第21話 田所さん
「それと今日の夜、田所さんの家に行こう。」
「田所さん?誰だっけそれ。」
「ほら、神主さんだよ。」
「あー。でもなんで?」
「神社の日誌見ただろ?田所さんの部分意味深な事書かれてたじゃねぇか?それ調べたいなと思って。」
「でも、神主さんも皆と同じようになってるでしょ?」
「いや、それはないと思うぞ。」
「え?なんで?」
「これ。」
健一さんは机の上に何かが書かれた付箋を置いた。
そこには「みんな、おかしくなってしまった。まともなのは私だけか?」の文字が見えた。
これは田所さんが呪いにかかっていない事実を紐付けている証拠だった。
狂った人はわざわざ自分が「まともなのは自分だけ。」なんて書かないだろう。
だってこの状況が普通に見えるのだから。
僕のお母さんもお父さんも、皆の家族も。
みんな狂ってしまったんだ。
「分かっただろ。」
「うん……。」
「神社って神聖な場所だろ?でも何も大事そうな物が置かれていなかった。証拠が日誌だけなんて有り得るか?」
「確かに。」
「で、田所さんの家を知ってる子は居るか?」
「白百合山の麓。」
この中で唯一宮司さんの家を知っていたのは加奈子ちゃんだった。
正直、僕達はただ秘密基地を作る許可を取って、たまに話すだけの仲だった。
だから家なんて知るはずも無かった。
「正確な場所分かるか?」
「貸して。」
彼女は健一さんの携帯を取って地図アプリで正確な位置を表示させた。
そこには木造でそこまで広くは無さそうな少しボロボロな家が表示されていた。
「ここか。」
「なんか意外。」
「な。」
「そうか?」
「うん。」
朝なのに影に包まれたその家だけは暗かった。
「ちょっと怖いんだけど……。」
「大丈夫大丈夫。」
「ここから凶器持って出てきたら僕死んじゃうよ。」
「大袈裟だなぁ!大丈夫だって、安心しろ。」
こんな状況じゃなかったら安心出来てたかもしれない。
でもこんな状況で安心できるわけが無い。
夜になって僕らは地図アプリのナビを頼りに田所さんの家らしき場所に行った。
相変わらず僕たちが歩く道に大人は居なくて、不思議なくらい簡単に行けた。
夜なこともあってか宮司さんの家は怖さが増していた。
一応チャイムを押してみるが、出る気配は無い。玄関の鍵は空いていた。
そこから入って神主さんを探したが彼は居なかった。
一番奥の部屋に日記らしきものとメモが置かれていた。
そのメモには僕たちが呪いを解く鍵の在り処を教えてくれたようだった。
「七月二十日、今日は佐藤君が儀式に使うものを触っていた。正直壊すんじゃないかと怖かった。かなり怒ったけど怒りすぎたかな? 」
「七月二十二日、アルバイトのみんなにあの道具は何に使うのか言おうと思ったけど、そんな簡単に扱える代物じゃないから言うのは辞めた。あれはいつまでも守り続けないと。」
呪いが降りかかった当日の日記は前日以前よりも乱雑な字で書かれていた。
「七月二十六日、なんか昨日変なこと書いてたな。最近子供見ないからみんな殺したんだろうなぁ。僕まだ一人も殺せてないんだけど。ねぇ誰かいないの?」
前のページも見ようとしたが、三日分の日記が破られていて見られなかった。
「異変が起きてからの三日分の日記がありません。」
「え、ほんとだ。よし、探すぞ。この部屋にはあるだろ。」
「はい。」
僕達はこの部屋を探し回る必要は無かった。
先にごみ箱を確認したからだ。
至って本人は普通に生活しているんだからごみ箱に捨てるのは別に不思議な事じゃない。
丸められた紙を開いて、日ごとに机の上に並べた。
「七月二十三日、なんであぁなったん。いみ分からんよ。まさか失敗したんか?うそやろ?さいあくや。」
「七月二十四日、みんな狂ってるわ。怖い。でもなんで僕は狂ってないんや?もしかして神様からのお許しか!?」
