第112話 通話と予定

『彰も行くんだよね!?』


 ハヤトの誘いの裏で、梨々花から個別チャットが飛んでくる。

 それは念のためだろうが、俺もハヤトの誘いに参加することの確認だった。


『なんかもう、俺も行かないと駄目そうな感じだし行くよ』


 だから俺は、参加するよと返事をする。

 まぁ口では仕方ない感じで言っているが、内心は既に結構楽しみな自分がいる。

 何と言っても、この夏休みはまだ配信以外予定はないのだ。

 そこへ、海辺にある別荘への遊びのお誘い。

 こんなもの、普通に大当たり確定のSSRなのだ。


『良かった! 知ってる人いると安心する!』

『DEVIL's LIPのみんなもいるじゃん?』

『それはそれ、これはこれだよ!』


 そういうものなのか?

 何だか分からないが、梨々花も楽しみにしていることは分かった。


 ――そうか、梨々花と別荘か……。


 決して交わることなんてないと思っていた、大学一の美女。

 そんな梨々花と、こうしてこの夏一緒に出掛ける用事ができるなんて、入学当初の自分は思いもしなかったな。


 本当に世の中、何が起こるか分からないものだなぁ~としみじみ感じながら、梨々花とのチャットを終えた。


 ブーブー。


 すると今度は、スマホのバイブが震えだす。

 そのバイブは通話着信のもので、相手は今チャットしていた梨々花からだった。


「も、もしもし?」

「彰ぁー!! ねぇヤバイ!!」


 通話ボタンを押した途端、テンションマックスの梨々花の声。


「どうした? っていうか、チャットツールで通話送ってくれれば良かったのに」

「ああ、うん、まぁそうなんだけどさ! 今ベッドで横になってるし!」


 なるほど、横になってるのか……。

 って、通話しながら変な想像してる場合じゃないな。


「なんだか、こうして直接会話するのも久々な感じするね」

「あはは、まだ二日しか経ってないけどね」

「でも、大学があれば毎日会話してたもん」


 まぁ、それはたしかにそうだった。

 俺自身、梨々花の声を聞くのは久しぶりな感じがするのだから、感じていることは同じだった。


 しかし、何て言うかこういう会話をしていると、友達以上に距離が近いような気がしてきて、ちょっと恥ずかしくなってきてしまう……。


「まぁ、それはそうかもね」

「そうだよ!」


 嬉しそうに笑う梨々花。

 そんな梨々花の声が聞けるだけで、俺もやっぱり嬉しくなっているのであった。


「でも、FIVE ELEMENTSのみんなも来るんだよね、冷静に考えて凄い面子だよね」

「あはは、でもDEVIL's LIPだって凄い伸びてるじゃん」

「ううん、まだまだだよ。もっと頑張らないと」


 謙遜する梨々花。

 それでも、DEVIL's LIPのみんなの人気はまさしくうなぎ上り。

 Vtuberの登録者数急上昇ランキングでは、ここ一週間全てDEVIL's LIPが上位を独占しているのだ。


 その中でも、彼女達のリーダーでもある愛野リリスが一番人気で、配信をする度『あほピンク』がSNSのトレンド入りするほど、影響力が大きいものとなっている。


「俺が梨々花に抜かれるのも、時間の問題だろうね」

「そんなことないよ! 彰はすごいもん!」

「そ、そうかな? ありがとう」

「うん! だから今度のコラボ、すごく楽しみにしてるんだからねっ!!」


 お世辞とかそういう感じとは違い、本心でそう言ってくれているのが伝わってくる――。

 そんな梨々花の気持ちが嬉しくて、俺も変に謙遜するのを止めた。


 梨々花の言うとおり、まずは週末に控えているコラボを成功させよう。

 そのためにも、企画をもうちょっと練らなければと俺はやる気が湧いてくる。


 今度のコラボ、そしてハヤトの別荘。

 この夏俺は、どんどん楽しみな予定が増えていっているのだ。


「――それで、さ。話は変わるんだけどさ……明日とか、ヒマ?」

「え? 明日?」

「うん……空いてないなら、別にいいんだけどさ」


 さっきまでのハイテンションとは打って変わり、通話越しでも恥ずかしがっているのが分かる梨々花の声。

 受話器から耳元へ届けられるその声に、俺までちょっとドキドキしてきてしまう。


「えっと、うん、空いてるよ」

「ほ、本当? じゃ、じゃあさ、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど……」

「い、いいけど、どこ行きたいの?」

「……その、買い物?」

「買い物……」

「うん、だって今度別荘に行くでしょ? だから、新しい水着、とかさ……」


 な、なるほど?

 だから俺に付き合ってくれと…………。



 いやいやいや!! 何で俺!?

 そういうのは、女子同士で買いに行くもんじゃないんですかぁ!?


「ぜ、全然良いんだけど、その、そういうのって相手は俺でいいの!?」

「い、良いよっ!」


 いいんだ……。

 いやいや、なんで良いんだ……?


「……だって、恥ずかしい水着とか着て行けないじゃん? だ、だから、男の子の意見も聞きたいなって!」


 なる、ほど……?

 そういうものなのだろうか?


 残念ながら、異性との関わりがほとんどなかった俺には、それが良くあることなのかどうか判断がつかない。

 でもまぁ、少なくとも今は梨々花から勇気を出して誘ってくれているのだ。

 であれば、世間一般の当たり前とかどうでもいい。

 これは俺と梨々花の関係の話なのだと、俺も覚悟を決める――。


「分かった、いいよ」

「本当!? やった! じゃあ明日、午前十一時に渋谷の駅前で待ち合わせで良い?」

「うん、分かった」

「じゃ、じゃあまた明日ねっ!」

「うん、また明日」


 通話を切った俺は、そのままベッドの上に大の字で寝転がる。


 ――そうか、明日は梨々花と……。


 覚悟は決めたものの、改めて明日のことを考えてみると、一気に胸がドキドキと加速してしまうのであった。

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