第15話 FPS

「藍沢さん! 前の岩裏に敵部隊!」

「りょ、了解!!」


 その日の夜、俺はさっそく藍沢さんと通話を繋ぎながらFPSゲームをプレイしている。

 このゲームは、三人一組のパーティーを作り、バトルロワイヤル形式で最後のパーティーに残るのを競い合うゲームだ。

 そのため、俺と藍沢さん、そしてあとは毎回ゲームがランダムでマッチさせてくる知らない人と三人でパーティーを組んでいる。


 ゲームモードとしては大きく二つあり、一つはポイントを積み上げるランクマッチ、そしてもう一つはランクに関係なく自由にプレーを楽しめるカジュアルマッチの二つがあり、今は後者のカジュアルマッチを一緒にプレーしている。


 まだ始めたての藍沢さんなので、いきなりランクマッチは厳しいだろうし、まずは気兼ねなくプレイをしつつ、色々と覚えて貰うことを今日の目的としているからだ。


 ちなみに俺は、配信で使用しているアカウントでは色々バレてしまうので、今はゲームも通話もサブアカウントの方を使っている。


 緊張しているのか、やはりまだ慣れていない様子の藍沢さんは、プレイだけでなく発言までどこかぎこちなかった。


 ――俺も最初は、こんな風に敵が出てくる度に緊張してたっけなぁ。


 そんな藍沢さんに、俺は始めたばかりの頃の懐かしみを覚える。


 やるかやられるか、そんな緊張感がこのゲームの醍醐味なのだ。

 だから藍沢さんも、緊張しながらもその声色からは楽しんでいることが伝わってくる。


「二人やった! あと一人!」

「あ、あれね!」


 味方の一人は既にダウンしており、残るは俺と藍沢さんの二人のみ。

 対峙した敵に対して、慣れている俺が二人を撃退したから相手パーティーは残り一人。

 このまま俺が相手を詰めて倒してもいいのだが、相手の残り一人のHPも僅かのため、ここは敢えて藍沢さんに任せてみる。


 すると藍沢さんは、まだ操作はおぼつかないものの放った銃は相手をちゃんと捉え、そのまま見事敵との撃ち合いに勝利したのであった。


「やった! 初めて倒せた!!」

「うん、おめでとう」


 初めて敵を倒せたことに、大喜びする藍沢さん。

 今は通話を繋いでいるだけだけれど、モニターの前で大喜びしている藍沢さんの姿が目に浮かんでくる。


「やばい! マジで楽しい! ヤバイヤバイ!」

「それは良かった」

「てか、桐生くんすっごく上手じゃん!? なに、実はプロ!?」

「そんなことないよ。それこそ、俺なんかよりアユ――じゃなくて、上手い人は沢山いるから」


 危ない、今完全に気を抜いてアユムの名前を出しそうになってしまった……。

 普段、Vtuberに関係ない人と通話しながらプレーすることなんてなかったから、完全に気を抜いてしまっていた。

 俺は変な冷や汗を垂らしながら、緩んでいた気持ちを引き締める。


「まぁ、そりゃそうなのかもしれないけどさ、それでもすごい上手だよ!」

「あはは、ありがとう」


 こうして、そのあとも小一時間プレイをしていると、藍沢さんも徐々に硬さが解れてきて、その後も何人か敵を倒せていた。

 そんな藍沢さんは、俺から見てもプレーの筋が良く、これはもっとやり込めばかなり上達しそうな素質が感じられるのであった。


「あー、惜しい! 負けちゃった!」

「でも、今の撃ち合いはすごく良かったと思うよ」

「えへへー、ありがとう! ――って、結構やっちゃってるけど、桐生くんまだ時間大丈夫そう?」


 それからもう一戦やったところで、藍沢さんが時間を気にして尋ねてくる。

 もちろん、普段長時間配信をしている自分としてはまだまだ余裕だが、逆に藍沢さんは大丈夫なのかなと思いつつ、俺は何とはなしにチャットツールを確認してみる。


 すると、ゲームに夢中になっていたから気付かなかったが、一件チャットが届いていた。

 しかもその差出人は、同じFIVE ELEMENTSのメンバーであるアユムからのものだった。


『あー! 今日アーサー配信すると思ってたのに、配信してないうえゲームしてるじゃん!』


 何かと思えば、それは俺が配信せずにゲームをしていることに対するチャットだった。

 何故気付いたかと言えば、それは何てことはない。

 チャットツール上に、俺が今プレイしているゲーム名が普通に表示されているからだ。


 しかし、普段あまりチャットしないアユムがどうしてと思いつつも、そう言えばアユムとこのゲームをしようと前から約束していたことを思い出す。


 つまり今の状況は、アユム目線で言えば遊ぶ約束をしておきながら、俺が勝手に別でゲームをしてしまっている状況なわけである。


『あー、ちょっとね。急遽やることになって』


 だから俺は、藍沢さんにちょっと待ってねと断りを入れつつ、ここはアユムには申し訳ないが忘れたフリをして、当たり障りなく返事をするしかなかった。


『誰とやってるの?』

『大学の友達』

『ふーん? だから、わたしとの約束は無視して、配信もせずに違う人と遊んでるわけだ』


 あ、やっぱりちゃんと覚えてますよね……。

 そもそも、だからこそアユムはこうして珍しくチャットしてきているわけであって……。


 しかし、そんなアユムの反応は正直ちょっと意外だった。

 アユムの性格上、こういうのはあまり気にしないタイプだと思っていたのだが、どうやらそんなことはなかったようだ。


『ごめん、今度埋め合わせするから』

『無理』

『無理って言われても……』

『今一緒にゲームしてる友達の人数は?』

『一人だけど?』

『じゃ、わたしも混ぜて』


 まさかのそのチャットに、俺は思わず「は?」と驚きの声を発してしまう。


「ん? なに、どうかした?」

「あーいや、ごめん、ちょっと今チャットしてて」

「そっか、ゆっくりでいいよーん」


 慌てる俺に、藍沢さんは気を使わなくていいからと返事をしてくれた。


 とりあえず今は、藍沢さんとプレイ中なのだ。

 当然藍沢さんはアユムのことも知っているわけで、この輪にアユムが混ざるのはFIVE ELEMENTS的に絶対不味い――。


 だからここは、心を鬼にして断るしかなかった。


『いや、俺とお前が揃ったら流石に不味いだろ』

『何が?』

『何がって、友達には当然正体は明かしてないから、俺とアユムが揃ったら正体がバレかねないだろ?』

『サブアカで行くし平気だよ』

『いやいや、駄目だろ』

『通話も繋がないから』


 通話を繋がないって……まぁ、それなら問題ない――のか?

 しかし、ここまで粘られるとこっちも断り辛くもなってくる……。


『お願い、暇なの』

『……分かった。とりあえず聞いてみるだけ聞いてみる』


 サブアカウントで、かつ通話も繋がないのなら、それはさっきマッチした知らない人と同じ状態――。

 元々約束を無視してゲームしていたバツの悪さもあって、それ以上ノーとは言えなかった。


 こうして俺は、まさかのアユムの乱入に驚きつつも、藍沢さんに友達も一緒にやりたがってると話をしてみる。


 すると、気前の良すぎる藍沢さんは、二つ返事で快くオーケーしてくれるのであった――。



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