第11話 恐山ネクロ

「週末って、要するに明日だよな……」


 家に帰った俺は、部屋のカレンダーを見ながらぼそりと呟く。

 今日俺は、あの藍沢さんに週末の買い物に誘われてしまったのだ。


 それはPCを買うためであり、それ以上でもそれ以下でもないことは分かっている。

 それでも、女性と二人で買い物なんて行ったことのない俺にとって、それだけでもとんでもない一大事なのであった……。


 しかも、相手はあの藍沢さんなのだ。

 大学一の美女と言っても過言ではない相手との買い物、そんなもの意識しないでいる方が無理な話であった。


 とりあえず、今日のネクロとのコラボまではまだ時間があるため、俺は明日のことを考えながらゆっくりと過ごすことにした。


 プルルルルル――。


「ん? 電話?」


 すると、滅多になることのない俺のスマホが鳴り出す。

 何事だと思いスマホを手にすると、それはネクロからの着信だった。


「もしもし?」

「あー、出た。ねぇアーサー」


 電話の向こうからは、久々に聞くが相変わらずマイペースなネクロの声が聞こえてくる。


「なんだ? まだコラボまでは時間があるだろ?」

「そうなんだけどさ、久々の配信過ぎて色々忘れちゃったの。だから教えて?」


 けろりと、とんでもないことを口にするネクロ。

 思えば、ネクロの前回の配信は一ヵ月以上前で、たしかに配信のブランクは結構なものだった。


 ――それでも、普通忘れないと思うけどなぁ。


 イラストの才能以外は、基本的にどれも平均以下。

 そんなネクロに少し呆れつつも、このままではコラボ配信もできなくなってしまうため、俺は仕方なくサポートしてあげることにしたのであった。



 ◇



「助かった。ありがとうアーサー」

「いや、いいよ……」


 結局、ネクロの全ての配信準備が整ったのは夜の十時半。

 そこまで忘れます!? と正直言いたくなるほど忘れられていたのだが、一応何とか間に合ったことに一安心する。


「じゃあ、あと三十分あるからトイレとか済ませとけよ」

「分かった」


 こうして電話を切った俺は、何だか疲れてベッドに大の字で寝転ぶ。

 すると、ずっと電話していたから気付かなかったが、藍沢さんからメッセージが届いていたことに気が付く。


『やばい、配信始まるのが楽しみ過ぎてハゲそう!』


 それは、このあとする俺とネクロの配信を楽しみにした、藍沢さんからの心の叫びだった。

 ハゲられても困るなと思いつつ、俺は『そうだね、俺も見るよ』と返事をして気合いを入れる。

 今回も藍沢さんが見てくれているみたいだし、今日も頑張らないとなと気持ちを入れ替える。


 そして、予定の十一時が訪れる。

 今回は俺のチャンネルでのコラボのため、配信をスタートした俺はマイクに向けて口を開く。


「はいどーもー! FIVE ELEMENTS所属の飛竜アーサーでーす! 今日もメンバーとのコラボ配信やっていきまーす! 自己紹介たのむ!」

「恐山ネクロです。よろしく」


 ちょっと無理して盛り上げようとしてるのに、相変わらずマイペースなネクロ。

 それでも、リスナーのみんなはネクロのキャラを分かってくれており、久々に聞けるネクロの声にみんな感動しているようだった。


 こうして俺は、トークを交えつつネクロとのコラボ配信を進行していく。

 ちなみに今日の企画は、お題に応じてお絵かきして、制限時間内に何を描いているか当て合うゲーム配信だ。

 これならば、リスナーも参加型で楽しむことができるし、ネクロの絵が得意な部分も引き立てられるだろうと思い、今日はこのゲームを選んだのだ。


 ネクロは短い制限時間でも、上手に絵を描き上げることですぐに正解へ導いてくれていた。

 対して俺はというと、残念ながら絵心が全くなく、一生懸命描いているのに中々当てて貰えないでいた。


「アーサー、ちゃんと書いて」

「いや、俺だって頑張って書いてるんだが!?」

「無理、下手」


 そんな、ネクロからの容赦ない塩対応が笑いを生み、結果的に俺がネクロにダメだしされ続ける形で、今回のコラボ配信は大盛況のまま終了したのであった。


 配信を切った俺は、一息ついてネクロに声をかける。


「お疲れネクロ。盛り上がって良かったな」

「そうね。でもアーサーは、もっと絵を勉強するべき。あれじゃ分からない」

「いや、そんなこと言われてもなぁ……」


 人間、誰しも向き不向きというものがあるのだ。

 俺もネクロのように上手に描ければ良いのだが、こればっかりはそうもいかないのである。


「――じゃあ、今度わたしが教える」

「え? いや、それは――」

「ダメ。これはもう決定事項」

「そ、そうか。じゃあ、次のコラボはそれでいいかな?」

「違う。これは配信じゃない。わたしがそっちへ行く」

「いやいやいや、え!?」

「もう決めたこと。日程はまた決めよう。それじゃ」


 それだけ言うと、ネクロはそのまま一方的に通話を切ってしまった。


 ――まさか、マジじゃない、よな……?


 そんないきなり過ぎる話に戸惑いつつも、こうして俺は連日のFIVE ELEMENTSとのコラボラッシュをやり切ったのであった。

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