅふにゃと手招きをしながら、すっかり酔いの回っているカノン。
「罰ゲームってなんだ?」
「負けた人は、一番に上がった人の言うことを何でも一つ聞かないといけませ~ん!」
「中々えげつないルールだな……」
「いいから、アーサーもはやくはやくぅ~」
この場において、俺だけ断る選択肢は恐らくないだろう。
俺は若干の覚悟を決めて、次のゲームから加わることとなった。
そしてババ抜きの結果は、一位はネクロで負けたのはツクシちゃんだった。
「……不覚」
「わたしが一番だから……じゃあ、語尾にニャンで」
「ニャン?」
「そう、ニャン」
普段は無表情なネクロが、珍しく楽しそうな笑みを浮かべつつツクシちゃんに命じたのは、語尾に「ニャン」を付けることだった。
「……それは、少し恥ずかしい」
「ニャンは?」
「……分かった、ニャン……」
そして、同じく無表情なことの多いツクシちゃんも、恥ずかしそうに頬を赤らめつつ語尾にニャンを付けるのであった。
そんな恥じらう仕草は正直可愛く、また月子として元々知っていた俺にとって、有名人のそんな姿を見られることはとても貴重でもあった。
そんなわけで、酔っ払い達に一体何を命じられるか分からないこのババ抜き。
俺は絶対に負けられないと覚悟を決めつつ、戦いに加わるのであった――。
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