第2話

 何もない。誰もいない。ただ白い世界がどこまでも続いている。歩き始めてからどのくらいが経っただろう。3日?それとも一週間くらいかもしれない。足はふらふらで、これ以上は動かない。私はその場にごろりと寝転がった。

 なめらかな地面の感触がする。冷えた頬にはそれが少し冷た過ぎるように感じる。それでも、人間らしく足で歩くより、ダンゴムシみたいに地面に転がっている方がずっと気持ちよかった。

 体を仰向けにして空を見つめる。やっぱりこの世界には色がない。何をしていても退屈でまるで味がしない。目を閉じて自分の呼吸に集中してみると、地面と一つになったような気がして嬉しくなった。ただ無心に、世界の一部として、物質として溶け込めるこの時間は、私にとっては至福の時だ。かつて大昔に瞑想にふけった釈迦牟尼や他の仙人もこんな気持ちだったのかな。

 手や脚が本格的に地面に溶け始めた時、遠くで誰かが叫ぶ声がした。人がいる、と思った途端、私は世界から突き離された。

 さっと立ち上がり、耳を澄ましてその存在を確かめようとした。

 「おーい、誰かいるのか?」

 その声は、さっきよりも近くに聞こえた。

 仲間かな、と胸をドキドキさせてその人がどこにいるのか見渡してみるが、人影はどこにもなかった。おかしいな、声はするのにな…

 不思議に思いながらも、もう少ししっかり見ようと目を細めた瞬間、突然目の前に鋼の塊が現れた。それは地面から次々に生えてきて、私の周りを取り囲んでいく。息をつく間もなく、鋼は形を織り成していき、私を閉じ込めた。たちまち天井も埋まってしまい、私は光が一つもない暗闇の中に放り出されてしまった。

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