第116話 昼食とその後
「色々付き合って貰っちゃって、ありがとね!」
水着を買い、そして自分の服も買った梨々花は、そう言って満足そうな微笑みを向けてくる。
元々予定のなかった俺だけれど、こうして一緒に買い物しているだけでこんなにも喜んでくれるなら、俺としても嬉しくなってしまう。
そして、時間はちょうどお昼時。
そのまま近くのお店で、一緒にランチを食べていくことにした。
やってきたのはショッピングモールの近くにあるイタリアンのお店。
どうやらここは梨々花の行きつけらしく、どのパスタを食べても美味しいからと俺にも紹介したかったのだそうだ。
こんな風にこの街に詳しいのは助かるし、良いお店を紹介したかったと言って貰えるのも嬉しかった。
「じゃあ、わたしはこのカルボナーラにしようかな!」
「それじゃあ俺は、こっちのペペロ……いや、ボロネーゼにしようかな」
ペペロンチーノであっさりと食べたい気分だったが、にんにくの匂いが気になった俺はやっぱりボロネーゼに変更する。
その理由に気付いていない様子の梨々花は、向かいの席で不思議そうに首を傾げながらこっちを見てきている。
そんな無邪気な表情も可愛くて、俺は少しドキドキさせられながらも何でもないよと笑って誤魔化しておいた。
それから暫くすると、注文したパスタが届けられる。
梨々花のカルボナーラも、俺の頼んだボロネーゼもどちらも本格的で、家で作るパスタを茹でてソースをかけるだけの簡易的なものとは当然違っていた。
「じゃあ、いただきます」
そう言ってフォークでパスタをまるめていると、そんな俺の仕草を梨々花はじっとこちらを見てきていた。
きっと、自分がオススメしたお店だし、俺の反応が気になるのだろう。
まぁ、とは言っても俺は味には煩いタイプだ。
おススメされたからと言って、美味しいと思えないものを美味しいと嘘付くようなことは言いたくないのである――。
「うっっま!!」
そのうえで、梨々花の言うとおりめちゃくちゃ美味しかった――。
ひき肉の旨味と、ソースの風味豊かな甘味が上手く合わさっており、それがパスタによく絡んでいて普通に美味しかった。
「でしょ? わたしも、ここのボロネーゼ大好きなんだ」
「うん! すごいよこれ! 家で作るレトルトのやつと全然違う!!」
そんな俺の素直な感想に、梨々花はそれはそうだよと苦笑いを浮かべる。
大学が終われば、コンビニやスーパーで食材を買い、それを簡単に調理して家で食べる毎日。
そんな俺は、これまでずっと味にこだわっているつもりだったが、どうやらただの井の中の蛙だったようだ……。
「うん、こっちも美味しい!」
安心するように、梨々花も自分の注文したカルボナーラを口へ含むと、美味しそうにモグモグと味わっている。
その幸せそうな表情も可愛くて、俺は思わずその姿に見惚れてしまう。
「な、なに?」
「あ、いや、ごめん。可愛くてつい――」
「か、かわっ!?」
結果、俺の視線に気付いた梨々花は、見る見るその顔を赤らめていく。
俺も素直に答え過ぎたかなと、同じく恥ずかしくなってしまったのは言うまでもない――。
それから少し気まずくなりつつも、ランチを済ませた俺達。
とは言っても、別に急ぐ必要もないため、そのまま一緒にお茶をしていくことにした。
まだ時間はお昼過ぎ、今日はせっかく渋谷まで来ていることだし、このまま真っすぐ帰るのももったいないしね。
そんな思いは、恐らく俺だけでなく梨々花も同じだった。
お互いに帰る話をするわけでもなく、それでもこれからどうするかの案があるわけでもなく、他愛のない会話をしながら一緒にお茶を楽しんでいる。
「でもさ、梨々花っていつもお洒落だよね」
「そ、そうかな?」
「うん、女の子って感じがするし、良いことだと思う。――なんて、俺も見習わないとなんだけどね」
「そんなことないよ、彰だってお洒落だよ?」
「そ、そうかな?」
梨々花と全く同じ反応してしまいながら、お互い謙遜し合ってしまう。
それが何だかおかしくなって、二人で吹き出すように笑い合う。
そして気の抜けた梨々花が、俺に一つ提案してくる。
「じゃあさ、次は彰の服買いに行かない?」
「えっ?」
「だって、彰もお洒落したいんでしょ?」
ニヤリと微笑む梨々花。
確かにさっき、そんなようなことは言ったけれど……。
「いいじゃん、ね?」
「……うん、じゃあ」
梨々花の押しに負けた俺は、このあとは俺の買い物に付き合って貰うこととなった。
ただ、問題があるのだ。
俺はこんな渋谷の街、一体どこで服を買えば良いのかなんて何も分からないのである……。
行くなら行くで、どこへ行くべきかと頭を悩ませていると、そんな俺の心を読むように微笑む梨々花。
「まぁ、土地勘ないとどこ行けばいいか分からないよね! とりあえず、わたし的に良い感じのところあるから!」
そう言って梨々花は、男性向けの服屋のある場所へ案内してくれるという。
ここで強がっても仕方ないため、俺は素直にありがとうを伝えると、それから店を出た俺達は早速その場所へと向かうことにしたのであった。
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