第20話 儀式と祭り
二人は一緒に行動はしていなかったし、これがただの勘違いだといいのだが。
部屋に帰ってきて僕たちは話をまとめた。
「それで、何か見つけたか?」
「見つけたのは日誌のみです。何らかの形で儀式が行われているということと、その儀式に使う道具が倉庫にあるということが分かっています。」
「他に何か見つけた子は?いないか?」
皆が顔を見合わせた。
どうやらこの情報のみしか手に入れることはできなかったらしい。
「……そうか。じゃあそろそろ眠くなってきたし寝るか!」
「え?」
「お手洗い借ります。」
「あ、おう。」
加奈子ちゃんがトイレに行った後の玲音君の表情に違和感があったのを誰も気づけなかった。
彼の口数は神社で探し物をし終えた時から少なくなっているのは明らかだった。
僕でもわかる。
一緒の方向から歩いてきた二人に何かがあったのは確実だって。
でも本人が何も言わない限りは真相を知ることは出来ないだろう。
そんなことを思っていると健一さんがいつもの部屋の隅にいってパソコンを開いた。
何か調べ物でもするのだろうかと少し見ていると、加奈子ちゃんがトイレから戻ってきた。
彼女もまた何も発さずただただ座っているだけだった。
「よし、俺寝るわ!」
「え?あ、あぁおやすみなさい。」
相変わらずの健一さんは座布団を枕代わりにして寝転んだ。
僕達も少ししてから眠りについた。
恐怖の中で繰り返し訪れる朝。
空も地も空気も何も変わらないのに町だけは恐怖に自ら入っていく。
子供が殺されていること以外は普段と何も変わらない日常を大人たちは過ごしている。
いや、何も変わらないといえば噓になるであろうか。
包丁やのこぎりなんかを持っている人が増えた。
最近は子供を見かけることがないのか、凶器を持つ人は減っている。
そんな日々を当たり前のように過ごしている自分が恐怖である。
青百合山では祭りの準備のためかたくさんの人が出入りしているのが窓から見えた。
僕の推測通り祭りの後、儀式が行われているのかも知りたい。
まつりが開催されるまでは後七日。
それまでに儀式についての真相を突き止めておかなければ。
「うぅ……おはよう。」
「やっと起きましたか。」
「え、今何時よ。」
「八時です。」
「全然早いじゃねぇかよ。」
そんな他愛もない会話で朝が始まった。
起きてすぐに着替えてコンビニに向かった健一さんが帰ってきて、朝ごはんを食べた後、これからどうするかについての話し合いが行われた。
「さて、これからどうする?」
「突き止めるべきことはまだまだ沢山あります。祭りと儀式の関係性に、祭司さんが日誌で言っていたこと。後一週間でこれだけのことをしなくちゃいけないんです。どうするつもりなんですか。」
「後一週間か……。正直厳しいな。てか、もし七日の機会を逃したら俺らどうなるんだろうか。」
「また一年今みたいな生活が待っているんじゃないですかね。そんなの絶対に避けないと……」
「そうだな。」
「君たちもなるべくこの町を探索したいだろうから大人に小型通信機を埋め込むってのはどうだ?」
「小型通信機?そんなもの何処で手に入れるんです?」
「もうあるんだよ。」
「え?」
「……実はな、俺は記者の仕事だけをやってるんじゃないだ。本業は小型通信機を製作してる会社に勤めてるんだ。記者はアルバイトみたいなもんさ。前まで記者一本でやってたんだけど、やりたい事が他にも見つかってさ、この仕事も気に入ってたしどうしようかと思ってた時に、今務めてる会社が副業大丈夫だったから、そっちに入って記者の方もアルバイトですることにしたんだよ。で、今回この地に調べに来るついでに試作品も売れたらいいなぁと思ってな。あ、因みに売るって金銭の方の意味じゃないからな。」
「へぇ、そんな凄い人だったなんて知りませんでした。」
「だから俺の事馬鹿だとかなんとか言ったやつは前言撤回しろよな〜。」
「因みにこれは体に入れるタイプな。」
「ということは……」
「そう、俺は医師免許も持ってる。じゃないと違法になっちまうからな。まぁ医療系免許持ってたら出来るけど。俺意外と頭良いんだぜ?ま、変人だとよく言われていたがな。」
人の事を言えたことでは無いが、僕も彼の事は少し馬鹿なんだと思っていた。
でも、こんなに凄い人だなんて思いもしなかった。完全に手のひら返し状態だ。
「で、もちろんこんな状況下で小型通信機を埋め込みたいやつなんて居ないわけだ。だから、秘密でぶち込む。」
「それ、違法じゃ……」
「この状況で違法とか言ってる場合か?」
確かにそうだ。もう壊れてしまったこの町には法律など通用しない。
だから殺しても捕まらないし。
警察でさえも子供を殺している。
何の罪にも問われない。
果たしてここは日本なのだろうか?増してや地球では無いのでは?異空間?
「でもどうやって?」
「皆を集めるのは難しいかもしれないが、伝染病が流行ってるとか何とか言ってワクチンを受けさせに来るしか無いかもしれない。」
「何処で?」
「診療所。調べてみたら、この町に診療所があるらしいじゃねぇか?そこでやる。」
「ワクチンはどうするんです?」
「体に入れても害のないものを使う。もしそれが診療所に無かったり足りなくなったら、薬局に行けば置いてあるだろ。で、それと一緒に小型通信機を埋め込む。それが無理そうなら肌に貼り付ける。この大きさじゃ気づかねぇだろ。それから注射器は消毒して使い回し。本数限られてるからな。で、薬局あるよな?」
「薬局はあります。」
「よし、完璧だ。『この町でも感染者が出た。』って言っておけば大体の人は来るだろ。噂を流しやすい人に行っておけば1発だよ。」
「変わりようが凄い……」
「え?」
「今まで何も考えて無さそうだったのに……」
「お?黙れ?」
真剣な空気が彼の一言で和んだ。
僕達はその後も作戦を話し合った。
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