暗転
暗転って何も見えないわけじゃないんだよね。客席からは分からないかもしれないけど、この部屋からだとよく見える。
何がって役者の動きだよ。あいつら真っ暗なのが不安なのかね。大の男が服の裾掴んじゃったりしてさ。今日なんて背中に文字書いてたよ。何いちゃついてんだと思って目ぇ凝らしたら、細くて白い女の指なんだ。
今回のキャストって男だけだよね。そう、客演は呼んでないよな。だからおかしいな、と思ってよくよく見たら手が増えてるんだよ。主役の背中に手が三本伸びてるの。思わず撫で回したくなるくらいのしなやかな腕でさ。いやぁ綺麗だったな。主役のあいつが羨ましくなるぐらいだった。
いやいや、何を書いてたかなんて分かんないよ。ここからだと距離もあるし。でもマニキュアの色は分かったよ。艶やかな深紅のボルドーが白い肌によく映えてた。
はい、照明のタイミングが遅れたのは見惚れてたせいです。でもあんなの見ちゃったら仕方ないよ。主役の背中に何本もの腕がまとわりついてるんだもん。最終的には五本くらいになってたかな。
ああ、マニキュアの色は全部バラバラだった。深海を思わせる青、黒みがかった紫、くすんだ灰色だったかな。あと一色は思い出せないけど。
え、ピンクって何が。ああ、マニキュアの色。確かに最後の一本は桜貝みたいなピンクだったかもしれない。というか何でそう思ったのよ。もしかして主宰、心当たりでもあるの?
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