第6話 お母さん?

窓から入ってくる鳥のさえずりと太陽に照らされる葉の影で目を覚ました。


そばにあった玲音君の腕時計を見てみると、針は午前八時過ぎを指していた。


「おはよう……みんな。」


「あ、おはようしゅう。」


「おはようしゅーちゃん。」


それだけ言って二人は商店街の方へと顔を向けた。


「なんで二人とも商店街のほうを向いてるの?」


「みんな凶器を持ってるから見つからないか心配で。」


「なるほどね。でもよくよく考えれば、こんなに開けている場所にあるのに見つからないのって不思議だよね。」


「開けているけど一応裏道だからね。それに山の麓だし。葉っぱにも隠れてるし。まさかこんなところに誰かがいるとは思ってないと思うよ。けど、一応見張っておく必要があるんだ。情報も集められるし。」


「なるほど。」


彼は頭の回転が速くて僕には思いつかないことも簡単に思いついてしまう。


何も取り柄がないこんな僕と友達になってくれたことに感謝したいと思う事は沢山あった。


「あ、それ適当に食べてね。僕が持ってきたものでも無いのに、この言い方は悪いけど。」


「どれくらい食べてもいいかなんて僕には計算出来ないからありがたいよ。」


「そう? それなら良かった。」


今日、新しい物資が手に入るから皆にも少し余裕があるのだろう。


全ては僕にかかっている。頑張らないと。


「今日の何時頃に出発したらいい?」


「あぁ、言ってなかったね。家に誰もいない時になるべく行きたいんだけど、しゅうのお母さんって大体何時頃に家に居ないとか知ってる?」


「大体一時半くらいかな。」


「分かった。じゃあその時間に行こう。」


大人が僕たち子どもを殺している。


この中にはお母さんも入っているのだろう。

もちろんお父さんも。


いったい何が原因でこんなことになってしまったのかは誰にもわからない。


今日の朝は特にすることはなく、ルートが安全に行けるかどうかの最終確認と街の状況確認であっという間に時間が過ぎ、出発時間を迎えた。


「それじゃあ行ってくるよ。」


「いってらっしゃい。しゅう」


「気を付けてね……。」


「うん、大丈夫。無事に帰ってくるよ。」


僕は自分のリュックを持って秘密基地を後にした。


玲音君が書いてくれたよく出来た地図を力強く片手に握りしめながら物陰に身を潜めて進んでいく。


そのまま何事もなく進んでいき、裏道に差し掛かった時、声をかけられてしまった。


「誰かそこにいるの?」


その瞬間、頭痛に襲われた。


こんな状況で頭痛を気にかけている暇は無いと思った僕は、見つからないように息を殺してその場をやり過ごした。


見つかったら終わりだ。

その言葉だけが脳内を駆け巡る。


心臓の鼓動の音が漏れ出ているのではないかと気が気ではなかった。


少しすると、足音が去っていくのが聞こえた。


見つからずに済んだことに安堵し、体制を整えてまた進んだ。


そこからは山沿いの一本道を通るだけで見つかる心配はなかった。


反対側から人が来ないかが不安だったが、心配する必要は無かった。


家までの一本道を歩ききって、そうこうしているうちに自分の家に着いた。


家の塀は幸いにもフェンスだったため簡単に中の状況が確認でき、簡単に上ることができた。


しかし、入れたは良いものの屋根かリビングの窓どちらから行こうか迷った。


裏口なら、もし家の中にお母さんがいた場合バレるかもしれないし、逆に屋根からは目立ちすぎるかもしれない。しかし悩んでいる暇はない。


一か八か、僕は裏口から行くことにした。


先に一階から探索しておけば、仮にお母さんが帰ってきたとしても二階の窓から逃げることができるかもしれない。


ゆっくり裏口のドアを開け、家に入った。自分の家なのにまるで強盗をしている気分だ。


初めに玄関付近になにかないかを調べることにした。


玄関付近を先に調べていたら万が一帰ってきても逃げ道の確保は出来る。


見つかる可能性も下がるはずだ。


玄関から見て右の部屋は子供部屋のような感じで、玩具やお母さんが使うものが置いてある。


この部屋を普段使いはしていない。


「これ使えるかも……。」

その部屋で使えそうなものは特になかった。でもお母さんの日記は見つけた。異変が起きる前、何があったのかわかるかもしれない。


「七月二十三日……」


そこに書いてあったのは、僕が友達を家に呼んで一緒に遊んでいた。という内容のみで、異変に関する事は特に何も書かれていなかった。


という事は、恐らく前日もみんな普通に暮らしていたということになる。余計に謎が深まるばかりだ。


次はリビングへ行った。


リビングでは懐中電灯と救急セットの中に入っている絆創膏と消毒液、鎮痛剤を手に入れた。


その後は武器になりそうなものを探しに台所へと向かった。


戸棚からリュックに入りきるくらいのお菓子を取ったあと、下の戸棚にあった小さめの包丁を手に取り、このままだとリュックが破けてしまう可能性があったため、戸棚にしまってある包丁が入っていた箱に包丁を入れた。


一階は一通り探索し終えたので階段を上って二階へと向かった。


二階にはお母さんとお父さんの部屋、仕事部屋、僕の部屋がある。


現在時刻は午後一時五十分。まだ十分に時間はある。


一応全ての部屋を見ておこうと思い、一つずつ探索することにした。


お母さんとお父さんの部屋、仕事部屋には特に何もなく、僕の部屋に行った。


貯金箱の中身と使えそうなものをリュックの中に急いで詰め込んで部屋を出て、階段を降りようとした時、玄関の扉を開く音がした。


僕は急いで自分の部屋に戻ろうとした。

急いでいたからか、自分の家で安心しきっていたのかは分からないが廊下の音が鳴ってしまった。


うちの廊下は誰かが通らないとならない為、恐らく僕がいることがお母さんにばれてしまった。


僕はそこからは静かにしつつも急いで部屋に戻った。


「しゅうちゃん?おかえり。帰ってきてたの?」


そう言いながらゆっくりと階段を上がってきているお母さんに見つからないように隠れ場所を探す。


ベッドの下は入れないし、クローゼットは見つかってしまいそう。


となると屋根の上。窓をゆっくりと開けて屋根に上り、再度窓を閉めて壁に身を隠した。


かすかに聞こえるお母さんの声がまだ遠く聞こえるうちに窓を覗き、置き忘れたものはないかを調べる。


特に、居た事がバレそうになる形跡やものはなかったのでそのまま壁に隠れてやり過ごすことにした。


鼓動が外にも聞こえているんじゃないかと気が気では無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る