第29話 白が赤く染まることは無い。

どこまでも続いていそうなほどに長い森を抜け、先が見えない坂道をワンピースを靡かせながら駆け下りた。


疲れたので途中で駆け降りるのを辞めてゆっくりと町と海を見ながら降りた。


先ほどまで下にあった住宅街はいつの間にか自分より上にあった。


その住宅街を抜けて商店街へと向かった。


遠くから見る商店街は今の時間にしてはやけに静かだった。


しかし、今日の日にちを思い出すとともにそれも例年通りであることに気が付いた。


お祭りが近くなると準備で精一杯になり、店が疎かになるためかこの期間中はシャッターを閉める店が多い。


でも元気なおじ様の店やスーパーなんかは空いている。


体力が有り余っているんだろうか。


そして、静かではあるが人がいないというわけではなかった。


商店街入り口付近では二人の女性が世間話をしていた。


「あ、あれ!」


「え?どないしたん?」


「お、綺麗な子やねぇ。殺すのもったいないくらいやわぁ」


「あんた!あかんで、あの子殺すんは!」


「なんで!?すぐそこにおるやないの!」


「やーだ、あんた知らんの?あの子園城寺さんとこのお孫さんやで?」


「え!?あら、そやったん……!あの子殺してもたら儀式出来んくなってまうやんなぁ!」


「そうやで!?ほんま気ぃつけな!」


「ごめんごめん。あれ?でもお母さんってどないしたんやろ?」


「あんたそれも知らんのかいな!儀式に失敗してお亡くなりになられたやろ?」


「あら、そやったかなぁ。まぁ仕方ない事やな。失敗したらそれなりのもん支払わなあかんでなぁ……。」


「そうやなぁ。」


「やっぱり嫁いだだけじゃあかんかったんやろなぁ。血受け継いでなかったから」


「というか、もしあの子が殺されたらどうするんやろ。園城寺家の血引き継いどる人、あの子しかおらんやろ」


「流石に対策かなんかしとるやろ。それに皆あの子殺したら儀式ができんくなるってわかっとるやろうし」


「こんにちは。」


「あら、こんにちはぁ。あ、華聯ちゃんやっけ?儀式頑張っての」


少し慌てた様子で先ほどまで話をしていた二人は挨拶を返した。


その様子を見ながら私はいつもの文を返した。


「はい、頑張ります。失礼します」


「こんにちは!木野さん」


「おぉ、華聯ちゃん!どうも。一人でどないしたん?」


「ちょっとお散歩でもしようかなと思って」


「そうかそりゃええの。はい、これあげる」


彼はいっぱいの牡蠣を袋に入れて私に渡してくれた。


「そんなそんな、貰えませんよ!」


「貰って!儀式も頑張らなあかんやろ」


「儀式……そうですね……!では貰っておきます。ありがとうございます」


「おう!」


私は木野さんとお別れし、さらに続く商店街を少し歩いた。


「華聯ちゃん!」


「あ、向井さん。どないしたんですか?」


「儀式頑張ってな」


「はい。頑張ります」


また儀式の話題。祭りが近くなるといつも大人たちは儀式のことしか話さなくなる。


「それだけだから言いたかったの。」


また彼も気まずそうにして私に話を振ってきた。


「そうですか。では失礼します」


「あ、待って。あと一つ」


「なんですか?」


「――儀式失敗しないようにな」


「はい……」


「こんなこと言うの大人げないし余計緊張させることになるってわかっとるんやけど。華聯ちゃんはお母さんみたいになってほしくないから。」


「そうですね。頑張ります」


「おう……」


私は向井さんとお別れをして、また少し商店街を歩いた。


ほとんどの店が閉まっていて、彼の魚や以外入れる店は無かった。


そういえば最近私以外の子供を見ていないのだけれどなんでなのかな。


この商店街、ほとんど大人もいないしなんか異様な空気が漂ってる気がする。


私以外の子供はどこに行ったの?

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