第87話 これからも

 ライブ後、メンバー達と別件の打ち合わせを軽く済ませた俺は、そのままみんなと一緒に事務所をあとにする。

 すると、事務所のエントランスにあるソファーに座る女性が一人。


「あれ? 梨々花?」


 そこにいたのは、まさかの梨々花だった。

 俺が声をかけると、梨々花は少し驚いたようなぎこちない反応を見せる。


「あ、彰! ——よ、よっす」


 小さく片手を挙げながら、少し作ったような笑みでぎこちなく挨拶を返してくるのであった。


 なんでここにいるのだろうと思いつつも、俺はメンバーにアイコンタクトを送る。

 するとみんなも、何か物言いたげではありつつも、ここは空気を読んで俺を置いて先に帰ってくれた。


「どうしたの? 一人?」

「あ、うん……」

「そ、そっか。てっきり、今頃みんなと打ち上げとかしてるのかと思ってたよ」

「今日は疲れてるし、もう時間も遅いからってことで、後日改めてすることになったよ」

「なるほど、じゃあここで何を……って、もしかして俺を待っててくれてた、とか?」

「うん、そうだよ――だから、一緒に帰ろ?」


 そう言って梨々花は、少し恥ずかしそうに微笑む。

 そんな梨々花からの申し出に対して、俺は断る理由もないためもちろんと頷く。

 それに俺自身、梨々花とは二人で色々と話したいと思っていたところだ。


「良かった!」


 俺がオーケーすると、梨々花は嬉しそうに微笑む。

 その姿は、DEVIL's LIPのリリスではなく、俺の良く知るいつもの梨々花だった。



 ◇



「今日は本当に、色々あったなぁ」

「そうだね」


 夜道を二人で並んで歩きながら、一緒に今日のことを振り返る。


「あれから彰とのこと、メンバーにあれこれ聞かれちゃったよ」

「あはは、残念ながら俺も同じく」

「それは、何て言うかその、すいませんでした……。でもまさか、彰がアーサー様だったなんてね」

「そうだよね、ごめん黙ってて……」

「本当だよ? わたし、結構色々言っちゃってなかったっけ?」

「あー、うん。そうだったかも」

「もう! かなり恥ずかしいんですけどぉ!?」


 顔を赤くしながら、不満そうに俺の肩をポンポンと叩いてくる梨々花。

 でもその表情はどこか嬉しそうでもあり、本気で怒っているわけではないのは分かっていたから、俺も一緒に笑った。


「でもさ、今日をもって俺は、初めて梨々花と対等になれたと思ってるよ」

「た、対等って?」

「だって今日から梨々花も、俺と同じVtuberだから」


 だからもう、俺達は何も変わらないのだ。

 そんな俺の言葉に、梨々花はまた恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「まぁ、そっか……そうかもね……」

「そういうこと。これで俺も、変に秘密にする必要もなくなったわけだ」


 別に俺自身、秘密にしたくて秘密にしていたわけではないのだ。

 でもこれで、梨々花に対してもう何も秘密にする必要はなくなった。


 もちろん、FIVE ELEMENTSに関することとかは言えないこともあるだろう。

 けれどこれは、そういう意味ではない。

 これからは梨々花と対等に、オンでもオフでも向き合えるようになったことが、俺は本当に嬉しいのだ。


「……じゃ、じゃあさ、わたしも今後ライバーとしても活動していくことになるけどさ」


 すると梨々花は、そわそわとちょっと探るように話しかけてくる。


「……わ、わたしとも、その……コラボしてくれる?」


 そして恥ずかしそうに告げられる、梨々花からのお願い。

 俺はそのお願い事の可愛さを前に、思わず笑みが零れてしまう。


「もう、なんで笑うのよっ!? イエスかノーで答えて!」

「あー、ごめんごめん。――じゃあ、答えはイエスで」


 俺の即答に、梨々花は少し驚くも、すぐにパァっと満面の笑みを浮かべる。


「ほ、本当?」

「本当」

「絶対?」

「絶対」

「神に誓える?」

「誓うよ」

「じゃあ、信じる! ありがとうっ!!」


 ようやく納得してくれたのか、梨々花は嬉しそうに腕に抱き付いてくる。


 そんなにも嬉しいのかと思ったけれど、梨々花がずっと俺の――アーサーのファンでいてくれていたことは知っているから、こうして喜ぶ気持ちは分からないでもなかった。


「でも、俺でいいの? カノン推しでもあるんでしょ?」

「あーうん、それはもういいの」

「もういいのって?」


 何やら含みのある言葉で、バッサリとカノンには興味なさそうにする梨々花。

 まさか俺の知らないところで、二人は揉めたりでもしたのだろうかと不安になってくる。


「――わたしにとってカノンちゃんは、憧れからライバルに変わったから」


 カノンはもう、憧れではなくライバル──。

 それはもちろん、同じVtuberとしての話だろう。

 けれど梨々花の言葉には、他の意味も含んでいるように感じられた。


 そして梨々花は、俺の前に回り込む。

 後ろで手を組み、真っ直ぐに俺の目を見つめながら言葉を続ける──。



「だから彰っ! これからのわたしのことも、ちゃんと傍で見ててよねっ?」



 ふんわりと、満面の笑みとともに告げられたその言葉──。

 俺はその言葉と姿に、顔が熱くなっていくのを感じる。


「分かった。ちゃんと見てるよ」

「えへへ、よろしくねっ!」


 こうして俺達は、大学の同級生であるのと同時に、今日をもって同じVtuberとしても繋がり合うことができたのであった。


 梨々花が今後、どんなVtuberになっていくのか──。

 それは俺にとっても楽しみであり、これからも傍でちゃんと見守りたいなと思うのであった。



 -------------------------

 <あとがき>

 ということで、早いものでこれにて二章も終了です。

 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

 どうでしょう? 楽しんでいただけておりますでしょうか?

 是非、感想などでお声をいただけるととても嬉しいです!!


 それから、有難いことにおれブイはずっとラブコメ週間ランキング上位に入らせていただいております!

やはり、ランキング上位にあることで沢山の方に知って貰えるというのもございますので、もしここまで良かった! 三章もがんばれ! と思っていただけましたら、評価やフォローいただけるととても励みになります!!


 三章では、夏休みに梨々花のライバー活動スタートなど、ラブコメもVtuber活動もまたイベント目白押しとなっております!(水着もあるかも?)

 なので、良ければ引き続き楽しんでいただけるととっても嬉しいです!!

 これからも、おれブイをよろしくお願いいたします!!

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