第115話 どっち?
「ね、まだ時間あるよね?」
水着を買えてご満悦な梨々花は、そう言って俺の予定を確認してくる。
もちろん、今日はこの買い物以外何も予定を入れていない俺は大丈夫だよと答える。
「じゃあさ、もうちょっと買い物して行ってもいいかな?」
嬉しそうに微笑む梨々花は、それならとそのまま同じモール内の服屋さんへと入っていく。
前に渋谷で会った時も沢山買い物袋を手にしていたし、普段からお洒落な梨々花はファッションが好きなのだろう。
そんな楽しそうにしてくれるのならば、俺も喜んで付き合うことにした。
こうして梨々花に連れられて入ったお店は、ギャル向けといった感じの服屋さんだった。
夏だから露出の多い服が多く並べられており、店員さんも買い物にいている人もみんなザ・ギャルといった感じだった。
「ここの新作が気になってたんだよね」
「そ、そうなんだ」
「うん! ここの服、みんな可愛くて好きなんだぁー」
そう言って、楽しそうに微笑む梨々花。
その楽しそうな姿のおかげで、俺も緊張が解れるというか、自分がここにいる理由にも折り合いがついていく。
「あ、梨々花ちゃんじゃん! また来てくれたんだぁー!」
「はいー! 来ちゃいましたぁー!」
梨々花に気付いた店員さんが、声をかけてくる。
背の高い、梨々花と同じ美人系ギャルの店員さん。
そんな店員さんと梨々花が二人で話しているだけで、何だかとても絵になっているようだった。
このまま写真に収めて雑誌に載せても、きっと全く違和感はないだろう。
「え? ってか何、もしかして彼氏?」
「ふぇ!? い、いや、違いますよ!」
そして店員さんは、俺を見ながら勘違いをしてくる。
慌てて梨々花は違うと言うが、そんな梨々花の反応を面白がるように店員さんは笑っていた。
「はいはい、まだ彼氏じゃないってことね」
「もう! と、とにかく違いますからぁ!」
顔を真っ赤にする梨々花の反応に、俺まで恥ずかしくなってきてしまう。
すると、今度はそんな俺の方に興味を示す店員さん。
「なるほどねぇ、たしかにイケメンだしお似合いじゃない! それじゃ、ごゆっくり~!」
それだけ言うと、店員さんはレジの方へ向かって行ってしまった。
こうして、接客を敢えてしないで自由にしてくれているのであろうことは、他のお客さんに接客している別の店員さんを見ていれば分かった。
「……も、もう、違うってば」
恥ずかしそうに、小声で文句を言いながら梨々花が横目でこっちを見てくる。
そんな仕草は正直可愛くて、俺もやっぱり一緒に恥ずかしくなってしまうのであった。
「あ、これ可愛いー!!」
気を取り直して買い物に戻った梨々花は、並べられている服を楽しそうに選び出す。
どれも普段梨々花が着ている感じの服で、正直どれを買っても梨々花なら全てが似合いそうだった。
モデル顔負けのルックスなのだ。これで似合わない方がおかしいだろう。
そんな楽しそうに買い物をする梨々花について回っていると、急にくるりとこちらを振り向く梨々花。
その両手には、別々のハンガーに吊るされた洋服が握られており、そのまま梨々花は少し上目遣いで話しかけてくる。
「……ねぇ彰、こっちとこっちだったらさ、どっちがわたしに似合うかな?」
それは、水着の時と同じく究極の二択の質問だった。
ただ今回は、水着ではなく洋服だ。
花柄のオフショルダーのトップスと、フリルのついたレースアップのブラウス。
どちらもギャルっぽくもあり、露出が少し多めのセクシーなものだった。
それを二つ手にして、どちらが良いか聞かれるというのも何とも言えない恥ずかしさがあった。
――何て言うかこれ、水着より恥ずかしくないか……?
水着の場合、それはもう水着としてカテゴライズされている。
でも、普段着の洋服となればそこにバリエーションが生まれるのだ。
バリエーションが増えれば、その分自分の嗜好がより露呈するというか、言い方はアレだが性癖みたいなものまで透けて見えかねないのである――。
そのうえで、今梨々花が手にする二つの洋服を着ている姿をイメージしてみる。
その結果、何て言うかどちらもいつも通りの梨々花だった。
どっちもよく似合うし、どちらを選んでも絶対に可愛いだろうと保証だってできる。
でも俺は、ここでその二つの中から選ぶのではなく、さっき見ていて少し気になっていた別の洋服を手にする。
それは、このお店の中ではかなり落ち着いた感じの、大人っぽいデザインのワンピースだった。
「これは、どうかな?」
「えっ?」
「いや、その二つも絶対に似合うと思うんだけどさ、個人的にこういう感じの服を着てる梨々花も見てみたいなっていうか……」
提案してみて、自分でも何言っちゃってるんだろうと思えてくる。
二択を提示されてるのに他のものを取り出すとか、こんなのただの押し付けだろうと――。
しかし梨々花は、手にした二つの服をお店に戻すと、代わりに俺の手にしたワンピースを受け取ってくれた。
「……じゃ、じゃあ、普段あんまり着る感じじゃないけど、これにしよっかな」
「え? い、いいの?」
「……うん、だって、彰が考えて選んでくれたものだし、嬉しいもん……」
目を逸らし、恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、そう言ってそのワンピースをぎゅっと抱きしめる梨々花。
そんな梨々花からの可愛い歩み寄りに、俺の方が恥ずかしくなってきてしまう――。
「やっぱ二人とも、お似合いじゃん?」
すると、いつの間にか戻ってきていた店員さんが、ニヤニヤと笑いながら声をかけてくるのであった。
そのイジりに恥ずかしがりつつも、梨々花はそのまま俺の選んだワンピースを購入してくれたのであった。
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<あとがき>
更新が少し空いてしまい申し訳ございません。
皆様、新年あけましておめでとうございます!!
去年は、ありがたいことに本作おれブイを沢山の方に読んでいただけて、ここカクヨムでも存在を知って貰えたのかなと思っております。
なので、今年は知って頂いた皆様に沢山楽しんでいただけるように、去年以上に積極的に活動していきたいと思っております!
Twitterでは既に報告しましたが、私の代表作である
『クラスメイトの元アイドルが、とにかく挙動不審なんです。』
がコミカライズも決定し、この春3巻も出ます!
おれブイや他の作品も、今年は更なる飛躍ができるように頑張りたいと思いますので、皆様今年も一年どうぞよろしくお願いいたします!!
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