第85話 最後の曲

 FIVE ELEMENTSのステージが終わる。

 気が付けばわたし達は、その圧巻のステージに文字どおり釘付けにさせられていた。


 たった一曲だけれど、それは間違いなくわたしの憧れたFIVE ELEMENTSのステージだった。

 それ程までに、みんなのパフォーマンスは素晴らしく存在感に溢れていた。


「――すごい」


 隣の円――ううん、今はツクシがそう言葉を漏らす。

 歌手月子としての顔も持つツクシだからこそ、歌のステージで観客を魅了することの凄さを、この中でも一番理解しているのだろう。


 たった一言だけれど、自然に漏れ出た一言だからこそ気持ちが籠められているように思えた。

 舞台袖からFIVE ELEMENTSを見守るツクシのその目には、何か決意みたいなものが感じられた。


「それじゃ、再びDEVIL's LIPのみんなにバトンタッチ! みんな、最後まで最高のライブを!」


 そしてステージのバトンが、カノンちゃんから再びわたし達に引き継がれる。

 覚悟を決めたわたし達は、互いの顔を一度見合うと、残り一曲を披露するため再びステージへと向かう。


 これまで積み重ねてきた努力を、全てここでぶつけよう。

 たった今見せられた、先輩達の圧倒的だったライブ――。

 それはある意味、そのあとで歌うわたし達にとっては大きなプレッシャーでもあった。


 でも、だからこそ立ち向かうんだ。

 ずっとFIVE ELEMENTSの妹分として、注目を浴び続けていくつもりなんてないさらさらない。


 わたし達はDEVIL's LIPなのだと、今日ここでみんなに覚えていって貰うんだ――!


 そんな強い気持ちを抱きながら、ステージへと戻る。


 もうこのステージ、トークなんて不要だった。

 今この高まったこの思いを、全て次の一曲に籠めるんだという覚悟とともに、わたし達は配置に付く――。


「――それでは、聴いて下さい。『明日へ』」


 これまでの二曲とは違い、最後の曲はバラードソング。

 振り付けは少なく、ピアノの演奏に合わせて歌うこの曲は、今日歌う三曲の中でも一番歌唱力が際立つ曲と言えるだろう。


 わたし達は一人ずつ、明日、そして未来へ向けた思いを歌詞へ籠めながら歌声を届ける――。


 それは、今日会場へ集まってくれたみんなや、配信の向こうで見てくれているみんな。

 それから、今日という日を迎えられるように、これまで支えてくれたマネージャーさんや事務所の皆さんに、ずっと大きな背中でわたし達を導いてくれるFIVE ELEMENTSのみんな――。


 そして何より、今日までわたしのことをずっとずっと傍で支えてくれていた、彰に――。


 わたしは溢れ出るこの思いを、歌詞に乗せて届ける――。

 今日までのありがとうと、これからもよろしくねの気持ちを――。


 不思議ともう、不安や緊張はなかった。

 ただこの気持ちを届けたいという思いだけが、わたしの背中を押してくれているようだった。


 最後のサビでは、メンバーそれぞれの思いが籠められたユニゾン――。

 こうして今日のデビューライブ最後の曲も、無事に歌い遂げることができたのであった。



 パチパチパチ――。



 アウトロのピアノの演奏が終えると同時に、聞こえてくる拍手の音。

 振り向くとそこには、FIVE ELEMENTSのみんなや事務所の方々が、わたし達に向かって拍手を送ってくれていた。


 パチパチパチパチ。


 そしてその拍手の音は、会場全体へ広がっていく。

 配信からも拍手をするコメントが沢山流れ、今日のわたし達のデビューに対するみんなからの祝福が届けられる。


 わたしは咄嗟にメンバーのみんなの方を振り向き、顔を見合わせる。

 言葉はなくても、みんなも気持ちは同じなのが分かった。

 鳴り止まない拍手を浴びながら、微笑んで頷いてくれる。


 だからわたしも、みんなの気持ちを預かり強く頷き返す。

 そして再び、モニターの方を振り向く。



「みなさん! 今日は、本当に――」



 しかし、伝えたい言葉を口にしようとするも、溢れ出る思いが邪魔をして言葉に詰まってしまう――。


『がんばれー!』

『今日からずっと応援するよー!』

『すごく良かった!』

『大好きだぁー!』


 そんな言葉に詰まってしまうわたしに向けて、会場のみんなから届けられる温かい声援――。

 そんなみんなの気持ちに応えるべく、わたしは顔を上げる。


「本当に……今日は……ありがとう、ございましたぁ!!」


 吐き出すように、感謝の思いを言葉にする。

 本当は、もっともっと沢山伝えたいことはあった。

 それでも今は、これがわたしの精いっぱいだった。


 ずっと堪えていたものが溢れ出るように、そのままわたしは涙が止まらなくなってしまう。

 そんなわたしを支えるように、メンバーのみんなが寄り添ってくれる。


「――みんな、ありがとう」


 わたしはメンバーに感謝するとともに、もう涙でぐしゃぐしゃになった顔を再び上げる。

 そしてDEVIL's LIPを代表して、今日のデビューライブを締めくくる。



「――これからも、わたし達DEVIL's LIPをよろしくお願いしまぁす!!」

「「うぉおおおー!!」」

 


 今日一番の歓声が沸き起こる。

 その大きな歓声に、わたしだけでなくメンバー全員堪え切れす涙を零す。


 こうしてわたし達のデビューライブは、最後はみんなで号泣とともに幕を閉じたのであった。



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 <あとがき>

 これまで頑張ってきたからこそ、溢れ出る思いがあるのでしょう――。

 二章も残すところあと僅か、良ければこれからもみんなのことを見守って頂けると嬉しいです。


 皆様から頂ける評価やフォロー、それから感想はとても励みになっております。

 引き続き本作おれブイを、よろしくお願いいたします!!

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