信用
「!?加奈子ちゃん!危ないよ……!隠れて!早く!」
必死に彼女をこの場から引き離そうとするが、彼女が動く気配は全く無い。
耐えられなくなった僕が手を引いて走ろうとすると逆に手をつかまれた。
「危険じゃないよ。」
「え?……あ、まずい……!」
僕の足音だろうか。あの大人がこちらに気付いた。こちらに近づいてきている。
「加奈子ちゃん……!早く!」
それでも彼女は全く動こうとしない。僕も動けずにただ彼女とその場にいることしかできなかった。
「どうした。がきんちょ。」
その男は髪をぼさぼさにして目をこちらに向けている。
「加奈子ちゃん!」
早く動いてくれ!そう思っているのに彼女には一つも届かない。
「どうした?」
「何でもないです!行こ、加奈子ちゃん!」
「ねぇ、おじさん」
やっと口を開いた時、彼女は大人に話しかけた。
「俺、そういう歳じゃないんだけどなぁ」
「……」
再び彼女はそれだけを言って黙ってしまった。
君にしか分からない何かがこの人にはあるのだろうか。
しかし、そんなことを考える暇もなかった。
「あ、それより大変だっただろ?上がっていったら?」
「いえ!大丈夫です!」
僕は一刻も早くこの場から離れたかった。
この最悪な状況に、彼女はなぜこの場を離れようとしないのかを不思議に思う事しかできなかった。
「信用できないよなぁ、仕方ないよ。あんなことがあったんだから。俺も最初は信じたくなかった」
「しゅう……信じていいと思う」
「え?」
なぜ彼女はこの人を信じられると思ったのだろう。
なぜ今この状況で大人を信じることが出来る。
確かにこの大人はまともに喋れるし襲ってこない。でもなぜだ。なぜなんだ。
その自信は一体どこから来るのだろう。
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