「七月二十五日、今日は買い物に行った。なんで家に隠れるように居たんだろうか。そういや子供の死体が転がってないのが不思議だなぁ。回収してどうするんだろう。異変から二日置いておくと流石に匂いがきついからかな。」
最初はパニックで漢字すら書けていない状態だったのに二十五日には今の自分の状況を不思議に思うほどだった。
でも、まだ異変の認識がある。
しかし、二十六日、それは完全に絶たれた。
この状況を妙に思うどころか「まだ僕誰も殺してないのに。」と書いてある。
宮司さんも最初はまともだったんだ。
「異変に完全に犯されるのに三日掛かったのか。でも他の人はすぐに犯されてたぞ?」
「呪いにムラがある?」
「そんなこたねぇだろ。呪いにムラがあったら重傷者も出てくるじゃねぇか?呪いを受けすぎると体に毒だからな。」
「そうか……。じゃあ宮司さんは一体どうして?」
「それは分からない。……先生も、もしかしたら最初は異変に犯されていなかったのかもしれない。二日目に犯されたとか。」
「それは無いと思います。先生は『何日も掛けて信頼を得ようとした。』と言ってましたから。」
「それはあとから考えついたとかじゃなくて?」
「僕は違うと思いますけど……」
「やっぱり呪いにムラがある。町の人達は目に付いた子供は逃がさずその場で殺してた。信用を得ようとも思わずに。でも先生は信用をある程度得てから殺そうとした。他の人とは違う。更に、田所さんは完全に異変に犯されるのに三日掛かった。これは呪いにムラがあると言っても良いだろ。」
僕たちが話し合っている間、元太がやたらと周りを見ていたのが気になった。
「どうしたの?」
「俺らがここに来た本当の理由ってなんだっけ?」
「えっと、あぁ呪いの証拠を見つけることだ。」
「話は終わった?」
僕達は顔を見合わせた。
「うん、終わったよ。」
「よし、じゃあ探すぞ。」
僕達は部屋を探し回った。
しかし、この部屋には無かった。
僕達はこの家を隅から隅まで探し回った。
「あ、あった!」
「え!?見つかった?」
「どこかの鍵。」
「鍵か……。」
「でもそれ確実に必要になってくるだろ。一応持っておけば?」
「それもそうですね。持っておきます。」
証拠と共に鍵の使う場所を探して回った。
この家は一階建てでそこまで広くはなかった為、案外すぐに見つかった。
「みんな!見つけたこれだ!鍵を使うところ!」
「え!?見つけた?」
声がした部屋は書斎のようだった。
本が沢山あって、その中に証拠があるのじゃないかとチラッと見てみたが、全て趣味本という感じだった。
僕達は元太君が見つけた埃の被った箱と鍵を持った彼を取り囲んだ。
「良い?開けるよ?」
「うん。」
何が入っているのだろうかと鼓動を飛びあがらせながら息を呑む。
――ガチャ。キー……
「なんだ?これ。」
「これは……紙?何か書いてあるね。」
そこには「これを読んでいる方へ。何か困っている事があるなら園城寺さんの所へ行くといい。助けてくれる。」と書かれていた。
「園城寺?園城寺……」
「あ!山の上に住んでるお金持ちの!」
「そうそう!それだ!でも園城寺さんの所に行っても彼も異変に掛かってるでしょ?」
「……そうなるね。」
「罠?」
「呪いのムラ。」
「もしかすると犯されない人もいるとか?俺は別の町から来たばかりだからそもそも犯されなとして、もしかするとこの人だけは無事なのかも。他の人はみんな無事じゃないらしいからな。」
「……そこに行けば呪いについて知れるも同然。」
「そういうことになるな。」
――行きますか。
――おう。
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