第84話 サプライズゲスト
~梨々花視点~
「みんな、ありがとー!」
一曲目に続いて二曲目、それから各メンバーのソロの歌ってみた曲もそれぞれ歌い終えた。
わたしの言葉に、会場のみんなはサイリウムと声援で応えてくれている。
これまで練習してきた全てをぶつける気持ちで挑んでいる、このデビューライブ。
その全てが完璧かと言われると、いくつか反省点は挙げられる。
それでもここまで、十分自分達に合格点をあげられるレベルのパフォーマンスを、しっかりとみんなに届けられているという感触があった。
それは何より、今も会場や配信から、わたし達に向けて送られるみんなからの言葉やコメントが証明してくれていた。
ライブ中、ちらりとバックヤードの方へと目を向ければ、FIVE ELEMENTSのみんながモニター越しに見守ってくれている。
そのこともわたし達にとって、とても心強く感じられた。
――大丈夫、あと一曲だ!
疲労で息が上がるも、もう一度気持ちを引き締める。
それはわたしだけでなく、他の四人も同じだった。
お互いを信頼し合うように、目と目で確かめ合う。
この五人なら、絶対に大丈夫――。
そう強く仲間を信じられることが、わたしは何より嬉しかった。
残すはあと一曲。
でもその前に、今日はわたし達のライブ前にサプライズゲストがきてくれているのだ。
予定通り、代表してわたしが会場と配信の向こう側にいるリスナーに向けて、そのことをお知らせをする。
「ここで、みんなにお知らせがありますっ! 今日、わたし達のデビューライブに応援で駆けつけてくれた人達がいます! ……って言えば、みんなはもう誰か分かるかな?」
わたしのその言葉に、会場は驚きに包まれる。
そしてすぐに察しが付いたのだろう、驚きはどよめきへと変わっていく――。
「そう、今日はわたし達の大先輩である――FIVE ELEMENTSの皆さんが、このデビューライブに駆けつけてきてくれましたぁ!」
わたしが紹介するとともに、ステージ脇から出てくるFIVE ELEMENTSの五人。
「みんなぁー? 盛り上がってるー?」
カノンちゃんのその言葉に、会場もコメント欄も一瞬で大盛り上がりとなる。
今日がデビューのわたし達と違い、Vtuberとしてもアイドルとしても既にトップに立っている五人。
その立ち振る舞いには、風格みたいなものが感じられた。
そんなFIVE ELEMENTSの後輩だからこそ、こうしてわたし達の注目度は高まっているし、このデビューライブにも沢山の人が駆けつけてくれているのだ。
それは分かっていたことだけれど、こうして同じステージに立ってみて初めて、その格の違いを思い知らされるようだった。
ずっと大好きで、これまで追い続けていた五人。
いつかわたし達もこうなりたいと、強く思っている自分がいた。
そしてこの同じステージには、彰の姿もある――。
同じ大学で、たまたまわたしが声をかけたことで仲良くなることのできた同級生。
大学では決して目立つタイプではなく、いつも教室の端で一人でいることの多かった彰。
そんな彼が今、わたしの憧れる存在として、慣れた様子でアイドルとしてステージに立っているのだ――。
――かっこいい、な。
その姿に、溢れ出しそうになるほど色んな感情が込み上げてくる。
それでもわたしは、今だけはその全てがどうでもよくなってしまうぐらい、ステージに立つ彰の姿に見惚れてしまっていた――。
――わたしも、いつか隣に立てる日がくるのかな。
今はまだ、近いようで遠い存在――。
でもわたしは、今日ようやくスタートを切ることができたのだ。
だから今は遠くても、近い将来必ず追い付いてみせると、わたしはそう強く心に誓った――。
「みんな、素晴らしいステージだったわ!」
「わたし達にとって、DEVIL's LIPは初めての後輩だからね! これから頑張ってね!」
「うむ、わたしも応援している」
「はっはっは! みんなグレイトだったよ!」
「うん、最高だった! 俺も応援してるぞ!」
カノンちゃん、アユムちゃん、ネクロちゃん、ハヤトくん――そして、アーサー様が続けて、わたし達に応援の言葉をくれた。
そのことが嬉しくて、温かくて、また一気に込み上げてくるものを感じる。
けれど今はまだ、ライブの途中。
わたしは込み上げてくる気持ちをぐっと堪えながら、一度ステージ横に下がりこれから始まる先輩達のステージを見守る。
「それじゃ、みんな準備はいい? ――わたし達からエールを込めて! 歌います!」
そしてカノンちゃんの合図に合わせて、ついに曲のイントロが流れ出す。
『cheer』
その曲は、FIVE ELEMENTSの中でも人気の曲で、タイトルどおり頑張る人への応援を歌った曲だ。
わたしも大好きな曲の一つで、大学受験前によく聴いていた思い出のある一曲でもあった。
だからこそ、その曲を目の前でわたし達に向けて歌ってくれるのだと思うと、わたしはまた込み上げてくるものを感じてしまう。
こうして始まったFIVE ELEMENTSのみんなのステージは、まさに圧巻の一言だった。
歌って踊るそのパフォーマンスは完璧で、一切非の打ちどころなんてなかった。
それはきっと、振り付けやダンスの完成度だけではない。
ステージに立つ五人が全員、お互いを信頼し合っていること。
それに何より、ステージに立つ本人達も楽しんでいることが伝わってくるからこそ、こんなにもそのパフォーマンスに惹き付けられてしまうのだろう――。
――やっぱり、凄いなぁ……。
これまで必死に頑張ってきたからこそ、その凄さがよく分かった。
それはきっと、他の四人も同じ気持ちだろう。
会場に集まってくれた人達や配信の向こうにいるみんなと同じく、わたし達もそのステージに夢中にさせられてしまうのであった――。
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