第30話 西には行くな。危険じゃけぇ

「華聯とあの子達を合わせないようにしろ。」


「はい、かしこまりました。」




朝、太陽が空に上り切ったであろう時、僕たちはみんなで外に居た。


「ねぇ、僕達なんでこんなに死なないんだろ。」


「え?」


「確かに学校とかここでは殺されそうになったけど1番殺される確率が高そうな町ではそんなこと一回もなかったじゃん。大人も全然見かけない訳だしさ。」


「言われてみれば……。」


「ま、運が良いってことにしときましょ。」


「うーん、そうだね。」


僕達はひとまず安全に暮らせる場所を確保出来たことに安心して、園城寺さんの敷地内で少し遊ぶ事にした。この山は全て彼の敷地らしく聞いてみると迷子にならない限りはどこにでも行っていいという。


「どこにも行って良いんですか!?」


「あぁ、この山の中ならな。野生動物も別の山に居るし安心だとは思うから安心するんじゃよ。」


「これで色々出来ることの幅が広がるね!」


「そうだね。」


「そうだ!鬼ごっこでもしようよ!」


「いいねいいね!やろやろ!」


最初に比べたらみんな大分この状況に慣れてきて元気を取り戻したきた気がする。


「それなら森の方でやりなさい。迷子にならないように気を付けえな。」


縁側から聞こえてきた声に目を向けた。


「あ、但し西の方には行かないように。見晴らしが良いから町の人に見つかる確率がかなり高い。」


「分かりました。」


「よし、じゃあ鬼はこの二人だ。蘭、神奈。良いな?」


「はい、かしこまりました。」


二人は彼に対しお辞儀をすると、こちらにやって来て少し笑った。


「よろしくぅ」


「手加減はしないかんね?」


異変が起きて初めて楽しいと思った一時だった。


「はい、じゃあ数えるよ〜三十、二十九……」


「よし、行くぞ。絶対捕まらんけぇな!」


女子二人は同じ方向へ、男子はそれぞれ別方向へと散らばった。



「――蘭、神奈。分かっとるな?」


「はい。」


どこまでも続いていそうな森の中をひたすらに走り進んでいく。


随分遠くまで来ただろうというところで一軒の家を見つけた。


白い木の板の外国にありそうな家で、所々にはつたが生えていた。


こんな山奥に二階建ての一軒家。


周りの草も整えられていて、誰かが住んでいそうなが漂ってきていた。


どこだろうと思い、ナビで方向を確認してみると西方向だった。


「やばい、見つかる前に引き返さなきゃ。」


そう思ったのだけれど何故か足が動かなかった。


というよりかは引き寄せられるような感じがした。


僕は身を任せその家の敷地内へと入った。


ここで最初にすることは、家の中に誰もいないのを確認するということ。


僕は一階の窓から部屋を覗いた。窓から見る限り人はいない。


その時、後ろから何かを落とす音がした。


反射的に後ろを振り返ると一人の少女が居た。


姿を見られたのが少女でよかった。


彼女はきれいな長い髪を下ろし、白いワンピースを着て紙袋を持っていた。


僕でも見たことがある。如何にもヨーロッパの恋愛映画に出てきそうな雰囲気の彼女は目を大きくさせてこちらを見ていた。


「子供……。あなたこんなところで何してるの?」


「あ、あえっと、すいません。」


僕は驚きながらもその場を去ろうとした時、彼女に止められた。


「ちょっと待って!少し話を聞かせてほしいの。お願い。」


彼女はまっずぐな目で僕を見つめた。


彼女に案内されて部屋の中に入った。


「そこ座ってて。お茶でいい?ジュースにする?」


「じゃあジュースお願いします。」


「了解。」


彼女は食材が入っているであろう膨らんだ紙袋を持ってキッチンへと向かった。


少ししてから彼女が自分の分と僕の分の飲み物を持ってきてくれた。


僕が一口ジュースを飲むと彼女が口を開いた。


「何から聞けばいいのかわからないんだけど。あなたは何で庭に居たの?」


「皆と鬼ごっこをしてて。西の方に来たらえっと……」


華聯かれん。」


「華聯さんの家を見つけて。」


「西の方から来たの?じゃあおじいさまの家の方からってことか。でもおじいさまには会ってないんだろうな。」


「おじいさま?」


「私のおじい様。知らない?このあたりじゃ有名なはずなんだけど。そっか私のことも知らなかったもんね。」


「誰ですか?」


「園城寺 智一えんじょうじ ともかず。有名な刀主で剣道の稽古なんかを……」


「え、園城寺?」


「知ってるの?」


「確認します。もしかして園城寺さんの孫って……」


「あたしよ。」


「あなたが!会えてよかったです。」


「なんであたしに会いたかったの?」


「園城寺さんから貴方の話を聞いて」


「あたしの?ということはおじいさまに会ったのね。」


「はい。」


「でもなんで?あたしのおじいさまはずっと家にいるのよ?家に行っても知らない人だと蘭か神奈に返されるはずでしょ?」


「助けてもらいに。」


「助ける?何があったの。あっ」


「どうしたんですか?あっ、て」


「思い出した。一番聞きたかったこと。最近子供たちを町で見かけないんだけどみんなどうしたの?」


「殺されたんです。」


「え?どういうこと」


「みんな殺されたんです。大人に」


その時、彼女の顔が恐怖で覆われていることが分かった。


「ちょっと待ってよ。嘘でしょ?え?どういうことなの?」


「その前に今までなんでこの町の状況を知らなかったんですか?道に……子供の死体なんかも転がってたろうし。血とかも。」


「私が見た限りそんなのなかったと思うんだけど……」


「え?」


その言葉に僕の顔も恐怖で覆われた。

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