第16話 フルパーティー

『初めまして、ポッキーです』


 ゲーム内チャットに、加わったアユムからのチャットが表示される。

 どうやらサブアカウントの名前はポッキーのようで、そう言えばアユムはよく配信でもポッキーを食べていることを思い出す。


「あ、これって桐生くんのお友達からのチャットだよね? 返事した方が良いよね!」

「あ、ああ、そうだね」


 それに気付いた藍沢さんは、慣れないながらも慌てて『こちらこそ、よろしくお願いします』と返信する。


「お友達も、通話に参加すればいいのにねぇ」

「そ、そうだね」


 藍沢さんの純粋な言葉に、俺は焦りながらも話を合わせるしかなかった。

 まさか藍沢さんも、今入ってきた友達がFIVE ELEMENTSのアユムだとは思いもしないだろう……。


 ――まぁ、それを言ったら俺もなんだけど……。


 そんなわけで、やっぱりちょっとヒヤヒヤしながらも三人でのゲームが開始されるのであった。





「え!? すごい!! めっちゃ上手じゃない!?」


 接敵した敵を、いとも容易く倒していくアユム。

 それもそのはず、彼女はこのゲームの最高ランクに到達しているのだ。

 他の配信や活動もしながら、毎シーズン最高レベルまで難なく到達しているため、もしアユムがこのゲームだけに集中したら絶対プロで通用するというのがリスナーの総意になるほど、アユムの腕前ははっきり言ってバケモノクラスなのであった。


 そんな敵を殲滅していくアユムのプレイに、藍沢さんも驚いていた。


『ポッキーさん凄すぎます!』

『いえいえ、TAMAGOさんも素質ありますよ!』


 藍沢さんのチャットに、アユムが返信する。

 このTAMAGOというのが、藍沢さんのアカウント名だ。


 ちなみに俺のサブアカウント名はスイカだ。

 スイカが好きだから、アカウント名はスイカ。


 我ながらもっとあるだろと思うけれど、適当に好きな食べ物を選んだ当たり、アユムと発想は全く同じなのであった。

 となると、藍沢さんはタマゴ好き? なんてどうでもいいことを考えながらも、正直カジュアルマッチではアユムが無双してくれるから、あまり活躍することもなくゲームが進んでいくのであった。


「藍沢さん、残り一組だよ。多分全員この建物の中にいる」

「わ、分かった!」


 そして残す相手は、あっという間に残り一組となった。

 そのタイミングで、アユムから『最後は後方支援に回るね』とチャットが送られてくる。

 最後は俺達――というより、藍沢さんに花を持たせてあげようとしてくれているのだろう。


 そんなわけで、バックには頼もしすぎる味方がついた状態で、俺と藍沢さんの二人で最後の戦いに挑む。

 作戦は、俺が囮になりつつ藍沢さんにトドメを刺して貰うというシンプルなもの。


「いた! こっちで撃ち合いするから、藍沢さんは裏の扉から!」

「は、はぁい!!」


 そして、三対一での撃ち合いをした俺は、敵全員にダメージを与えながらもダウンする。

 だが、そんな敵の背後から最高のタイミングで飛び出した藍沢さん。

 敵は銃のリロードが間に合わず、見事三人とも立て続けにダウンさせチャンピオンを勝ち取ったのであった。


「え!? やった! 勝てた勝てた!」

「うん! 今のはすっごく良かったよ!!」


 大喜びする藍沢さんに、俺まで嬉しくなってくる。

 アユムからも、Good Gameの略で『gg』とチャットが飛んでくる。

 たしかに道中はアユムが無双してくれたし、最後は俺が大分敵を削ったこともある。

 それでも、まだ始めて間もないのに、しっかりと三人連続で倒しきった藍沢さんのプレイは素直に素晴らしかった。


 そして何より、勝てたことにこんな風に大喜びしてくれているところが、一番嬉しかった。


『ポッキーさんありがとう!』

『いえいえ、最後の撃ち合い凄く良かったよ』

『わぁー! ありがとう! わたしもポッキーさんみたいに強くなれるよう頑張るね!』


 藍沢さんとアユムの二人がチャットし合っているのを、俺は嬉しい気持ちで眺める。

 最初はどうなるものかと思ったけれど、やっぱりフルパーティーでゲームするのは面白いし、二人もすんなり打ち解け合っているようでほっとする。


 だが、その時だった。

 また俺のチャットツールに、新たなチャットが届くのであった。


 確認すると、それはアユムからのチャットだった。

 何故ゲーム内のチャットでなく個別チャットなんだ? と思いつつ、俺はその送られてきたチャットを確認する。



『え? TAMAGOさんって女の子?』



 そのアユムからのチャットに、俺は首を傾げる。

 何故そんなことを、わざわざ個別に送ってくるのかと思いながら。


『そうだよ? 同性だし、気も合ってるじゃないか。友達になれるかもな』


 だから俺は、意外と相性の良い二人に対して、思ったままをチャットする。

 もし藍沢さんがVtuberデビューしたら、この二人のコラボとか絶対面白そうだなと思いながら。


『いやいやいや、聞いてないから!』

『あー、言ってなかったなすまん。先に伝えた方が良かったか?』


 なんでそんなことを気にするのだろうと思いつつも、俺はすまなかったと返信する。

 すると、アユムから少し間を空けてチャットが返ってくる。


『もういいけど……TAMAGOさんって、可愛いの?』


 男ならともかく、何故女であるアユムがそんなことを聞いてくる……。

 まったく訳のわからない俺は、そんなわけの分からないアユムに対して、少し悪戯心とともにあるがままを返信する。


『そうだな、うちの大学で一番美人って言われてる』


 送ったとおり、藍沢さんはうちの大学でも一番の美人と言っても過言ではないだろう。

 だからこれは、全く嘘偽りない情報だ。

 まぁそんな相手と、こうして一緒にゲームしているなんて未だに信じられないのだけれど――。


『は?』

『いや、は? ってなんだよ』

『無理無理』

『何が?』


 アユムから返ってきたのは、謎のリアクションだった。

 そしてそれ以降、アユムからの返信はパタリと途絶えてしまうのであった。


 ――いや、マジでなんだよ。


 訳の分からない俺は、そう呆れつつも藍沢さんに声をかけようとするも、それより先に聞えてくる声――。



「あーあー、聞こえるー?」



 それはまさかの、ゲーム内のボイスチャット越しで話し出す、アユムの声なのであった――。


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