第24話 イメチェン?

「ふぅ、ただいまぁー」


 帰宅した俺は、両手いっぱいの荷物を下ろして一息つく。


 学校終わりに美容室で散髪した俺は、その足でついでに夏服も大量に買い込んできたのである。

 服についても同じで、俺は美容室の近くにあるインポート物のセレクトショップで全て見繕って貰うようにしている。


 元々服の知識もセンスもない俺なのだ。

 であれば髪型同様、服もプロに任せてしまえばいいのである。


 最初は店に入るのにも勇気が要ったが、安いところではなくある程度しっかりした感じのところなら、きっと接客も良いだろうという安直な考えで足を踏み入れたのである。


 結果的に、その考えは大正解だった。

 お店は気さくなイケメンお兄さんが経営しており、イタリアンカジュアルをベースに、どこへ行っても恥ずかしくない洋服を見繕ってくれるのである。

 前回は秋冬だったため、コートやジャケットなど値段もそれなりに嵩んだのだが、夏服であれば基本的にTシャツやシャツ類となるため、俺は勢いに任せて当初の予定より一気に買い込んでしまったのである。


 そんな買い物をしていると、最初はラジコンのごとく着せ替え人形と化していた俺も、次第に服を選ぶ楽しさが分かってきた。

 同じTシャツにジーンズでも、デザインでシルエットも全然異なることを知れたし、そういう細かいディテールの違いの楽しみを知ることができた。


 それからは、店員さんと一緒になってコーディネートを考える時間は、正直ちょっと楽しかったのであった。


 まぁそんなわけで、散髪と買い物を一日で済ませてきた俺は、とりあえず帰宅したらまず手洗いをするべく洗面所へと向かった。

 手を洗いながら俺は、洗面台の鏡に映った自分の姿を改めてまじまじと確認する。


「……これが、マジで俺なんだよなぁ」


 鏡に映った自分の姿に、俺は思わず感心してしまう――。

 長かった髪はバッサリと切り揃えられており、サイドと後ろは思い切ってバリカンで刈り上げてある。

 そして全体にパーマを緩くあてつつ、仕上げに前髪のところに緑色のメッシュまで入れて貰ったのである。


 何故、いきなりメッシュを入れたのかと言われれば、理由は単純だった。

 それは、他でもない俺の分身体とも言える、飛竜アーサーの髪型に近付けたかったからだ。


 FIVE ELEMENTSのメンバーには、それぞれイメージカラーが割り当てられている。


 紅カノンが赤色で、煌木アユムが青色。

 それから鬼龍院ハヤトが黄色で、恐山ネクロが紫色。

 そして最後に、俺の飛竜アーサーのイメージカラーが緑色なのである。


 だから衣装にも緑が入っているし、髪型にも同じように緑のメッシュが入っているのである。


 最初にアーサーと出会った時は、正直俺のイメージとは程遠い見た目をしているなと思っていた。

 それでも、アーサーとして活動を続けているうちに、俺自身の考えも変わってきたのである。

 最初は派手だなと思ったその容姿も、慣れてくるとこういうのも良いよなと思えるようになり、俺自身徐々に価値観が変わっていったのだ。


 中でも一番の変わるキッカケと言えば、それはアーサーのコスプレをしている人の写真を目にしたことだった。

 その写真では、俺と同じ三次元の人間が、しっかりとアーサーになっていたのである。


 それを見た俺は、素直に感心すると共に、心のどこかで羨ましいとも思っていたのだ――。


 なれるなら、自分もこの人みたいに姿、形もアーサーになってみたいと――。


 そして今日、俺はアーサーに近付きたい一心で、思い切ってスマホでアーサー立ち絵のイラストを見せながら、こんな風にして欲しいと美容師さんにお願いしたのである。


 ――イケてる、よな?


 色んな角度から、鏡に映る自分の姿を確認する。

 鏡には、ファッション雑誌なんかで目にするような、お洒落ヘアーの男子が映っている。


 俺の盛大な勘違いでない限り、悪くないはずだ……。

 そう自分に言い聞かせながら、俺はしっかりと変わることができたことに満足する。

 嬉しさから、思わず笑ってしまう自分の顔は相変わらずの気持ち悪さだけれど、それでもこれで大分マシになったはずだと自信ができた。


 そんなわけで、とりあえず今日もこのあと配信があるから、俺は準備を始めることにした。


 しかし、この俺の急な思い切りが、後に俺を取り巻く環境に大きな変化をもたらすことになるとは、この時の俺はまだ知る由もなかったのであった――。


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