第137話 海辺

「ほら、そろそろアーサーもみんなと海行ってらっしゃいよ」


 しばらく話していると、早瀬さんはそう言って俺の背中をポンと押す。

 他のマネージャーさん、そしてしれっと合流しているハヤトも頷いており、どうやら完全に俺も海へ行かなければならない流れなようだ。


「女の子達だけっていうのも、危ないからね」

「だったらお前も来いよ」

「はっはっは、僕は駄目だよ。皆さんにお酒を注ぐっていう大事な役目があるからね」


 そう言うハヤトも一緒にワインを飲んでおり、マネージャーさん達もハヤトの味方をして頷いて笑っている。

 この場でお酒を飲めないのは俺だけ。

 そしてよくよく考えれば、この場にこれ以上残るというのもそれはそれで地獄なことに気付いた俺は、一先ず言われた通りここから抜け出すことにした。


 ――しかし、どうしたものか。


 一人で女性メンバー達のもとへ合流するのは恥ずかしい。

 それに、混ざったところで一人浮くのも嫌だし、みんなに気を使わせるのも悪い気がする……。


 ――それになにより、水着姿の女性に囲まれるというのもな……。


 そんな悩みを抱きつつも、もう向かうしかない俺は海辺で遊ぶみんなの方へと近付いていく。


 しかし、その時だった。

 みんなから一人外れたところで、リリスが知らない男達に囲まれていることに気付くのであった――。



 ◇



「ふぅ、ごめん! わたしちょっと休憩!」


 みんなとのビーチボールで遊び疲れたわたしは、一人抜け出して近くにあった石の上に座る。

 目の前では、FIVE ELEMENTSの皆さんとDEVIL's LIPのみんなが一緒に遊んでいる。

 そんな光景に、わたしは思わず笑みが零れてしまう。


 ――今日は来て良かったなぁ。


 まさか、自分がこんな風にみんなと一緒にいられるなんて、大学入学当初の頃には思いもしなかったな。

 そんなことを思いながら、わたしは別荘の方へ視線を向ける。


 そこでは、マネージャーさん達とアーサーが、何やら楽しそうに会話をしていた。


 ――いいな、わたしも混ざりたいな。


 それでも、ここで自分だけ抜けるというのも変に目立ってしまうだろう。

 まぁ別に焦る必要はないし、今はFIVE ELEMENTSの皆さんと交流できていることが嬉しいのも本当。


 ただ、この場にアーサーも一緒にいてくれれば、きっともっと良かったのになと思ってしまうだけなのだ……。


「あれ? 君、今一人? めっちゃ可愛いね」


 するといきなり、見知らぬ男性二人組に声をかけられる。

 二人とも日焼けをしており、言い方はあれだけどかなりチャラそうな印象だった。


「違います」


 だからわたしは、すぐに視線を外して一言だけ返す。

 近くにはみんなもいるのだ、この人達もすぐに気付いて立ち去るだろうと思いながら。


「いやいや、どう見ても一人じゃん?」

「そうだよ、良かったら一緒に遊ぼうよ? お酒驕るからさぁ」


 しかし、二人組は諦めなかった。

 ニヤニヤとした笑みを浮かべつつ、わたしのことをナンパしてくる。


 こういう経験は、これが初めてではない。

 どうやら人より目立ってしまうわたしは、過去にも何度かこうしてナンパをされた経験がある。


 だから今回も、いつも通り適当にあしらうだけだ。

 ナンパに付いていくわけがないでしょと思いながら、わたしはここから立ち去るために無視をして立ち上がる。


 しかし、ここで想定外のことが起きる――。

 なんと男の一人が、わたしの腕を掴んできたのである。


「いやいや、どこ行くのよ?」


 これは完全に、想定外だった。

 ここは海で、お互いに水着姿ということもあり、開放感が増してしまっているのだろう。


 街ではされたことのない行動に、わたしは恐怖に襲われる――。


 でも、その時だった――。



「すいません。その手、離してもらっていいですか?」



 その声は、わたしの一番よく知る声だった——。

 振り向くとそこには、アーサーの姿があった。


 いつもにこやかで、怒ることなんてないアーサー。

 でも今は、わたしをナンパする二人組を睨みつけるように、怒ってくれているのが分かった。


「は? 誰よ?」

「その子の連れです」

「――ちっ、何だよ彼氏持ちかよ。行こーぜ」


 自分が原因で、まさか喧嘩にならないかと不安に思うも、意外とすんなりと二人組は去って行ってくれた。

 元々人の多いビーチではないため、これ以上騒ぎを起こせば目立ってしまうと思ったのだろう。


「ふぅ……大丈夫? 何か嫌なこと言われたり、されたりしてない?」


 そしてアーサーは、安堵の溜め息とともにわたしのことを心配してくれる。

 さっきの怒った表情はどこかへ消え去り、優しく安心させるように微笑んでくれるその顔は、いつものアーサーだった。


「……うん、大丈夫。ありがとね」


 恥ずかしくなって、直接顔が見られなくなりつつも、わたしはちゃんとお礼を告げる。


「そっか、なら良かった」


 それでもアーサーは、そんなわたしに向かってまた優しく微笑みかけてくれるのであった。


 ――やっぱり、かっこいいな。反則だよ……。


「ちょっと! 大丈夫だった?」

「何よあいつら」

「ギルティ―」


 そこへ、騒ぎに気付いて他のみんなも駆けつけてきてくれる。

 カノンさん、アユムさん、ネクロさんも怒ってくれており、その気持ちが嬉しかった。


「ごめんなさい、お騒がせしました。その、アーサーが助けてくれたので、もう大丈夫です」


 わたしはみんなに謝罪とお礼を告げると、心配させないためにも笑顔を作る。

 そんなわたしの気持ちを汲み取るように、みんなは安心するように微笑み返してくれた。


 アーサーだけでなく、みんながこうして心配してくれていることがとっても嬉しかった。


「えっと、じゃあその、さ……。俺も混ぜてもらっても、いいかな?」

「え? アーサーも入るの?」

「あー、うん。あっちはほら、大分お酒回ってるみたいだから……」


 アーサーのその言葉に、全員「あー」と頷きながら察する。

 見れば、別荘の方ではマネージャーさん達とハヤトさんがお酒を楽しんで騒いでいる姿が見えた。


「じゃ、アーサーも一緒に遊ぼ!」


 だからわたしは、そう言ってアーサーの手を取り海へ駆け出す。

 だってアーサーったら、男一人で気まずそうにしていたから。


 こうして、それからはアーサーも交えて一緒に遊べる時間が、わたしは楽しくて楽しくて仕方がないのであった。



 -----------------------

 <あとがき>

 良かったね、リリスちゃん。


 いつもありがとうございます!

 以下、宣伝失礼します!

 2023年、一発目の新作を投稿させていただきました!


「難攻不落の南光くんと、絶対に落とす音洲さん」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330653924549070


 絶対に恋に落ちない主人公と、絶対に相手を恋に落としてしまうヒロインのほこたてラブコメです!

 きっと楽しんでいただけると思いますので、こちらも良ければよろしくお願いします!!

 まだ連載したてですので、今ならみんな古参です!笑

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