やっと自分らしいことが

今にも崩れ落ちそうだが意外と頑丈な階段を下りて商店街へと向かう道中、考えていたことがある。


この町の子供は、本当にあの子達以外全員いなくなってしまったのか。


異変が戻ったらこの町はどうなるのだろうか。


子供を自分の手で殺めたことを知った大人の反応は。まさか殺めたことすらも気づかない?


様々な意見が脳内を駆け巡った。


そんなことを考えているうちにいつの間にか商店街についていた。


「あ、あのすいません。」


「おう、らっしゃい!なんや?」


「おすすめの魚ありますか?」


最初は何気ない会話から。

記者の俺なりの鉄則である。


こうすることで油断しきった相手は警戒心が強くない限り、情報を喋ってくれる。


「今の時期は牡蠣かなぁ、クルマエビもおすすめやで。」


「じゃあそれを2匹ずつお願いします。」


「はいよ、まいどあり!」


少しばかり金を掛けないと情報は渡してもらえない。


少しそこが痛いところではあるが、我慢するしかない。


そして自分も狂っているのを演じないといけない。


正しくは狂っているがそれが普通だというのを演じないといけない。


情報を聞くには金と演技力が必要になってくる仕事だ。


必要ない場面もあるが。


「あの、お名前聞いてもよろしいですか?」


「え?あぁ、木野だが?どうして?」


「この町に来てあまり時間が経っていなくて。誰が誰かもわからない状態なので名前を聞いておきたくて。」


「なるほどな。」


「はい、ところで木野さん。誰か殺せましたか?」


「あぁ、商店街沿いに住んどる子供を四、五人ほど。向井さんと一緒にな。」


「凄いですね。で、その向井さんというのは?」


「あそこの建築会社の大工さんだよ。あいつが居たから手こずらずに殺せたんや。」


「へぇそうなんですね。そういえばそれから子供は見ましたか?」


「俺らが殺し終えて、商店街入口付近で休憩しちょる時に皆が殺してるの以来見てないなぁ。誰か生きとんのか?そいつらは殺したん?」


「いえ、恐らく全員殺してると思います。誰も見ていないので。」


「そうか。」


木野さんはさっきおすすめししてきた魚をビニール袋の中に詰めて袋をくくった後俺に渡してきた。


そして俺は魚屋を離れ彼の元へと向かった。


「あの…向井さんいらっしゃいますか?」


別の部屋にも聞こえるくらいの声量で呼んでみたが、出てくる気配はない。


もう一回呼んでみると奥の部屋から髪をぼさぼさにした男性がやってきた。


「向井さんですか?」


「あぁそうだが。なんや?」


彼は身長が恐らく百八十センチ越えで俳優に居そうな顔立ちの男性だった。まるでイケおじ。


作業服を着て、頭にタオルを巻いていた。


汗もかいているが、まるで俳優のように汗でさえも輝いていた。


「先程木野さんのお店で魚を買ったときに向井さんと一緒に子供を殺したというお話を聞きまして。色々お尋ねしたいなと。」


「記者はお断りや。」


「記者じゃないんです。……一人も殺せてなくて、もし子供がいたら殺せるようにコツなんかを教えていただけないかなぁと。」


「……質より量をこなせ。動けなくしておいたら後はこっちのもんや。」


「有難うございます。それにしてもなんで子供を殺すようになったんでしょうね。」


聞き手のとらえ方によっては疑われても仕方が無い回答を一か八かで聞いてみた。


「――本能。それ以上は何も言えんわ。」


「本能……ですか。ありがとうございます。」


もうこれ以上は聞き出せそうにもないだろうと思った俺は会釈をして出入り口の扉を開けで出ようとした。


その時、扉と俺の間に彼が入ってきた。


――なんでそれが知りたかったん?


