第81話 五人の悪魔

 ~彰視点~


「よっすって……何よ、もう……」


 俺の放った苦し紛れの一言に、梨々花はおかしそうに笑い出す。


「……自己紹介、してくれるんでしょ?」


 そして梨々花は、そう言って改めて俺に自己紹介するように促してくれた。

 それはまるで、大学で会っている桐生彰ではなく、もう一つの顔としてちゃんと教えて欲しいと言っているようだった。

 その表情は、さきほどまでの驚いていた感じとはもう違っており、どこか気持ちを切り替えているように見えるのであった。


「あ、ああ。えっと、じゃあ……FIVE ELEMENTSの飛竜アーサーをやっている、桐生彰です。その、これからよろしくお願いします」


 簡単な挨拶しか思い浮かばなかったが、俺は自己紹介をする。

 梨々花は、そんな俺のことを真っすぐ見つめながら微笑んでくれた。

 それはまるで、俺のことを受け入れてくれているようだった――。

 

 すると、恐らくDEVIL's LIPのメンバーと思われる子達が、驚きながら俺と梨々花の顔を交互に見てきているのが分かった。


「え……うそ……。アーサー様と、知り合いだったの……?」


 どこか見覚えのある銀髪の女の子が、驚いた様子で梨々花へと話しかける。


「あー、うん。実は、同じ大学なんだ……」


 梨々花は少し困ったような笑みを浮かべつつ、俺との関係をメンバーに打ち明ける。


「「えぇー!?」」


 結果、他の四人は声をあげながら驚きを露わにする。

 別に隠すようなことでもないため、教えたことに対しては何とも思わない。

 けれど、他のメンバーの子達のその驚きように俺まで驚いてしまう。

 今の話に、そこまで驚くような情報は含まれていただろうかと──。


「まぁわたしも、彰がアーサー様だってことはたった今知ったんだけどね」


 そう言って困った表情で笑う梨々花も、ばつが悪そうにこちらを見てくる。

 その点については、これまでずっと正体を黙っていたことに対する申し訳なさもあり、俺も梨々花に対してなんて言えばいいのか分からなかった。


「そ、それじゃ、みんな! わたし達も、皆さんに自己紹介しないとだよ! ――えっと、じゃあまずはわたしから。この度、DEVIL's LIPとしてデビューすることになりました藍沢梨々花と申します! DEVIL's LIPでは、愛野あいのリリスを担当します!」


 そして梨々花は、この何とも言えない空気を仕切り直すように、自ら進んで自己紹介をしてくれた。

 もうここにいる時点で、梨々花がDEVIL's LIPのメンバーであることは分かっていた。

 それでも俺は、本人の口からちゃんと聞けたことが凄く嬉しかった。

 本当に、Vtuberになれたんだねと――。


 ――愛野リリスか……うん、イメージどおりかも。


 事前に公開されていたDEVIL's LIPの立ち絵。

 その中でセンターに立っていたのは、愛野リリスだった。


 ピンク髪のショートヘアーをした、元気そうな女の子。

 DEVIL's LIPは、五人全員がメイド服をモチーフにしたアイドル衣装を着た悪魔の女の子達。

 その中でもキャラデザが一番好みで、個人的に気になっていたのは愛野リリスだった。


 DEVIL's LIPの立ち絵を見ながら、この中でどれが一番梨々花のイメージに合うかなと考えてみても、やっぱりこのリリスがピッタリだと思っていただけに、俺は勝手に嬉しくなってくる。


「あ、え、えっと! 藤堂明日香と申します! わ、わたしは夢星ゆめほしアールを担当しますっ!」

「す、鈴原レイア! 担当は空色そらいろミリアです!」

「日比谷朱美です。担当は紅蓮ぐれんレナです」

「――小峰円です。わたしは闇夜乃やみよのツクシを担当します。よろしくお願いします」


 そして梨々花の自己紹介に続いて、順番に自己紹介をしてくれたDEVIL's LIPのみんな。


 ――そうだ、鈴原レイアってたしか子役の……ってか、最後の子って歌手の月子だよ、な……?


 それに、藤堂さんの声も日比谷さんの声も、絶対にどこかで聞いたことある気がする……。

 DEVIL's LIPって、もしかして物凄いメンバーが揃ってる……?


 まぁそれはともかく、既にFIVE ELEMENTSの他のみんなは自己紹介を済ませているようなので、これでお互い自己紹介するという目的は達成されたのであった。

 であれば、これからDEVIL's LIPのみんなも準備とか色々あるだろうし、あまりここに長居するのは不要に思えた。


「それじゃ、みんな頑張ってね! ちゃんと見てるから」


 俺はそれだけ告げて、この場を立ち去ろうとする。


「見ていてくれるのですか!?」

「み、見てて!」

「わ、わたしも!」

「――まぁ、頑張ります」


 しかし、梨々花以外の四人はというと、俺の一言に喜ぶように慌てて返事をしてくれたのであった。


「え? ああ、うん。頑張ってね――」


 その勢いに少し困りながらも、俺はそう言って手を振る。

 ちなみに今のやり取りを梨々花だけは、何とも言えない表情を浮かべながら黙って見ているだけだった。


 ――梨々花は、何も言ってくれないのか。


 まぁ、俺達は昨日今日知り合った関係でもないし、こんなものだろう。

 他の四人はというと、そんな俺にまた慌てて手を振り返してくれていた。


「あらまぁ、何だかアーサーに全部持ってかれちゃったわね。――まぁいいわ、それじゃわたし達も行きましょうか。みんな今日は頑張ってね」


 カノンが代表して声をかけると、他の三人も口々に彼女達へ激励の言葉をかけつつ、俺達は一緒に部屋をあとにした。


 こうして、一応無事に? DEVIL's LIPのみんなとの初対面を終えることができたのであった。


 しかし、今日俺が遅刻したことと、梨々花と知り合いだったことに対して、このあとメンバーからあれこれ聞かれたというのは、最早言うまでもないだろう――。



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 <あとがき>

 こうして、一応無事に自己紹介は終了?

 残すは、ライブ本番のみ!!


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