第22話 お誘い

 藍沢さんとのカフェから帰った俺は、いつもどおりPCの電源を入れチャットを確認する。

 今日は無事、藍沢さんのわだかまりも解消できたことだし、またこれまでどおりに戻れたことにちょっとした達成感みたいなものを感じる。


「藍沢さん、上手くいくといいなぁ」


 これから始まるVtuber活動。

 もし何かできることがあれば、自分も力になろう。

 そんなことを考えながらチャットを確認すると、珍しくFIVE ELEMENTSの全体グループチャットに動きがあった。


「珍しいな、なんだろ?」


 完全に出遅れてしまった俺は、チャットの内容を確認する。


『ってことで、みんなの空いてる日教えて?』


 最後に表示されているチャットは、そんなカノンからみんなに予定を確認するメッセージだった。

 どうやら今回のチャットはカノンが仕切っているようで、予定って一体何事だと思い俺はチャットを先頭まで遡る。


『いきなりだけど、今度の週末みんな暇? 別に深い理由はないけど、そろそろみんなでオフコラボなんてどうかなって思って』


 それは、まさかのカノン発のオフコラボのお誘いだった。

 オフコラボとは、言うまでもなく配信上でのコラボではなく、実際に会って同じ空間でコラボ配信をすることを意味する。

 カノンからは、ハヤトの家にでも集まって、みんなで晩酌配信でもしようという誘いだった。


 しかし、これまで活動してきて一度もオフコラボなんてしたことのない俺達。

 何故いきなりそんな提案をしてきたのか気になるものの、客観的なことを言えばたしかにファンサとしてはアリに思えた。


 ――でもなぁ、いきなりオフコラボって……。


 よくコラボをしているし、ライブの時はレッスン含め何度も顔を合わせているメンバー達。

 それでも、今日の藍沢さんのお誘いと同じく、自由意志で会いに行くというのは何とも言えない恥ずかしさみたいなものがあった。


 それでも、俺のいない間のチャットを遡ると、女性陣は二つ返事でその誘いに乗っていた。

 更にはハヤトまで、いつでも遊びに来てくれとウェルカム姿勢なのである。


 そうなると、あと参加の意を示していないのは俺だけとなる。

 そして、普段から俺には厳しいカノンはというと、もう俺の参加は確認することもなく、みんなの空いてる日の確認を進めているのであった。


 しかし何て言うか、この結果はちょっと意外だった。

 ハヤトはともかく、いつもゲーム三昧のアユムに、滅多に配信すらしないネクロ。

 この二人がすぐに参加すると返事しているのは、ちょっと想定外だった。

 何より、これまで一切オフで会おうなんてしなかったカノンが、どうしていきなりこんな提案をしだしたのか。

 その理由は、全くもって謎なのであった――。


『ごめん、今帰った』


 とりあえず、俺も遅ればせながらそのチャットに参加する。

 すると、すぐにそんな俺に対して返信が返ってきた。


『おかえり。アーサーはどうせ暇だろうから、空いてる日を教えなさい』


 それはカノンからのチャットで、他のメンバーには予定を確認しているというのに、俺には強制参加のような口ぶりだった。


 ――相変わらず、俺にだけ厳しいなぁ……。


 やれやれと思いつつも、まぁここで俺だけ参加しないという選択肢も有り得ないため、ここは考える余地もなく参加することにした。


『アーサーおつかれ! 来れると思ってたよ!』

『参加は必須』

『ははは! じゃあこれであとは、みんなの予定が合えば全員集合だね!』


 すると、そんな俺のチャットに対して、アユム、ネクロ、ハヤトの三人もチャットを返してくれた。


 そしてそれから、みんなの予定を確認し合った結果、来週末に一日だけ全員の予定が空いている日が見つかったため、その日俺達は初のオフコラボをすることとなったのであった。



 ◇



「オフコラボか……どうするかな……」


 チャットが終わり、俺は一度大きく伸びをしながら考える。

 正直、久々にみんなに会えるのは俺としてもちょっと楽しみでもある。


 しかし、それには大きな問題もあった。

 その問題とは、言うまでもなく俺自身の話だ。


 この伸びきった髪に、センスのカケラもない洋服。

 そう、今の俺は自他ともに認めるダサ男なのだ――!


 目にもかかるほど全体的に伸びきった髪は、とくに切り揃えているわけでもないためただただ野暮ったい。

 そして服装も、ライブでみんなに会うのは秋から冬にかけてのため、この春夏に着ていく服がないのだ。

 大学に通うためだけに買った服は、高校生の頃のセンスのまま。

 上は適当なプリントTシャツや、チェックシャツ。そして下も、適当なカーゴパンツやデニム。

 そんな、たまにネットで目にするオタクファッションと大差のない、決してお洒落とは言い難い俺の私服——。


 俺にとって、メンバー達は仲間であると同時に、ビジネスパートナーでもあるのだ。

 そして全員、俺と違ってちゃんと普段からお洒落をしている。


 だから俺も、そんなみんなの前ではちゃんとしないとと思い、みんなと会う時だけはいつもちゃんとしているのだ。


「服より先に、まずは美容室だよなぁ……」


 そう呟きながら、鏡に映った自分の姿を確認する。


 ――うん、我ながらさすがに放置し過ぎたかもな……。


 最近では、こんな俺にも藍沢さんという友達ができたのだ。

 大学でも一番と言えるほどの美少女と一緒にいるのに、これはさすがに酷かったかなと今更になって反省をする――。


 まぁだから、これもちょうど良いキッカケだと思い、俺は早速ネットで美容室の予約をするのであった。


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