鍵の掛かった保健室
「ち、近寄るな!」
恐怖感でつい年上の人なのに怒鳴ってしまった。
歩み寄ってくる彼女に包丁を向けた僕を見ると、彼女は両手を上げて驚いた表情で立ち止まった。
「ちょっとちょっと、待って!何もする気は無いよ。ただ怪我が無いか確認したかっただけなの」
「本当は?僕を殺そうとしたんじゃないの?」
「本当にそれだけ!町があんな状況だから何も無いか確認しようと思っただけ。ごめん、怖かったよね」
彼女もまた高木さんのように襲ってこなかった。
もしかすると彼女も異変には犯されていないのかもしれない。
しかしそう簡単に信用する訳には行かない。
「そっか。一つ聞きたいんだけど、僕たちを殺せるようなもの、何か持ってる?」
「何も持ってないよ、ほら。」
ラテ色のコートの裏返されたポケットの中には何も入っていなかった。
ジーンズの狭いポケットの中にも何も入らないだろうし本当に何も持っていないのだろう。
となると信用するべきなのだろうか。
皆の元に逃げても僕の体力じゃすぐに追いつかれてバレてしまう。
今はこの学校で安全に捜索する為には信用しておいた方がいいのかもしれない。
「……少しだけ信用するよ。」
「え?少しだけ?まあ仕方ないよね。取り敢えずゆっくりでいいからね。」
少し笑いながら先生は言った。
「ねぇ、一人だけで来たの?」
「うん、一人で来た。」
僕は嘘をついた。こんな状況では嘘をつく方が有利になるだろうから。
「そうなの……。まぁここまでお疲れ様。保健室で休むといいわ。職員室には他の先生方もいらっしゃって危険だから。」
まだ確実に信用したわけではないがほかの大人にばれないところで休ませてくれるというのは嬉しかった。
「着いてきて。」
「待って先生、殺さないよね。」
「大丈夫よ、安心して。」
今は素直について行くしかないようだ。
ここで逃げることもできるのだが僕は情報を集めたい好奇心の方が勝ってしまった。
素直に先生についていって保健室に入った。
すると先生がドアの鍵を閉めた。
「なんでカギ閉めたの?」
「他の先生に入ってこられたら困るでしょ?」
「あ、あぁ……。」
先生は自分の仕事机に腰掛けた。
しばらく待ってみても特に何もしてこなさそうなので色々質問をしてみることにした。
「先生、なぜ僕を助けてくれたの?」
「子供たちがこんな目にあってるんだもの。一人でも多くの子供を助けたいでしょ?」
「なんで先生は異変にかかってないの?」
「それは分からない……神様から選ばれたのか何かの条件を持っていたからなのか。」
「そっか。そういえば先生は何かされた?皆みたいに異変にかかってないわけだし。」
「いや、私は大人だからか何もされなかったよ。」
「他に子供はいた?」
「……今のところは見てないな……。」
「そっか……。」
「いや、でもきっとどこかに隠れてるからだと思うよ!だから安心しよ!ね?」
「うん……。」
先生は僕に気を使って言ってくれているのだということは、流石の僕でも気づいていた。
「先生、何か異変のことについてわかることない?知ってることとか」
「特に何もないなあ。ごめんね」
「いや、いい。ありがとう。あ、そうだ。ちょっとトイレ行ってきてもいい?」
「え?良いけど……見つからないようにね」
「うん」
僕は保健室の扉の鍵を開けて左右を確認し、トイレへと向かった。
後ろに誰もいないのを確認して僕はトイレを通り過ぎ、別校舎の階段を上って皆がいる方へ向かった。
――コンコン
玲音君が静かに窓からこちらを見ていた。
彼はびっくりしたような目をして急いで扉を開けた。
「しゅう!帰ってくるのが遅かったから心配してたよ……」
「しゅーちゃん!」
そう言いながら美鈴ちゃんは僕に抱き着いてきた。
「ちょ、ちょっと美鈴ちゃん……」
「心配したんだから……」
「……ごめんごめん」
僕は美鈴ちゃんを再度扉にそばに座らせた。
「しゅう、何してたんだ?」
「見見回りだよ」
「にしては遅すぎるんじゃないか?」
「……そうだよね」
先生のことは皆にも言わない方が良いだろう。
――ガラガラ
「……え。」
教室の扉を開けたのは先生だった。
暗い教室から見る先生は影に蝕まれていて恐怖だった。
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