第28話 助手

「ちょっと、どこ行くの?」


「重大な野暮用。」


「え?」


「そんじゃ行ってくる。園城寺さんよろしくお願いしますねー。」


「わかりました。」


俺は園城寺家を出て、まずはアパートへと向かった。


以前来た時に開けられたダンボールの中に入っている注射器の中に超小型通信機を入れていく。


ただひたすらに。


それでも百個程だから意外と直ぐに……終わるはず。


あの後も伝染病に関しての噂を流しまくったからきっと沢山の人が来てくれる事だろう。



何とか百個入れ終わった後、診療所へと向かった。


誰も居ない診療所のドアを開けて二人がいる物置部屋へ向かう。


――ガチャ。


「んん!!んんん!!」


「起きた?」


「っこんな事して許されると思うなよ!」


「すいませんけど貴方には興味無いんで。手伝って欲しいんです。橋本さん。」


隣にいるちょっとイケメンなおじさんには見向きもせずに、目の前にいる美女に笑顔を向けた。


彼女は怯えた顔をして俺の事を見ていた。


こんなキャラではないのだが、この顔がこんなにそそるものだとは思わなかった。


自分が女の子を監禁するなんてことするはずが無いと思っていたから初めての気持ちだった。


最高の気分だった。


監禁するやつってこういう気分になるのかな。


辞められなくなるのかな。


俺その素質あっちゃうのかな。


一気に罪悪感に駆られた。


「え?」


「その縄解くからさ、手伝って欲しいんだよね。」


「嫌です!というか何するんですか……」


「まぁ、ちょっと手伝ってもらうだけだから。」


「何するんですか!」


「この町の大人全員にワクチンを打つ。」


「ワクチン?何の。」


「最近流行っちゃってる伝染病の。」


「この町でですか?そんなの聞いたことありませんけど。というかそれだったらどうして私達を縄で縛ったんですか!?電話してきてくれたら。」


「まぁそこはやり方間違えちゃったかもね。」


「はぁ?貴方さっきから何なんですか!」


「医師ですけど。」


「医師ならもっと真っ当なやり方があったでしょ!」


「生憎馬鹿なものでしてね。で手伝って貰える?」


「……」


「黙ってちゃ分かんないよ。」


「嫌です。」


「ん?」


「そんな事してただで済むと思ってるんですか!?」


「法律なんてこの町に存在してねぇじゃねぇの。違反にはならないよ。」


「それにこの町を救うためにやってるからさ。命だけは保証するよ。」


「高橋さん。行きなさい。」


「医院長……でも!!」


「縄も解けない状況なんだ。こいつのいうことを聞くしかないだろ。」


「……分かりました。外して下さい。私、捕まりませんよね?」


「それはどうかな。」


「嫌です。」


「法律通用しないんだから大丈夫っしょ。」


「……」


俺は美女の縄を外して診察室へと連れて行った。


「この町でワクチン打ったことは?」


「インフルで。」


「よし、じゃあ手順は分かってるな。」


「はい。」


「来てるかなぁ。」


「こんなの来るわけない。」


「『危険な伝染病がワクチン打つだけで治っちゃいます!』と聞いたら来ちゃわない?」


「もう噂流したんですか。」


「そっ。」


「やな奴。」


「そんな事言うなよ〜僕ちゃん悲しっ!」


「……」


沈黙に包まれた。


「……確認してきて下さい。あ、一緒に行こうか。逃げるかもしれないもんね。」


「気持ち悪……」


「はい、触らないから行きますよ〜」


俺は美女を連れてフロントまで出た。


自動ドアの向う側には人がうろうろ歩いて居るのが見えた。


「はい、作戦成功〜。」


「……うわぁ。」


――シュー……


「皆さんー、もう少しお待ち下さい!」


俺が出てきたのを確認すると、一斉に入口付近に人集りができた。


「かなり危険なのよね!?大丈夫なの!?」

「体にも症状が出るんでしょ?」

「ワクチン打てば絶対かからないんだよな!?」

「無料なんでしょ!?」


人集りからは色んな意見が飛び交ってきていた。


俺は町役場のあの女性と木野さんにしか伝染病のことは話していない。


更に、二人には話していない内容体に症状が出るまで知っている人がいる。


全て嘘だが。


やはりかなり誇張して噂を流す人が居ると見て正解だった。


「皆さん大丈夫です!安心して下さい!取り敢えず並んでお待ち下さい!」


なんとかなだめて、二人が気絶している間に運んでおいた注射器類が入ったダンボールを開けて、机の上に液体を準備した。


「じゃ、呼んできてください。」


「はい……。」


彼女が入口で「お待たせ致しました。」と言っているのが聞こえてすぐに第一接種者が入ってきた。


彼女は次々に入ろうとする人々を並ばせ、座らせ忙しそうにしていた。


「お名前は?」

「使わない方の腕出して下さーい。」

「ではアルコール塗りますね。」

「はい、ではチクッとしますよ〜。」


その工程を何回も繰り返した。


皆が並んだのを確認した彼女が病室に入ってきて、使用済みの注射器を処理した。


アルコールで。


※ワクチンで使用済みの注射器を再度使用することは絶対にダメです。


注射針の数が圧倒的に足りなかった。


接種者にはまるで彼女が替えの針を持ってきている様に見せる。


数時間をかけてやっと全員接種し終えた。


「ふー疲れたぁ。はい、お疲れ様でした。」


「疲れた……。」


「えっと、青葉さんと貴高さん、佐藤さんまだ来てないな……。家に行く必要あるかな。」


「さぁどうでしょう。」


「ねぇ話変わるけどさ君ってさ、秘密バラすタイプ?」


「別に言いませんよ。言ったら捕まるかもしれないんですから。」


「よし。」


「じゃ、俺行くわ。」


「え!?お礼もなんもなし!?」


「あ、ありがとな。まじでありがと。ほんじゃ。」


「ちょっと!」


さよなら美女。さよならイケおじ。


俺はダンボールを持って診療所を出ていった。


住民票を見てみるとすべての住民がワクチンを打っていたことが分かった。


後は携帯で大人たちの位置を確認するだけだ。

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