高木さん

僕が困惑していると彼女が唐突に口を開いた。


「この人、異変には侵されてないけ。安心していいと思う。」


「そうなんだよ、この町で俺だけが正常みたいで」


「本当に?嘘ついてない?」


僕たちが立ち止まっているのに気が付いたのか、少し前を進んでいた三人が僕らが立ち止まって誰かと話しているのに気付いたのかこちらにやってきた。


「……今は大人を信用した方が何かといいと思う。」


玲音君は僕とおじさんの目を見ながら言った。


「とりあえず中で話でも聞かせてくれ。大丈夫、何もしないから。」


「それよく犯罪者が言うセリフですよ。これ以上疑われたくないんだったらそういう発言やめて下さい。」


「はいはい」


彼はアパートの方に歩いていった。


僕らはまだ信じ切ることができていない彼の跡をついて行った。


第二区の最後の住宅街は見た事がなかった。小学校に行くためだけに使う道のすぐ側の住宅街からわざわざ帰るような真似はしない。


彼はその住宅街の中にある少し古めのアパートに暮らしているらしい。


「さ、あがって。適当に座っといて」


その人はお茶を紙コップの中に入れてお盆の上に置き、僕たちのもとに持ってきてくれた。


「ありがとうございます。」


「で、なにがあったのか教えてくれないかな」


「話していいのか。」


「良いと思う。」


冷たい声で加奈子ちゃんはそう言った。


すると玲音君が話し始めた。


「そういえば名前を聞いていませんでした。あなたのお名前は?」


「高木健一、記者だ。東京から来た。よろしく」


「僕は玲音です。左から元太、美鈴、俊祐、加奈子です。」


「よろしくお願いします。」


「ああ、よろしく。ところで一ついいかな。」


「なんですか?」


「なぜ彼女は僕を信用してくれているのだろう。」


健一さんは加奈子ちゃんを見ながら言った。


加奈子ちゃんは健一さんを冷たい目で見ている。


「他の大人とは違う、そう思っただけです。」


「そうか、もしもの話なんだが僕が君たちを襲ったらどうする?」


「辞めてくださいよ。そんな事」


「大丈夫だよ。嘘だよ嘘。そんなことしないよ。」


「怖いことを言わないでください。」


「あぁ、ごめんごめん。気を付けるよ」



「そうか、まぁでも安心してくれ。俺は襲う気はない。それにこの町にはとある取材をしに来ただけだ。気にするな」


「取材?この町には特にそれといった事件はないはずですが……。」


「君たちはまだ知らないだろうな。昭和に起こった事件なんだから。昭和、この町でおこったとある事件について調べに来たんだ。」


「へぇ」

僕らに昭和のことがわかるはずがない。僕らはその話を軽く流した。

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