第30話 オフコラボ
土曜日がやってきた。
つまりは、今日がいよいよ俺達FIVE ELEMENTSのオフコラボ当日だ。
朝目覚めた俺は、すぐにシャワーを浴びると髪をセットし、それからこの間買った新品の服を着る。
白の無地Tシャツの上から赤いチェックシャツを羽織り、下は黒のパンツにハイテク系の白スニーカー。
そんな、セレクトショップでコーディネートして貰ったまま合わせた俺は、玄関の鏡で最後の身嗜みチェックを終えて家を出る。
SNSでは、既にオフコラボというワードがトレンド入りしており、それだけ今日のコラボは世間からも注目されているようだ。
ちなみに今日のコラボ配信だが、配信は夜から行う予定のため、先にハヤトは家で準備をして待っていてくれていることになっている。
そのためハヤトを除いた他の四人だが、今日は昼の一時に秋葉原の駅前で待ち合わせとなっている。
夜からコラボなのに、どうして昼に集まるのかというと、それは珍しくネクロが行きたいところがあると言い出したからだ。
それがどこかは聞かされていないのだが、俺は言われたまま秋葉原の駅前へとやってきたのであった。
「あっ! アーサ……じゃなくって、彰!」
到着すると、すぐに声をかけられる。
その声に振り向くと、そこには先に到着していたアユムがこちらに手を振ってくれていた。
「おう、アユ……じゃなくて、久しぶりだな穂香」
今は、オンラインではなくオフライン。
お互い身バレ防止のため、外では本名で呼び合うようにしているのだ。
だからそこにいるのは、煌木アユムではなく
穂香は、黒髪のボブヘアーがよく似合う小柄な女の子。
普段はほとんど家から出ないらしいが、今日はちゃんとお洒落をしてきている。
俺と同じで、真新しい白のTシャツにタイト目なデニムパンツを合わせており、上にはベージュの薄手のジャケットを羽織っている。
しかし、そんなカジュアルな服装ながらも、出るところはしっかり出ていて、俺はちょっと目のやり場に困ってしまう――。
まぁそんな久々に会った穂香だが、その容姿は間違いなく美少女と言えるだろう。
そんな穂香を一言で例えるなら、妹にしたい系美少女だ。
でも実際には、穂香は俺より一つ年上で、今は大学へ通うこともなく配信一本で生活しているらしい。
こうして見ると、同世代の普通の可愛い女の子なのだが、実際は引きこもりで、オマケにFPSの腕前はプロ顔負けというとんでもないギャップを抱えた人物なのである。
「こうして実際に会うのは、久しぶりだね!」
「そうだな。でもまぁ、この間一緒にゲームしたし、あんまり久しぶりって感じはしないけどな」
そう言って俺が笑いかけると、何故か穂香は頬を赤らめながら目を逸らす。
「あー、うん、そうかもね。――ってかさ、彰また大人っぽくなったね?」
「そ、そうか?」
「うん! 今の髪型とか、その、本当にアーサーみたい」
何を言われるのかと思えば、そう言って今の髪型を褒めてくれる穂香。
その言葉に俺は、安堵するとともに嬉しくなる。
だから俺も、そんな穂香にお返しをする。
「ありがとな。そういう穂香も、アユムに負けじと可愛いと思うぞ」
「ほ、本当?」
「ああ、可愛い可愛い」
「そ、そっか。えへへ」
俺のお返しの言葉に、照れ臭そうに微笑む穂香。
まぁたしかに、これはお世辞ではなく本心なのだが、てっきり俺は適当言うなと文句を言われるものだとばかり思っていただけに、その予想外の反応に少し困惑するのであった。
「あら、もう二人揃ってるのね」
そしてまた、背後から声をかけられる——。
振り向くとそこには、カノンの姿があった。
とは言っても、そこにいるのはカノンではなく、カノンの中の人の
茶色に染めたサラサラのストレートヘアーに、モデルのようにスレンダーなルックス。
グレーの千鳥柄のテーラードジャケットを肩に羽織り、下はタイト目なモスグリーンのニットワンピース。
そして足元は、ヒールが高めの黒のブーツを合わせており、何て言うか物凄く大人な雰囲気を纏っている。
実際、紅羽は俺より三つ年上なわけだが、それにしたって大人っぽすぎるというか、きっと誰が見ても同じことを思うに違いないだろう。
今は丸渕の大き目のサングラスをかけており、唇には真っ赤なリップ。
そんな全てが大人な魅力に溢れる紅羽は、傍から見れば芸能人のオフを思わせた。
まぁ実際、紅羽はライバー以外に音楽活動もしているから、芸能人と言えばその通りなのである。
そんなわけで、穂香と紅羽。
二人ともタイプは違うが、この子達が実はVtuberをやっているだなんて、きっと誰も思いやしないだろう――。
「お、おう、久しぶりだな紅羽——」
「え、ええ、そうね」
とりあえず俺も声をかけると、よそよそしく返事をする紅羽。
一瞬目が合ったのだが、すぐに少し気まずそうにそっぽ向かれてしまったのである。
まぁそれもそのはず、普段の配信でも紅羽とはあまり上手くいっていないのだ。
だから俺も、こればっかりは仕方ないなと苦笑いを浮かべていると、少し遅れて最後の一人がやってくる。
「あ、みんないたー」
そんな、相変わらずマイペースな様子で声をかけてきたのはネクロだった。
ネクロの本名は、
その名のとおり、父が日本人で、母がアメリカ人のハーフらしい。
とは言っても、生まれも育ちもここ日本で、言葉は日本語しか喋れないのだそうだ。
そんなクリスはというと、ふわふわとウェーブがかった天然の金髪ロングヘア―に、碧眼の大きな瞳が特徴的な女の子だ。
今日は袖がレースになった白のトップスに、黒のクロップドパンツを合わせたラフな格好をしているのだが、それだけでもモデルのように様になっているのであった。
「じゃ、みんな揃ってるし行こっか」
「いや、どこ行くかまだ聞いてないんだけど?」
「あー、そっか。言ってなかったね」
俺の言葉で初めて、今日の行き先を伝えていなかったことに気付いた様子のクリス。
相変わらずだなと俺達が呆れていると、クリスは自分のスマホの画面を俺達に見せてくる。
何だろうと、三人でそのスマホの画面に目を向ける。
メイドパラダイス――。
画面には、そんな文字がでかでかと表示されていた。
「今日行きたいところはここ」
「へぇー、メイド喫茶だ」
「ふーん、行ったことないわね」
クリスの言葉に、興味深そうに頷く穂香と紅羽。
しかし俺は、焦りとともにどんどんと動悸が早まっていくのであった――。
――いや、これヤバイじゃん……。
何故なら、クリスが行きたいというそのメイド喫茶。
そこは、藍沢さんのバイトしているというメイド喫茶と同じ名前なのであった――。
-------------------
<あとがき>
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
おかげさまで、ラブコメの週間ランキングも19位と高順位にランクインさせていただいております!
もっと楽しんでもらえるよう頑張りますので、引き続き本作おれブイをよろしくお願いします!
……とまぁ、前置きはこのぐらいにして。
すいません、一点修正があります。
今回のオフコラボ、最初はGWに行うとしておりましたが、よく考えると日にち的に無理があることに気付きました……。
なので22話なのですが、「空いているGW」から、「空いている週末」に変更させていただきました。
以上、物語の大筋には影響ないと思いますが、一応の訂正のご連絡とさせていただきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます