第86話 お疲れ様
~彰視点~
DEVIL's LIPのデビューライブが幕を閉じた。
最後は割れんばかりの拍手喝采に包まれた、本当に素晴らしいデビューライブだった。
肩を抱き寄せ合いながら、ライブが終わってからも涙するDEVIL's LIPのみんな。
そんな彼女達の姿を、俺達は少し離れた舞台袖から見守った。
「……時間の問題かもね」
隣でカノンが、そう呟く。
「時間の問題?」
「そう、近い将来彼女達は、必ず駆け上がってくるわ。――だからわたし達も、おちおちしてはいられないってこと」
その言葉に、成る程なと納得する。
それは俺だけでなく、メンバー全員が同じ気持ちだった。
彼女達は仲間であると同時に、ライバルでもあるのだと――。
必ず近い将来、彼女達は俺達と同じところまで駆け上がってくる。
それは全て、今日のデビューライブが証明してくれていた。
だから、俺達も今以上に頑張らなければ、すぐに追い越されてしまう未来が待っているかもしれない。
そんな風に思わせてくれる、今日がデビューのDEVIL's LIPのみんな。
――でも、それはそれとして……本当にお疲れ様、梨々花。
本当に、凄かったよ――。
そう心で声をかけながら、今は肩を寄せ合う彼女達をそっとしておくべく、俺達は先に控室へと戻ることにした。
◇
ガチャッ――。
控室でメンバーと談笑していると、ノックとともにしつれいしますと部屋の扉が開けられる。
「「今日は、ありがとうございました!!」」
感謝の言葉とともに、俺達の控室を訪ねてきたのはDEVIL's LIPのみんなだった。
もう涙は引いたようで、全員やり遂げたような良い表情を浮かべていた。
「お疲れ様。すごく良いステージだったよ」
そんな彼女達に、何となく一番近くにいた俺が代表して労いの言葉をかける。
ただそれは、お世辞でも何でもなく俺の本心だった。
今日のライブに対しては、純粋に素晴らしかったという気持ちしかないのだから。
するとそんな俺の言葉に、DEVIL's LIPの輪から梨々花が一人飛び出してくる。
「彰ぁ!!」
俺の名前を叫びながら、その勢いのまま堪え切れない様子で抱きついてくる梨々花。
「おっと? ――あはは。お疲れ様、梨々花」
「本当に、ごれまでずっどありがどぉ彰ぁ!!」
ちょっと驚きつつも、そんな梨々花をしっかりと受け止める。
そして俺は、もうアーサーとしてではなく桐生彰として、そんな梨々花のこれまでの全てに対してもう一度労いの言葉を口にする。
すると梨々花は、また感極まってしまった様子で泣き出してしまった。
もう堪えることもせず、感情のまま泣きじゃくる梨々花。
こんな時に言うのもなんだが、そんな泣きじゃくる姿は愛らしくもあった。
「――うん、また話は大学で聞くよ。今はみんなもいるから、ね?」
「う゛んっ! わがっだぁ!!」
泣きながらも、聞き分けのいい梨々花。
もう大丈夫なのか身体を離すと、まだ泣きながらも嬉しそうに微笑んでくれた。
何はともあれ、無事にデビューライブをやり遂げることができて本当に良かったと思っていると、俺は一つの異変に気付く。
それは、FIVE ELEMENTSとDEVIL's LIPの両方から、突き刺さるような視線がこちらへ向けられていることだ――。
恐る恐る前を向けば、そこには驚いているような、ちょっと不満そうな表情を浮かべるDEVIL's LIPのみんなの姿。
そして後ろを振り向けば、そこにはもっと不満そうにするFIVE ELEMENTSの女性陣三人と、何やら面白そうに微笑むハヤトが一人――。
――えーっと、これは……?
俺はただ、梨々花を受け止めつつ、労いの言葉を口にしただけなんだけどなぁ……なんて、何となくそんな事実も今は全く通用しない空気を感じ取る。
「……随分、親密なのね」
「ふーん、やっぱりそういう感じか」
「浮気者」
「はっはっは! いいじゃないか!」
カノン、アユム、ネクロ、そしてハヤト。FIVE ELEMENTSのみんなからの生温かい言葉。
「り、梨々花ちゃん……?」
「あははは、こりゃ参ったね」
「これはあとで、ミーティングが必要そうね……」
「――同じく」
そしてDEVIL's LIPのみんなも、梨々花に対してそんな言葉を口にするのであった。
彼女達は、そのまま俺から梨々花を引き剥がすと「失礼しました! 今後ともよろしくお願いいたします!」と挨拶の言葉を残して部屋から去って行った。
「アーサーも、ちょっとお話ししよっか?」
ニッコリと作り笑顔を浮かべるカノン。
どうやらこちらはこちらで、すんなりと見逃してもらうことはできなそうだった――。
でもまぁそんなわけで、最後は何だか物凄くバタバタしてしまったけれど、梨々花の――そして、DEVIL's LIPのデビューライブは無事大成功で終わったのであった。
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