彼のその発言、表情はあまりにも人間離れしているというか……心を恐怖で飲み込まれてしまいそうになった。


「……別の町から来て、まだここのことも分からないし、子供も殺せてないし。ここに越して来て一番通ったのが商店街だったので、商店街に行ったら何か知れるかなと思いまして、それで。」


冷静に、動揺しているのを見せると余計怪しまれる。


目を合わせないように心臓の鼓動を鳴り響かせながら言った。


「そうか。でもそれ以上は聞くなよ。根まで知ろうとするな。神様に祟られるぞ。ほらさっさと行け。」


俺の目の前からいなくなったと思ったら背中を押され外に追い出されてしまった。


彼は勘が鋭いのだろう。


これからの行動には気を付けないといけない。


そう思いながら次の店に向かった。


この店はどうやら電気屋のようだ。


中に入るとすぐそこにトランシーバーが六個あって俺はそれを取ってレジへと持っていった。


「あの、すいませーん。」


レジに向かったが誰もいなかった。


呼びかけてみるとすぐに店長らしき人が出てきた。


「あ、ごめんね〜今はちょっと忙しくて店開いてないんだよ〜。」


「そうでしたか。」


「あ、それ欲しいの?」


店長は俺の持っているトランシーバーを見ながら言った。


「買おうかなと思ったんですが、開いてないなら良いです。」


「いや、レジ通すよ。ありがとね。」


「あ、良いんですか?お願いします。」


電気屋のおじさんはひとつずつ丁寧にバーコードを照らしながら横に並べていった。


「あの……お名前聞いてもいいですか?」


「え?あぁ内山だよ。」


「あの内山さん、なぜ忙しいのか聞いても?」


「あぁ、あれでな。」


「あれ?」


「子殺し。」


「あぁ……。」


「後それと七日にお祭りがあるだろ?その祭りの準備中でな。」


「お祭り?」


「知らんのか?」


「はい、この町に来たばかりで。」


「いつ?」


「二週間ほど前ですかね。」


「そうか。この町では毎年八月七日に神様を祀るお祭りをするんだよ。」


神様を祀るお祭り。もしかすると彼が言っていた事と関係するかもしれない。


「へぇ〜そうなんですか。どんな神様なんです?」


「まぁこの町を見守る神様って感じかね。」


「そうなんですか。」


「まっ、これ以上は自分で調べてみてくれ、な。」


「あ、はい。ありがとうございました。」


「おう。あ、これ。……渡す前に一つ聞いていいか?なぜこれを?」


恐らくトランシーバーのことだろう。

確かに今の状況には必要ないだろうから。


「えーっと、子供心を楽しみたいというか。」


「子供を探しながら?携帯があるのに?」


「えぇ、まぁ。」


笑いながらそう言ったが正直今この話題をだすのはまずかったかもしれない。


しかし彼は納得したのだろう。


六個のトランシーバーを袋の中に入れて、俺に渡してきた。


「そうか。」


「あ、ありがとうございます。」


「はーい、ありがとね〜。」


その店を出て俺は交番へと向かった。


ある事を確認したいからだ。


「すいませーん。」


「はいー?」


「あの、子供殺せました?」


「え?あぁ、はい。まぁ」


「どうやって殺したんですか?僕まだ殺せてなくて……。もしまだ子供がいたらその時に殺せたらいいなぁと思いまして。」


「うーんそうだなぁ。僕、銃持ってますからねぇ。それでパンパン撃てば良いんですよ〜。で、他に質問ありますう?」


「ここに変な事言ってる人来ました?例えば、狂ったとか、異変だとか――」


「うーん、来なかったかなぁ。」


「そうですか……ありがとうございます。では」


「はーい。」


俺はそのまま家に帰った。


「ただいま、良かった。みんなまだいた……。」


「健一さんが帰ってきてから行こうと思ってたので。で、どうしたんですか?」


「これ、連絡手段。」


皆にトランシーバーを渡した。


「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます。」


「おう、気をつけてな。」


小さな戦士達が部屋を出ていく勇敢な姿は輝いて見えた。

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