第7話 危険な行動

「しゅうちゃん?いる?いるんでしょ?出てきて。ねぇ出てきて。外があんな状況で怖かったよね。もう大丈夫だよ。どこにいるの?ここ?どこ?」


閉め切った窓の中なのに聞こえてくるほどに布団を強くめくりあげて、僕を探しているお母さんの声が聞こえてくる。入る隙間もなさそうなクローゼットの中も、すぐに見つかるであろう机の下も音を強く立てて探している。


一見心配しているように聞こえたお母さんの声はそんな感情など微塵も籠っているようではなかった。


僕を誘い出すかのように声をかけて部屋中を探し回っている。


僕が隠れられそうな場所を必死に虱潰しに探しているのだろうか。


「いないのね」


そう言ってお母さんは部屋を出て言った。


僕の姿は確認されていないようだ。


そのまま音をたてないように慎重に真下にあった室外機の上に乗り、庭に降りた。


降りれたのは良いもののここからどうやってみんなの元まで帰ろうかと考える。


入ってきた庭から出るとなると、リビングの大きな窓があるから見つかる確率が高い。


玄関側は道路があって大人がたくさんいる可能性がある危険だ。


果たしてどう進めばいいのだろうか。


それにここまで来たのならもっと収穫しておきたい。


そう思った僕はダイニングテーブルのに上に置いてある携帯をお母さんが居なくなった時に取りに行こうと思い、窓付近まで迫って壁に身を潜めた。


バレてしまわないように徐々に部屋を覗きながらお母さんが居ないかを確認した。


お母さんは先程買ってきた食材を冷蔵庫に入れている途中だった。


食材を入れ終わるとバッグを持ってどこかに行った。恐らく部屋に置きに行ったのだろう。


今、リビングには誰も居ない。


行くなら今のうちだろうが、流石にバッグを置きにいっただけであろうお母さんがすぐに戻ってこないという保証は無かった。


案の定、すぐに戻ってきた。


恐らく子供部屋にバッグを置いたのだろう。


どちらにせよ今行っていたら危なかった。


僕はお母さんがトイレに行くタイミングを狙うことにした。


二階に行ってくれたらありがたいのだが、ずっとリビングにいるとなるとトイレに行くタイミングを狙った方が確実に携帯を取る事ができるだろう。


午後二時十分。お母さんがソファーから立ち上がって何処かに行った。


いない隙に音が聞こえるよう少しだけ窓を開けた。幸いにも鍵は掛かっていなかった。


バタン――。


扉を閉める音がした。


左の方から聞こえたので恐らくお手洗いに行っただろう。


行くなら今のうちだ。


僕は静かにドアを開け、心臓の鼓動が鳴りながらも静かに歩いて携帯を取り、庭に戻って窓を閉めた。


携帯を取り終えても心臓の鼓動は収まらなかった。


携帯が無いことに気付かれないようにお母さんが帰ってこないうちに急いでフェンスを登って庭から出た。


幸いにもフェンスを登る時に音は鳴らず、道にも人は居なかった。


予定時間より少し遅くなってしまったため急いで帰ることにした。


しかし、子供が走る音は分かりやすい為走っては帰れない。


より最短ルートで早歩きで帰ることにした。


お母さんの携帯を握りしめながら、早歩きで見つからないように身を潜めながら無事駐輪場まで帰った。


駐輪場からは特に人の気配が感じられなかったので秘密基地まで歩いた。


帰ってきたと思ったのだろう彼女が上から呼びかけてきた。


「おかえり!しゅーちゃん!良かった……無事だったんだね」


僕はロープでできた不安定な梯子を登って秘密基地の中に入り安堵した。


「おかえり!しゅう、どう?収穫あった?」


僕はリュックから集めてきたものを全て取りだし皆の前に並べた。


「すげぇな。」


「救急セットにお金、包丁まで……。」


「それからこれも。」


そう言って、僕はお母さんの携帯を差し出した。皆は案の定驚いていた。


まさか携帯まで持ってくるとは思っていなかったのだろう。


「それ、お母さんの携帯でしょ?なんで。」


「いない隙に取った。」


「でも、そんな危険な事……それに携帯にはGPSが付いてるんだよ。居場所がバレちゃう。」


「大丈夫だよ、追跡モードを切ればいい。」


「でもパスワードが分からないじゃないか。」


「それも大丈夫、前たまたまパスワードを打つところが見えたんだ。記憶が正しければ開くはずだよ。」


僕は自分の記憶を頼りに六桁のパスワードを打ち込んだ。


するとロックが解除されてホーム画面が表示された。


急いで僕は設定からGPSを解除し、再び携帯を閉じた。


「ちょっとノートと鉛筆貸して。」


忘れる可能性のあるパスワードをノートに書いて、玲音くんの手提げ鞄の中に入れた。


「……」


皆は何も発さず目を泳がせて動かなかった。少ししてから皆が目を合わせて玲音くんが口を開いた。


「ありがとう、こんなに沢山集めてきてくれて。でももうこんな危険な真似はしないで。」


「分かったごめん。もうこんな真似はしない。」


流石に携帯を持ってくるとは誰も思っていなかったようだ。


パスワードが分かり、GPSを切ることが出来たから良かったものの、もしパスワードが分からずGPSを切れなかったらと思うと、先程の行動も嘘かのように怖くなった。


皆にも迷惑が掛かるし心配もさせてしまう。


もう、こんな危険な事は絶対にしないでおこうと決めた。


「でも、本当にありがとう。沢山物資が手に入ったし、思いの外連絡手段まで手に入った。と言っても大人に連絡は出来ないけどね」


そう言って玲音君はほほ笑んだ。


後に続き皆もありがとうと言ってくれた。


僕は何回も謝った。ピリついた空気になったその場は嘘かのようにいつもの穏やかな空気に戻っていた。


この後玲音君と元太君が自販機に行って水を買ってきてくれた。


「ありがとう」


「いいよ全然、むしろこっちが感謝しなくちゃだから」


僕達は少しだが水とお菓子を食べながら、充電がなるべく減らないように携帯を使って何か情報が無いかを探した。


しかし、何も情報は無かった。


そこからは夜まで何事も無く過ごした。夜になるとまた美鈴ちゃんが日記を書いていた。



「八月二日。

今日はしゅーちゃんがぶっしを集めて来てくれた。私もみんなも喜んでた。水とおかしときゅう急セットとけいたいを手に入れた。

・明日は皆で安全な場所がないか探索をしに行く」


今日も星が綺麗だった。明日は昼のうちに話し合って皆で探索をしに行くことになった。また玲音君が見つかりにくいであろうルートを考えてくれてそこから行く事になった。そして寝る前に荷物をまとめて置いておくことにした。まだどこを目指すかは決まっていないが、何も危ない事が起きないのを願う。

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